異世界メモリアル【5周目 第10話】
「やあやあ、キミが噂の演劇部のホープっすか?」
「噂かどうかは知らないけど、新聞部の取材なら喜んで受けますよ次孔さん」
二学期が始まって程なく。もうすぐ文化祭を迎えるころにやってきたのは次孔律動というポニーテールが似合う元気な美少女だ。彼女がMCを務める律動天国というラジオはこの世界における俺の楽しみの一つとなっている。
出現条件が新聞部に所属するか部活で活躍することというのも、もはや間違いないだろう。
普段は教室で個別に練習しているが、今日は体育館を使って通しの練習中だ。自分の出番はまだなので、パイプ椅子を並べて取材を受けることにした。
「じゃあさっそくですが~、今回の男の娘役というのは、やっぱり?」
「やっぱりとは……?」
「夏休みの間はコスプレして同人誌の売り子をしていたそうですが、そのキャラは本の中で総受けだったそうです。だから、やっぱり?」
「……俺はノーマルですよ?」
「え~~~~~」
露骨にがっかりする次孔さんだった。どうやら出現条件と同じで男性同士の恋愛に興味があるのも間違い無さそうだ。まぁゴシップとしてもいいネタっぽいしな。でも彼女が目指しているのは芸能人のパパラッチではなく競馬記者だけど。
「でも、その男の娘の格好は似合ってますねぇ」
「マジですか! マジですか!? ありがとうございます!」
「なるほど女装は好きということですねっ」
「し、しまった!」
誰にともなく言い訳をさせてもらうと、演劇部の部活において普段は制服のままで演技の練習をしているが、被服部に依頼していた衣装が出来たため初めて袖を通したばかりなのであり、それはそれはテンションがあがっているのである。
しかしながら女装メイド喫茶の路面のメイドガイでバイトしていたときにスクープされてしまったときのことを思い出すと、次孔さんに女装好きなんて認識をされるのはろくなことにならないことは明白だった。
「いや、別に俺は女装なんて」
「しかしこの肌の露出の仕方は上手ですね~」
「そう! そうなんですよ! どうしても男らしくなってしまう肩は隠しつつ、あえてへそは見せるというね」
「ふんふん、ヘソ出しに興奮、と」
「それを新聞記事のタイトルにしようとしてます!?」
次孔さんに以前聞いたときは崇高な思想に基づいて記事を書いていたはずなんですが?
どうも俺の失言を狙って誘導している気がしてなりませんね?
「ロトさんの可愛い男の娘姿を校内新聞のメインにしようかと」
「え? え? そんな可愛いですかね~?」
「可愛いと言われるのは満更でもない、と」
「そ、それはあくまでも役ですから、役になりきってるというか」
「……」
「え? なんで今の部分はメモらないんですか」
「面白くないので」
「今面白くないって言った! 言っちゃった!」
マズイ、マズイぞ。このままではただの女装大好き可愛いって言ってもらえると大喜びするへそ出しに興奮する男として広く学校に知られることに。新聞の影響力はデカいんだ、極度のシスコンとして紹介されたときの悪夢を思い出す……。
「そうだ、鞠さんは? 俺のことなんかよりよっぽど記事として人気でそうですよ?」
いっそ自分のことなど載せなくても良い。そう思って正論でご提案だ。
ところが次孔さんは、死んだ魚のような目になってため息をついた。
「はぁ、あんなおっぱいが大きくてウエストがくびれてて脚が細くて長い男なんていませんよ。さらっさらの金髪だって少しも隠してないし。全ッ然男装なんて出来てないですよ、ダメダメですよ」
「あ、そうですか。なんかごめんなさい」
俺はこれ以上言わないことにした。大丈夫ですよ、次孔さんは次孔さんで魅力的ですよ。という声をかけても、現状の親密度では怒らせるだけだろう。
「さて、今回は男の娘と男装した女性という変わったカップリングの役となりますが」
「ああ、まあそうですね」
意外にも普通にインタビューを続ける次孔さんに相槌を打つ。
「やはり今後は男性同士の恋愛がメインになっていくかとは思います。攻めと受けのどちらがお好きですか?」
「なんでだよ! 普通に男女の恋愛で男の役をやりたいですけど!?」
我が演劇部は決して画竜天星先生にはシナリオを発注しません。全力で阻止します。
来斗さんに発注したら俺がレイプされちゃうと思うので、それも阻止します。この学校で創作してる人たちはロクな趣味の人がいませんね?
「やはり受けですね、と」
「こら! 捏造すんな!」
「ちっ」
「あ! 舌打ちした! 今、舌打ちしたよ!?」
親密度がまだ低いにしてもひどいと思います。でも俺の方はもう十年近く彼女のラジオの熱心なリスナーであり、無くなったら嫌だから攻略したくないくらいのファンなのでこうして話してるだけでも嬉しいのだよなあ……。
「こほん。えっと、今回の男の娘役ですが、本当に可愛いですよね」
「あ、ありがとうございます」
「だから男の人にモテると思いますが、それについてはどうでしょうかっ!?」
「近い近い、興奮しすぎ!」
もうなりふり構わずなんとか俺に期待する言葉を引き出そうとしてくるぞこの人!?
至近距離で目をじっと見られるとか、恐ろしい子!
俺の出番になるまでインタビューは続いたが、結局新聞記事になったときは変なことは書いてなかった。
まったく次孔さんはお茶目だなあ。




