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異世界メモリアル【6周目 第6話】


「あの~、舞衣さん。バイトをしたいのですが」

「へー。勉強も部活もまったくしないお兄ちゃんが」

「ちょっと待って。俺が努力してることは知ってるでしょ」

「チャラい努力ね」

「おい!? 他のコマンドと比べてバカにするのはやめるんだ! そのポジションでそれはないでしょ!?」


どうしちゃったの我が妹は。

この頃ちょっと変よ? どうしたのかな?


夏休みに入ったばかりの定例会議。

部活に入っていない俺は資金稼ぎをするため、バイトをするつもりだった。

一学期はずっと容姿を上げることに専念していた。

なんか知らないが、俺の方針が不服であるらしい。

なにやら腕を組んでご立腹だ。せっかくカワイイ甚平を着ているというのに。


「ちょっと見た目がいいだけの男なんてモテないから」

「ほら! ほら! ちょっと見た目がいいって! やっぱ舞衣だってそう思ってるんじゃん!」

「……しまった……」

「男は見た目! 絶対そう!」

「……はぁ……」


ため息をついているが、俺はご機嫌だ。カワイイ妹に見た目がいいと言われて喜ばない兄がいるわけないのだ。


「さあ、容姿が上がるバイトを紹介してよ」


すっかり気を良くして、ベッドに転がる。


「むー。この3つから選んでね」


1.コック

2.シェフ

3.板前


「……え?」

「なに」


ナニじゃないですヨ。

今まで意味がわからない3択は山程見てきたが、こんなにわかる選択は初めてだよ。


「全部料理のバイトじゃないか」

「あー、言われてみればそうだねー」


うっわー。白々しい。

もはや清々しいくらいに白々しい。

まあ、そこまで料理をして欲しいならするけど。


「じゃあ3にするよ」


なんとなく和食の方がいいかな、というランチを選ぶ感覚でチョイス。

これがゲームの普通の選択肢だったらクソゲーすぎると思うが、舞衣だからね。

可愛い妹に文句なんてありませんとも。


「板前さんになるなら、刈り上げにしないとね。髪を切ろうね」

「ええ!? なんで?」


ちょっとちょっと。

髪型は重要なんだよ?

せっかく伸ばしてるのに。

やっぱりイケメンは長髪だろ。


「長髪の板前なんていません」

「じゃ、じゃあ2にしようかな」


イケメンシェフならいるもんね。


「なんのこと? さ、こっちおいで」

「舞衣さん? 今日は強引ですね?」


カチャカチャとハサミを動かしながら、髪を切る気満々である。

……はぁ。

俺は観念した。


「ふんふ~ん」


バリカンを使う妹は鼻歌が出るほど嬉しいご様子だ。

うーむ。長髪が嫌いだったのだろうか。


翌日からバイトを開始した。

今までと比べて、あまりにも普通の仕事だ。

極寒の地でもない、普通の和食料理屋の厨房。

当たり前だが女装もしないし、男らしい板前の先輩たちからジロジロ見られたりもしない。

実は容姿がアップするようなバイトなんじゃないかと思ったが、まったくそんなことはなさそうだ……。

俺の仕事は皿を洗うとか、ぬか床をかき回すとか、せいぜい煮干しの頭を取るとか、などの地味な作業であり料理のステータスも上がる感じがしないんですが。


「これもやっとけよ」

「ういっす」


板長の指示で包丁を研ぐ。

オンラインゲームで鍛冶スキルが上がるやつだろ、これ。

もっと料理っぽいゲームを期待していたのに……。

フォアグラより美味いものを食わせてやりますよ、なんて言ってあん肝の調理をするとかを想像していたのに……あんこうをさばく順番を間違えるとゲームオーバーなんだよな、アレ。昔のアドベンチャーゲームは容赦のないのが多かったな。

新しいハンバーガーを開発するゲームも好きだったなー。などと思いつつ米を炊く。かまどで炊くから、けっこう難しい。火の調整をするゲームだと思えばいいか。

そんな感じでひたすらバイトに励んだ。


「よし、じゃあ次はまかない作ってみろ」

「うす」


1ヶ月の修行を経て、ようやく料理を作ることができそうだ。

このクソ暑い時期に、飯を炊くのはなかなかにキツイ仕事だ。

冷や麦くらいがいいだろう。

大量の熱湯で湯がくだけでも、汗だくだけど。

冷水で締めて、大きなたらいに。

みんなで麺をたぐるというのも、たまにはいいだろう。


「ほー。まあ涼し気でいいな」

「ロトが茹でたのか。ま、たまにはこういうのもいい」


先輩たちの評判も悪くはなさそうだ。

我ながら、いい喉越しだ。美味い。


「へえ、冷や麦。さすが板前のまかない。手がこんでますね」

「お嬢!」

「お嬢、おかえりなさいませ」

「お嬢はやめてくださいよ」


……思わず箸が止まった。


「薬味も刻み小ねぎとすり生姜だけ。こんなに素朴ということは、さぞ自信があるんでしょうねえ」


この皮肉っぽい話し方。

凛とした佇まい。

長くつややかな髪と、紫の和服がとても似合っている。

そして泣きぼくろ。

間違いない。

彼女は、望比都沙羅もうひとさらだ。

料理部じゃなくて、バイトで出会うパターンがあったようだ……。

それにしてもお嬢って……今までとは何か違いがありそうだ。


「ああ、先月入ったばかりのやつが初めて作ったまかないなんで」

「そうなんす、このロトっていうのがね」

「へえ、ロトさん」


……嬉しい。名を呼ばれるだけで。


「ロトと言います」

「ロトさん、眉毛や肌を取り扱うのは上手みたいですが、料理は顔でするものじゃないですからね」


そう言い残すと、ふいっと去っていった。


……やっぱり、俺……


顔はカッコいいんだ……良かった……



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― 新着の感想 ―
[一言] マジで今回は料理の世界なのでこのヒロインに合ってるんだがな そうなると別のヒロインがぐぬぬ
[良い点] 舞衣ちゃんの甚平姿。 舞衣ちゃんとしては「容姿はゆっくり上げればいいから、早く美味しい料理を作れる様になってよ!」と言うのが本音なんでしょうねぇ…。 三択が見事に料理人ばっかだし(笑) …
2020/03/23 19:32 にゃんこ聖拳
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