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異世界メモリアル【6周目 第3話】


「なんで」

「え?」


いつもの、と言ってもこの6周目では初めての定例。

普段は話さない、ステータスや親密度などのこの世界のゲームとしての会話が行われる週に一度の兄妹の時間だ。

家の中でも制服や普通に外出できる服装の妹が、このときばかりはパジャマやルームウェアでやってくる。

お風呂上がりだという雰囲気いっぱいの可愛らしい厚手のパジャマに、もこもこした暖かそうなタオル地のものを頭とふくらはぎに巻いている。

なので、いつもどおりの、いままでどおりの定例が始まると思ったのに、いきなり「なんで」と来た。


「なんでとは」

「コマンド」


随分とさっぱりした物言いだった。

コマンドって言い方もゲームっぽさ満載。


「鏡ばっかり見てるのなんで」

「ああ」


俺は6周目に入ってずっと、容姿を上げることだけに注力していた。

その理由はもちろん……


「舞衣にカッコいいと思われたいから」

「あほー!」


妹はまたしてもお怒りだ。

6周目ともなるともう10年以上の付き合いなんだけど。

倦怠期というやつだろうか。


「違うわ、あほー! なんで料理しないの、なんで。あの流れだったら料理でしょ」

「えー」


どうやら料理をしなかったことが不満であったようだ。


「食べたらわかるでしょ!? 料理当番は交代制なんだからね」


どうやら料理当番を交代したら、美味しくない俺の料理を食うことになるのが不満であったようだ。

そういえば、一番最初にステータスを上げろと要求してきたのも料理だったな。懐かしい。


「すまん、舞衣」

「ほっ」


それほど大きくない胸をなでおろす妹。


「だが、断る」

「えっ」


安心した途端に裏切る形になってしまった。すまん。


「俺はね、舞衣」

「う、うん」


俺の真剣な表情に気づいたようだ。舞衣もまた、まっすぐに俺を見てくる。

今から俺がなんというかわからないようだ。

こういうことになる以上、俺の考えが全部筒抜けだというわけではないらしい。

ならば、言おうじゃないか。


「舞衣に、美味しいって言われるより、カッコいいって言われたい」

「……はぁ~……」


精一杯キリッとカッコよく言ったつもりだが、ため息をつかれてしまった。やっぱり容姿が足りないからだな!


「なんでそんな……」


舞衣は元気がなくなってしまった。理解できないということだろうか。


「じゃあ、やってみようか」

「ふぇ?」


がっくりしている妹に身体を近づける。ふわりとシャンプーの匂いがする。


「舞衣、料理美味しいよ。いつもありがとう」

「なっ……う、うん。どういたしまして」


微笑んだ。まぁ、こんなもんだろう。

俺は咳払いをして、息を整える。

なるべくイケボにするぞ。


「舞衣はすごく可愛いね。大好き」

「な、な、ななななな……」


口を開けっ放しにした状態で顔を赤らめ、目をくるくるさせている。ほらね。


「な? やっぱり後者の方が嬉しいだろ? やっぱり容姿を褒められると嬉しいんだよ」

「いや、今のは、反則だょ……」


よほど恥ずかしいのか、両手で顔を覆ってしまった。


俺はね、知ってしまったんだよ。5周目の終盤で。

容姿がいいと、女の子は頬を赤らめて、目をハートにするんだ……。

それは舞衣ですらそうなんだ……。

顔に「お兄ちゃんカッコいい……」って書いてある状態になるんだ……。

早くあの状態になりたいんだよ。


それに、ステータスを上げる順番にしたって、倍の速度で上がっていくものを先にするのは正しいだろう。

そりゃ、運動能力も上げたいよ。身体が重たいし。すぐ疲れちゃうし。

学力だって欲しいよ。授業がつまんないし、テストがしんどいからね。

でも、一番重要なのは容姿。間違いない。

間違っても、芸術だの料理だのじゃないんだよ!


「ま、まあ本人の自由だからね……」


今までずっと妹の言うとおりにステータスを上げ続けてきたが、ここに来て自分の意志を貫こうとしている俺を許してくれた。


問題は翌日の俺の料理を許してくれるかだが……


「美味しい」

「良かった」


どうやら許されたようだ。


「久しぶりに食べたら美味しい」

「うん。俺も懐かしい」


俺が作った料理は……

インスタントラーメンだ。

袋の。

ひょっとしてこのグルメな世界では売っていないのではないか、と思ったが普通にあった。

しかも、味もそれほど変わっていない。

雪平鍋に二人分のお湯を沸かし、麺を二つ投入し、キャベツともやし、缶詰のコーンを少し。

火を止めて、味噌味のスープの粉を混ぜる。

丼に移してから、七味を振る。これだけだ。

逆に料理のスキルがあったら、余計なことをしてしまいそうだ。

毎日グルメなものばかり食べていたので、こういうものが欲しかった。


「これでいいというか、これがいいというか」


舞衣も同じ気持ちのようだ。


「うん。美味しすぎなくて、安心する」


良かった。

ずるずる。


「でも、今日だけじゃない?」

「気づいてしまったようですね」


そう、これは今日だけだから許された裏技……

明日からは普通に美味しいものを食べたいに決まっているのだ。


その日からしばらく俺は、食卓で妹の笑顔を見ることはなかった。

朝、洗顔をしているだけで後ろから睨まれるのは、ちょっと辛かった。


サッポロ一番の味噌ですね。

チャルメラと共に懐かしい感じがします。家庭料理感があるというか。

カレーうどんじゃなくて、マルちゃんのカレーうどんが食べたいとか、そういう感じ。

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