異世界メモリアル【5周目 第23話】
俺ってカッコイイなあ……
何だコイツと思うかもしれないが、本当にカッコイイのだから仕方がない。イケメンというのは鏡を見るたびに自分の容姿を見てこう思うのだな。そりゃポジティブに生きていけるわけだ。
舞衣が訪ねてくるときも最近は様子が違う。パジャマでも髪をきちんとセットしていたり、ノックの音が弾んでいたり、露骨にウキウキしていたりする。カッコイイ男にはカワイイ女の子がやってくるということがよくわかるね。
そんな妹が見せてくれたステータスがこちら。現状は三年目の夏休み。
【ステータス】
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文系学力 458(+169)
理系学力 447(+102)
運動能力 388(+88)
容姿 609(+121)
芸術 499(+100)
料理 508(+153)
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自惚れるのも当然だ。容姿が600を超えているからね。料理もヤバい。500を越えてくると自分で作って自分で食べても感動するレベルだ。
二周目の終了時に500を超えたのは理系だけで他のステータスは200程度だったことを考えると、感慨深いものがある。なんだかんだやっぱりステータスが重要なんだよ、この世界は。
【親密度】
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来斗述 [二枚目の役]
望比都沙羅 [永世名人くらいの存在]
次孔 律動 [もう勝ち目なし!?]
庵斗和音鞠 [私をもっともっと好きになったらいいじゃない]
画領天星 [ナイスミドル×ロト]
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親密度はこんなところだった。もう鞠さん以外見えないけどな。
そう、もう鞠さんしか見えないわけなんだが……
花火がもうすぐ終わろうとしている。毎週鞠さんとデートすることになって、今は花火大会のクライマックスだ。
浴衣姿の鞠さんの頬に、赤と青の光が当たっている。キレイだ。一尺玉も鞠さんの前ではただの化粧にすぎない。
夜空を見上げている鞠さんに俺は気がかりな来週の予定について問いかける。
「鞠さん、本当に二人っきりで旅行って許可されたの?」
「ええ。まったく問題なしですよ~」
問題あるでしょ!?
お泊りデートなんてヤバいって。いや、世界のどこにだって絶対に連れて行くって言っちゃったけど。普通ダメでしょ。
確かに誘ったのは俺だけど、あれはほら、ケツを蹴っ飛ばされた勢いで言っちゃったわけで。
「お父さんが許可したの?」
「そうだよ~」
理解のある父親で助かります――じゃあ、ないんだよ。どうすんだよ。
普通の父親なら、絶対に許さんというのが愛情なのだろう。大事な嫁入り前の娘をお泊りなんてとんでもないと。本当に彼女のことを考えてるのか!?
なんてな。
前提条件として彼女は誰からも愛されていないんだ。いや、愛されているという自覚がないだけで本当は愛されている場合もあるんだが。
だからあっさり許可されたのだろう……どうしてくれよう。
とはいえ、俺が旅行に誘ったのに、なんで旅行の許可を出してるんだってキレたら俺の頭がおかしいことになる。だからどうにもできない。今回は真姫ちゃんのオヤジみたいにぶっ飛ばしに行けばいいということにならない。なんというジレンマだ。
確信はないが、親に関するイベントが攻略に必須のものだったと考えている。ニコと真姫ちゃんのときは親父だったし、あいちゃんのときは父親代わりの博士だったが、あのイベント無しでエンディングに到達できるとはとても信じられない。
だから今回もきっとそうだと思うんだが……
「楽しみだね~」
「う、うん」
そうだった。
俺は誓ったばかりだった。俺は彼女を幸せにするのだと。今はそのことだけを考えよう。
「どこに行こうか。どこにだって連れて行くよ」
「そうですねぇ~。じゃあ~、生きるか死ぬかの世界がいいです」
「ええ!? それはちょっと……」
つい最近まで死んでしまいたいと思っていたが、ようやく生きると決めたわけで。
それがまさか生きるか死ぬかの世界って……
「どこにだって連れて行くって言ってたような~」
「そうですよねそうですよね」
藤柄の浴衣を着たブロンド美少女にニッコリされてこれほど焦るとは。何気にケツキックは俺に恐怖を植え付けたようだな……
翌週。
俺たちは旅立った。なんとヘリコプターである。金持ち半端ねえ。
ついた先はなんと南国の楽園だった。もしやと思ってたけどあれだな、デッド・オア・アライブの水着でバカンスするやつだコレ! 天国じゃねえか!
きらめく海、降り注ぐ太陽!
そして俺に向かって駆けてくるのは、水着姿の美少女!
「ロトさぁ~~ん」
ばいんばいん
うおおおお!!
天国ってレベルじゃねえぞ!?
死のうと思ってた俺は馬鹿! 世界はこんなにも美しい!
楽しんじゃ駄目とか思ってた俺なのに、もう楽しくてたまんない! 水着の鞠さんと太陽と海があれば他に何もいらない!
修学旅行では現れなかった選択肢、ビバ、生きるか死ぬかの世界!
俺はいろいろ考えていたことなどすべて綺麗サッパリ忘れて、鞠さんと二人きりの常夏のビーチを目一杯楽しんだ。




