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異世界メモリアル【第17話】


「やぁ、おお勇者よ死んでしまうとは情けないさんのお兄さん」


俺を大変不名誉な呼び方をするのは言うまでもなく次孔さんである。

3学期が始まった初日。

学校新聞を掲示しているところに通りがかったのだ。


「すっごく評判良かったから、また出演してくださいねっ」

「絶対イヤです……」


あの後暫く舞衣は口を利いてくれなかったんだぞ。

食事中無言という虚しさ。

話しかけて無視される悲しさ。

30回土下座してなんとか仲直りしたんだからな。


「じゃあ~、デートしてあげますから」

「な、なにっ? 本当?」


戸惑う俺に対し、手で口を抑えながらぷぷぷと笑う。


「そんなに私とデートしたいんですか~、かわいいですね」

「ぐっ……ぬっ」


この完全に上から翻弄されてる感じ!

しかし超絶美少女からこう言われたらみんなそうなる、と信じたい。


「今度トラっちが寒中水泳大会に出るんですけど。それの応援というか取材というか。一緒に行きません?」

「か、寒中水泳大会!? 真姫ちゃんが!?」

「ん? いつの間に真姫ちゃんなんて呼び方を」

「あっ」


手を抑える俺。

やべ、これは脳内の呼び方だった。


「ふ~ん。まぁ、いいけど」


ちょっとつまらなそうにジト目になる次孔さん。

おやおや?

次孔さんは真姫ちゃんと非常に仲が良いのである。

だから俺の非常に親しげな呼び方が気に食わなかったと。

そういうことですか?


「ひょっとして~、今拗ねました? かわいいですね」

「は? は~? は~~?」


ラジオではプロ並みのトークだった次孔さんが全くセリフになってないじゃん。

顔が真っ赤ですよ?

くっふっふ、からかい甲斐があるなあ。


「もうデートしてあげない」


腕を組んでプイっと後ろを向いた。

拗ねてる!

完全に拗ねてる!

親密度はそこまででもないから、嫉妬じゃないんだろうけど。

デートしてあげてもいいよって言った相手が他の女の子と親しげだったらこうなるのかも。


「ごめんなさい! 行きたいです、お願いします」


両手を合わせて懇願する俺。

正直、このチャンスを逃すのはもったいなさすぎる。


真姫ちゃん(丶丶丶丶丶) の水着姿だもんね~、そりゃ見たいよね~」


……やっべ~、この拗ねてるの可愛すぎるんだけど。

どうしようかな、この時間が永遠に続かないかな。


「きっと俺が買った水着を着てくれるんだろうしね」


俺はわざと言った。

次孔さんは目を見開いてこちらを向く。


「水着を買ってあげた? トラっちに?」

「そうだよ。俺が路面のメイドガイで働き初めたのは水着代を稼ぐためだったんだ」

「!? ふーん? ふ~~ん、そうなんだ」


気にしてませんけど、という態度だけど気にしてるのが丸わかりである。

このリアクションのためだけでも水着を買ってよかったと思うほど可愛い。


「そんなわけで是非行きたいな~」

「……妹と行けばいいでしょっ」


完全に拗ねてしまった。

やりすぎたか?

ここは全力で機嫌を取るしか無い。


「次孔さんからのデートのお誘いがあまりにも嬉しすぎて、つい真姫ちゃんなんて言っちゃったけど、本当は言ったことないんだ」

「……あ、そう」

「ラジオも実はリベンジしたいんだ。次孔さんのラジオパーソナリティーがあまりにも上手いからたじたじで終わっちゃったし」

「へ、へ~」

「次孔さんといると楽しくてしょうがないんだよ、だからデートとラジオ出演、お願いできないかな」


この通り、と手を合わせて頭を下げる。


「そ、そこまで言うなら仕方ない。いいよっ」


そう言って、両手を腰に当て、胸を反らす。

見下ろすようなポーズだが、背がちっこいので見上げる格好だ。

よかった、許された。

ラジオ出演はすることになってしまったが、今度こそ舞衣を怒らせないように気をつけよう。


******


「またラジオ出演するの? 大丈夫でしょうねえ」


俺の部屋に入ってきた妹は、俺のベッドで足を組み、ジト目で睨んでいる。

着る毛布みたいな暖かいだけで色気のない服だ。それでも可愛いが。


「大丈夫です! ……多分」


はぁ~とため息をつく舞衣。


「まぁ、子猫の里親が見つかったからよかったけどさ」


そしてステータス確認タイムが始まった。


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 116(+2)

理系学力 99(+2)

運動能力 125(+9)

容姿   140(+11)

芸術   55(+7)

料理   140(+7)

―――――――――――――――――――――――――――――


容姿はバイト先の花魁姿の影響だろうな。

自分でも色気が出てきたと思うもん……。

うなじの魅せ方とかが上達したけど、それで本当にヒロインにモテるようになるのか?

そんな疑問もあったが、ステータスが上がるから安心である。


思ったよりも運動能力がちょっと上がってる。

芸術もちょっと上がってるな。


「お兄ちゃん、火渡りとかラジオ出演とか結構レアなイベントやってるよね」


あ、火渡りが運動で、ラジオは芸術か。

このパラメーターの芸術っていうのは芸能も含んでいるみたいだからね。

通常の努力よりも突発イベントのほうが経験値が高いのは、ゲームのお約束だな。

もっとも現実もそうだと思うわ。

インパクトのある体験は人を成長させる。


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

実羽じつわ 映子えいこ [クレーンゲームくらい好き]

望比都沙羅もうひと さら [詰将棋くらいの存在]

次孔じあな 律動りずむ [トラちゃんと熱愛発覚なの!?]

寅野とらの 真姫まき  [まじシスコン]

―――――――――――――――――――――――――――――


カラオケよりクレーンゲームが好きなんだよね、そうだよね。

このシステムさ、相手のことをよくわかってないと親密度が上がってるのか下がってるのかすらわかんないぜ。

沙羅さんは将棋大好きっ娘だから相当好かれてる気がする。

やっぱり料理パラメーターが高くなったからかな。

次孔さん、残念なことに真姫ちゃんは俺のことシスコンとしか思ってないんだよ。


「やっぱ芸術ってもっと必要なのかな」


独り言のようにつぶやく。


「うーん、それより勉強したほうが良いと思うよ。期末試験の成績が悪くて良いことなんてないから」


よし、じゃあ勉強だ!

俺は妹の意見に忠実なのだ。






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