異世界メモリアル【6周目 第9話】
「巷で大人気のイケメンは君っすか!? って間違いないじゃん!? うわっ、カッコイイ!?」
美術部でモデルをしている俺を訪ねてきたのは、もちろん新聞部の次孔律動さんだ。部活で活躍すると出会うことが多い。
「うわー、うわー。かっこいいよぉ」
目をハートにして、腰をグニャングニャンさせている。やはり、容姿最優先でやってきた俺に間違いはなかったっ!
「実は俺、次孔さんのファンなんですよ。いつもラジオ聞いてます」
そう言って俺は歯をキラーンとさせて笑う。夏休みのバイトで買ったアイテムによる効果だ。
「ええ~、嬉しい~。一緒に写真撮りましょ~?」
「ははは、光栄ですよ」
「やった~」
次孔さんが俺の知っている次孔さんじゃない。完全に俺にメロメロだ。
「ちょっとちょっと、ロト様は今モデルをしてんだけど。邪魔しないでもらえる?」
「は? 新聞部はロトさんに取材に来たんですけど。あんたは関係ないでしょ」
「ここは美術部じゃろがい! 部活動の邪魔すんなパパラッチが!」
「うっせーブス!」
「んだと、このビッチが!」
えっ。
二人とも俺の知ってる二人じゃないんだけど。
なにこれ。「オーベイベ、俺のために争わないでくれよ、子猫ちゃんたち」とか言えばいいんですかね。
もうちょっと普通に仲裁するか。
「待って待って、二人とも。わかった、今は美術部の部活で俺はモデル中だから、モデルをする。次孔さんはそれが終わってから取材でもなんでも受けるから、ね?」
二人の肩を触りながら、ニコリ。
「ロト様……それならいいよ」
てんせーちゃんが、二重人格かと思うほど乙女になった。
「あ、ありがとロト様。ごめんね突然押しかけて」
次孔さんまで様付けになった……。
「じゃ、続きをしようか」
「うん……」
俺はタキシードの襟を締め直して、足を組み、顔をキリッとさせる。
「ぽわ~ん」
まただ。てんせーちゃんの筆が少しも動かない。どうやら俺があまりにもカッコいいから見惚れてしまって何も出来ないらしい。
「あぁ……カッコいい……」
次孔さんも、神に祈るようなポーズで俺を見て、目をキラキラさせたまま動かない。
「やれやれ」
困ったなあ、という態度をとってみせるが、もちろん困っていない。むしろ非常にいい気分だ。
しかしこれでは埒があかない。
「ぱちーん」
「きゅう」
ウインクをするとてんせーちゃんは、くたっと倒れた。
どうやらあまりの俺のかっこよさに気絶したようだ。
夏休みのバイト代で購入したアイテムで、俺のウインクは星が出るようなエフェクトがかかる。
「さ、次孔さん」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「取材でしょ? 新聞部へ行こう」
「はひ……」
うーん、直接ウインクされたわけじゃない次孔さんですらこの状態か。これは気をつけないと。
俺のカッコよさはすでに武器だ。凶器を持っているつもりで生活しないとな。
「わっ」
「おっと」
階段を踏み外しそうになった次孔さんを、抱きとめる。
「ぷしゅー」
どうやら恥ずかしさが限界を超えて、頭から湯気が出たようです。
なんかもうイケメンって大変だな。
新聞部の部室に入ると、女子の部員は息を呑み、男子の部員は顔をしかめた。
「う、うわー。ロト様じゃん。取材? すごいね、りずむ」
新聞部の先輩らしき女性が、次孔さんに話しかける。
「そ、そうなんッス。スゴイでしょ」
興奮しあう女子たちに向かって、男の先輩が、
「それで? 彼が何をしたの? スポーツで活躍したの? 社会的に意義のある活動をしたの?」
と棘のある言い方をした。
だが、俺もそう思う。俺はただイケメンなだけだ。新聞に載る理由がない。
「ブサイクは黙ってろ」
その一言で部室がピリッとした。
「部長……」
部長はどうやら三年の女性であるようだ。攻略対象ではない登場人物は、周回のたびに変わることが多々ある。
「次孔は記事になると思ったんだろ。おまえらは、それを読んでから判断することだ」
「部長」
「ほら、インタビューすんだろ。鍵もってけ」
鍵を受け取った次孔さんは、ぺこりとお辞儀をして、俺と一緒に部室を出るよう促す。
「こっちに新聞部の別室があるんですよ」
「へえ」
「ここでっす」
案内された部室は過去にプロレス研究室として使ったことのある場所だった。寅野真姫を攻略したので、もう出番がないのかもしれない。
向かい合った机に座る。
「新聞部の取材のご協力、ありがとうございます。よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします」
初めて取材を受けたときとは全然違う。
「じゃあ、まず写真を」
「あ、そうですか」
本当に全然違う。
「あー、いいですね……カッコいい……」
「ありがとう」
キラーン
「きゃー! 素敵―!」
うっかり歯を輝かせてしまった。
カメラを取り落としてしまう次孔さん。まったく、俺が美しすぎて生きるのが辛い。
その後、たっぷりと時間をかけて撮影を行い、インタビューとしてスタイルをよくする方法や、肌の手入れについての話、髪型やファッションのことなど、まるで女子会のような会話となった。
「ロト様の美の秘密がわかっちゃいました。今日はありがとうございました」
「次孔さんの可愛さの秘密も知りたいな」
「ええっ!? いや~、わたくしなどは全然、そんな~」
「謙遜するところも、カワイイね」
「はう……」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる次孔さんは、もう完全に攻略可能に見える。
一年の二学期でこの状態はスゴイ。
今回は楽勝の予感だな。




