異世界メモリアル【6周目 第7話】
夏休みが終わって、学校が始まったが、俺はまだ部活にも入らず、ひたすら容姿を整えていた。
そんなある日。
風呂上がりに、自分の部屋で、アイスコーヒーを飲みながら。
俺は番組が始まるのを待っていた。
「次孔律動の、リズム天国ぅ~♪」
出会っていなくてもラジオは聞ける。
会って話をしたい気持ちはあるが、俺はリスナーとして聞いているだけでも嬉しいのだ。
「さぁ、始まりました、リズム天国。今宵もどうぞお付き合いくださいね~」
また、同じような放送にはなぜかならない。
いつ聞いても面白い。
マジで大ファンなんです。
ふつおたも送ってます。
全然採用されないです。
かといって、妹大好きキャラを復活させるわけにもいかない。あれなら読まれる気がする。
「ところでですね、実は最近のマイブームは、料理です!」
マイブームが料理になったのも初めてだ。
競馬の話は極力控えているみたいで、いつも何か新しいものに興味を持っている。
「始めたばかりだから、全ッ然下手くそなんですけどぉ~」
うんうん。それがいいのよ。
ギターにハマってるとか言ってたときに演奏していたが、まあ下手。だが、それがいい。
「鱧の骨切り、難しかったですけど、なんとか天ぷらにして梅肉で食べました。美味しかった~」
……なんでそんな難しい料理を成功させてるんだ……。
この6周目の世界はどいつもこいつも料亭で働いてるレベルで調理できやがる。
もうヤダ。料理なんかしたくない。
「なので、今回のゲストは我が学校が誇る料理部のエース、望比都沙羅さんに来ていただきました~! ぱちぱちぱち~!」
「どうも」
沙羅さん!?
ラジオのゲストに向いていないランキング一位だぞ!? (ロト調べ)
「お料理にハマってる、とは面白いですねえ。生きていく上で必要な行為ですから、ハマったりハマらなかったりするものではない、と思うんですけどね」
ほら!?
いきなりこれだよ!?
先行き不安すぎてドキドキしますね。
「わー! さすが、違うな~。カッコいいな~。そうですよね、料理って生きていく上で必要なことですよね~。それが上手なのはやっぱり羨ましいッス~」
「ま、まあ、そうね」
チョロい!?
次孔さんが上手いというのはあるが、それにしてもチョロいっすよ沙羅さん!
「リスナーさん達にも料理が下手、苦手っていう人はいっぱいいると思うんですけど、なんか上手になるコツとか、アドバイスとかありますか~?」
「味見をしろ。変なアレンジをしないでレシピどおりに作れ」
ド正論だが、怖えっすよ。
「あ、あ~。大事ですよね~」
困っちゃったよ。
「あと、いろいろな料理に挑戦することがイイことだと思ってる方がおりますね」
「あ、うん。やっぱりレパートリー増やしたいですもんね~」
「卵焼きを満足に焼けてないのに、オムレツに挑戦する人とか面白いですよねえ。きっと一回も籠を揺らすこともなくバスケットボールをやめて今度はラグビーを始めるんでしょう」
痛烈だなあ……。
でも確かにそうだよな~。
俺もだし巻きの特訓しようかなあ~。
「んー。でも、作りたいものを作ったほうが楽しいかな、っていうのはありますよね~」
だよねー。
「いろいろなマズい料理を食べるのが好きな人は、それもよろしいでしょうねえ」
きっつー。
沙羅さん、きっつー。
「自分で食べる分にはマズくてもいいでしょうけど、食べさせられる方はたまったものではありませんねえ」
くっ……そう言われると舞衣に申し訳ない気持ちになるな……やっぱり練習しよう……。
「ん~、でも一人で食べるより誰かと食べる方が美味しいよねっ」
次孔さんはいちいち可愛いなあ~。そうだよねえ~。
「マズいものは、誰と食べてもマズいですけどね」
容赦ねえ。
「じゃあ、一緒に料理をしたらいいよね。一緒に作って、一緒に食べて」
「そう、ですね。一緒に作る相手がいれば」
「沙羅っちは料理部だからいいよねっ」
「ま、まあ。た、楽しい、ですよ」
料理が楽しいって言うの、恥ずかしがりすぎでしょ!?
いや、楽しいと言ってくれるだけで嬉しいけど。沙羅さんはいやいや料理をやっている場合があったからな。
「今度、料理部に遊びに行ってもいいかな~」
「料理は遊びではありません」
「沙羅っちと一緒に料理作りたいな~」
「……容赦はしませんよ」
「ヤッター! 楽しみ~」
わーい、二人は仲良し!
なにこれ最高じゃん。ほっこり。
「はい、じゃあゲストの望比都沙羅さんでした~。ありがとうございました~」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「まったねー!」
エンディングのコーナーの曲がかかる。この曲は、何周目でも同じだ。
「今回のゲストの沙羅っち、どうでしたか~? 可愛かったですよね~?」
まじか。
次孔さんの方が断然可愛いと思いますよ。
「みんなも、お料理、楽しくやってくださいね~。ではまた来週~。お相手は、次孔律動でした~」
ふー。
今回も神回だったなー。
しかし、そうか、料理部に次孔さんが遊びに行くのか。
沙羅さんと二人で料理をするのか……。
それは見たいなあー。




