異世界メモリアル【5周目 第17話】
二年生のホワイトデーは、とても重要な選択肢だ。実質、今回の攻略キャラを決めるに等しい。少なくとも、そういう気構えで選ばなければならない。
そして、当然それは現状の好感度を考慮すべきだ。
舞衣の教えてくれた最新の結果はこうだ。
【ステータス】
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文系学力 289(+130)
理系学力 345(+152)
運動能力 300(+101)
容姿 488(+305)
芸術 399(+250)
料理 355(+223)
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特に運動に力を入れなくても生きていけるし、別段勉強しなくても授業にはついていける。
だからこそ部活と料理に専念することができた、わけだが。
あとは妹の選んでくれたアイテムのおかげで容姿は今までにない高さだ。もうね、なんか知らないけどカッコイイスーツとかがこれでもかってくらい似合うね。
【親密度】
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来斗述 [謎の転校生役]
望比都沙羅 [竜王くらいの存在]
次孔 律動 [男にも人気って本気!?]
庵斗和音鞠 [私を好きになったらいいじゃない]
画領天星 [イケメン×ロト]
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うん。わかる。わかるよ。モテている実感があるよ。やっぱり見た目大事ね。
そして、俺には一つの仮説があった。
今までのことから、この世界は一つのステータスに紐付いたヒロインがいることがわかっている。
ニコ・ラテスラは理系学力。寅野真姫は運動能力だ。出会いの条件でもあり、攻略後のボーナスにも反映される。
おそらく、来斗述は文系学力であり、画領天星は芸術能力であり、望比都沙羅は料理だ。そこでずっと思っていた。これほど容姿が高くなったのに該当する女の子に出会っていないのはなぜなのかと。
しかし、本当にそうなのだろうか。
出会っていないのではなく、すでに出会っているから登場しないのでは?
つまり鞠さんは容姿のヒロインなのではないか。
であれば、鞠さんを攻略すれば次回プレイで容姿のステータスにボーナスが発生し、やりやすくなるに違いない。
それに現状のステータスを考えると芸術や料理よりも容姿の方が高いことから、今回は親密度が一番高いと思われる鞠さんを攻略するのが最善の策と判断できる。
と、まあゲームプレイヤーとしての考えは以上だ。
そんなことより。
そんなことよりだよ?
私を好きになったらいいじゃない、ってなんだよ!
可愛すぎるだろ!? そんなこと思ってるの!?
あのお方はもともとふんわり笑うお人なので、態度があまり変わらないんだよ! 露骨にハートの目とかしてれば変化にも気づくけどさ。
いや~、もう無理。
こんなこと言われたら……いや、言われてないんだけど。思われてるだけなんだけど。でも、ねえ?
そんなわけで、ホワイトデーのお返しは鞠さん、キミにきめた!
「あ、あのぉ~、鞠さん」
「はい、なんでしょぉ~?」
演劇部の活動中、体育館の舞台袖で二人きりになったタイミングでお返しを渡そうとしていた。俺たちは主役で、出番待ちという状態だ。
朝からなかなか渡す事ができなくてずるずる今に至る。
向こうが俺を好きなのに、それをわかっている状態だと立場は逆転してしまう。もう、恥ずかしくて恥ずかしくて。
俺のことを好きじゃないかもしれない相手に渡すのは勇気がいると思うだろうが、わかっていても勇気がいるのだ。
「バレンタインデー、ありがとうございました」
「あら、私にお返しいただけるんですか?」
「は、はい」
「そうですか、嬉しいです~」
どくどくどくどく。心臓が高鳴る。
おかしい。
だって、好きなのは向こうだろ。
彼女が、俺を好きなんだろ。
なのに、なんで鞠さんはいつもどおりで、平然としていて。
俺はこんなにも緊張して、興奮して、どきどきが止まらなくて。
まるで、俺の方が好きみたいじゃないかよ。
そりゃあ、鞠さんは素敵な人だ。ふわふわのブロンドも綺麗だし、肌は雪のように白くて美しいし、唇はルージュも引いてないのに赤くて、頬も常にうっすら紅が入っていて、とろけそうな笑顔を常に称えていて。
性格だってそうだ。気品があるのに気さくで、上品だけどお高くなくて、包み込むような優しさを持っていて、まるで女神様のような人だ。そのくせ天然で俺がいなかったらどうなっちゃうのか心配で、でも手がかかるほど可愛くて愛おしくて。そんな彼女のことが好きだな。
あれ?
……好きだったわ……どうやらとっくに俺は彼女のことが好きだったわ。
バックバクの心臓を抑えつつ渡したプレゼントの包みを開けた鞠さんは、ふわぁっと笑う。天使かな。
「わー、小さい枕ですね。かわいい」
「いや、枕じゃないです。マシュマロですよ」
「こっちは小さいクッションかな~。かわいい」
「だから違いますって。マカロンですって」
「こっちは土塊でしょうか」
「そんなの渡すわけないでしょ。チョコチップクッキーですよ」
「これは葉巻ですね。吸ったことないですが、試してみます」
「試さないで! シガールです、焼き菓子ですって。お菓子の詰め合わせですよ!」
「あら~、そうだったんですね~」
わかるでしょ!?
普段食べてるよね!?
と思うが、まぁ本当に天然なお人だ。
なんだか緊張が解けて、肩の力が抜けた。
「ふふっ」
「ふふふ」
しばらく、俺たちは何もせず、突っ立ったまま笑っていた。
こうしてお互いが笑顔でいられるだけで幸せだと思えた。
俺の出番がやってきても、笑顔がやめられなくて、演技にならなかった。




