異世界メモリアル【5周目 第18話】
三年生になった。
ステータスも今までで一番高い状態だ。
だから当然だが、はっきりいってモテる。
「はろはろ~! ね~、原画展に付き合ってよ~~、BLに理解のある男って他にいないんだ~」
「いや、俺もBLに理解があるわけでは……」
「……だめ?」
「いい、けど」
ずるい。この美術部所属、BL大好きメガネっ娘の画領天星ことてんせーちゃんは非常にフレンドリーで距離が近くてお調子者なので、友達っぽい気安い関係になりがちだ。
だからなおさら、その、女の子っぽい表情を見せられると弱い。上目遣いは反則だ。
こうやって誘われて断ることなどできない。
今週の週末は原画展か。
「あら、ゲームだけは得意という噂のロトさん。実は今度、軍人将棋の大会があるのですが……」
「いくら俺がディープなゲーマーでもさすがに軍人将棋についてはなんやそれなんですが……」
「私と一緒では、お嫌ですか?」
「そんなわけありません」
仕方ない。この料理部所属、皮肉屋大和撫子の望比都沙羅という女の子は切れ長の一見冷ややかな目が特徴で、基本的には主従の関係というか、彼女のご機嫌を伺いがちだ。
なので、どうにも一度デレたときの破壊力が凄い。頬を染められるだけでもうダメ。
だから当然、誘われて断ることなどできない。
来週の週末は軍人将棋大会と。
「あ、ロトっち~! 取材させてよ~」
「どんな取材ですかね」
「えっとね、動物園で一番好きな動物は何か、とか遊園地で一番好きな乗り物は何か知りたいから、一緒に行ってから最後に感想を言って欲しいな、夜ご飯食べながら」
「そんなの新聞に載せても誰も興味ないですよ」
「私はあるの!」
もうダメだ。この新聞部所属、ポニーテール元気っ娘の次孔律動さんは学校新聞に対して凄く真摯だが、まさかなりふり構わずデートに誘ってくるなんて。
っていうか御存知の通り、俺は次孔さんのラジオのヘビーリスナーなので基本的にお誘いを断れない。大ファンなので。ましてやボディタッチをされつつなど。
よってもちろん、断るなんてとんでもない。
再来週の週末は動物園。
「あの……お願い、レイプして……」
「やめなさい! 誰かに聞かれたらどうするの!? あとお願いした時点でそれはレイプじゃないって何度も言ってるでしょう!?」
「じゃあ、デートでいい」
「……」
どんな二択だよ。この文学部所属、黒髪ロングストレートの一見清楚系美人の来斗述さんは口を開けばレイプ、レイプだが普通にしてればとても可愛い人だ。
断ったら時と場所をわきまえずにレイプを連呼されてしまうわけだから、このデートは強制イベントだといっても過言ではない。っていうか、恥ずかしそうに顔を赤くしてレイプしてなんて言うのは本当にヤメてくれ。
彼女とのデートは強制イベントなんだから仕方ない。
三週間後の週末はどこ行こうかな、またプロレス観戦もいいよね。
そんなわけでガンガン誘われてしまうわけだ。今回のプレイにおいてはかなり出会ったヒロインが少ない。必要最低限としか出会っていないだろう。これは俺の狙い通りだ。こうなることはわかっていた。
この手のゲームの必勝法の一つは、必要以上に出会いを増やさないことだ。フラグを立てすぎるのは危険行為なんだ。
本当の意味で攻略するなら数人と出会っておいて二年の夏休み当たりでセーブ。クリア後にそこからロードしてプレイするのがベストだが、このクソゲー世界にはセーブとロードがない。ゲームオーバーはあるが、メリットは低い。
誘いを断れないのは、もちろん彼女たちが魅力的だから……というのもあるが、それだけではない。
断ったら、傷つけてしまうかもしれないからだ。あれはトラウマものだ。特に沙羅さんをもう一度傷つけてしまうようなことがおきたら、また死んでしまうかもしれない。
問題は本命である鞠さんとデートをする機会が足りないことだがホワイトデーにお返ししたばかりだし、鞠さんは大丈夫だろう……。
と思って廊下を歩いていたら、ちょうど鞠さんの姿が。
目があったので、挨拶でもしようと思ったのだが。
「あーっ、こんなところにバナナの皮がー、あー、すってーん」
「え、何やってるんですか、鞠さん……」
演劇部とは思えない棒読みのセリフを繰り出しつつ、コケている鞠さん。ド天然の彼女は学校の廊下で尻もちをつくことは決して珍しくないのだが、この光景はレアだった。
つまり、わざとコケている鞠さんは。バナナの皮などどこにもないし、彼女がコケるのにそんなアイテムは必要ない。何もなくても盛大にコケる。
なんでこんなことを……?
首をひねりながら、いつものように倒れている彼女に手を伸ばそうとしたのだが。
「ロトっち~!」
おっと、次孔さんから呼ばれている。これは一刻も早く駆けつけねば。
「ごめんね、鞠さん」
「あ……」
このとき、俺はあまりにも楽天的だったと言わざるを得ない。
その光景をレアだな、などと感じている場合ではなかった。それはつまり、違和感であるべきだった。




