異世界メモリアル【5周目 第9話】
それほど勉強していないが、そこそこの結果で期末試験を終え、1年生の夏休みに入った。
部活のある日は部活、それ以外はバイト。普段はバイトしていないので、金を夏休みの間に稼いでおく必要がある。
上げたいステータスは、容姿、料理、芸術の順となる。
しかし、俺が出来るバイトはあくまで舞衣の提示する三択から選ぶことしか出来ない。
「頼むぞ、頼むぞ~」
俺は祈りながら妹の提案ガチャを回すしか出来ないのだ。
「う~ん、合法限定かぁ……」
悩ましげに腕を組む、夏仕様パジャマの舞衣。なんで違法バイトの方が圧倒的に多い感じなんだろうね。この世界はどうなってるのだろうね。
「知能が欠落したり、身体を壊すのも駄目……」
それは言わなくても外してくれないかな。いくらなんでも兄に対して厳しすぎるでしょ。
「極寒の地や灼熱地獄も避ける……難しいなあ」
俺がわがままなの? 妹に無理難題を押し付けているの?
「これくらいで……どうかひとつ……」
なんとか捻り出した感たっぷりの三択を頂いた。そんなに苦渋の決断なんですか、苦労をかけてすみませんね!?
1.女子プロレス
2.市民プールの監視員
3.イベントスタッフ
「女子プロレスってどういうことですか……?」
今更だが、俺は男である。実は女の子だったのです、という衝撃の事実は無い。
「女子プロレスラーって言ってもどうせ男より弱いんだろ、なんていう人たち対策で、男子をリングにあげるの」
「なるほど? しかし怪我をするのでは?」
「ところが投げ技とかはしないで、関節技でギブアップさせることになってるから安心。ただ痛いだけ」
「ふむ」
ただ痛いだけか。確かに極寒の地や灼熱地獄ではないし、身体も壊さない。さすが舞衣だ。ツラい。
「でも、上四方固めだったらおっぱいが顔に当たるし、ボストンクラブだったら背中におっぱいが当たるからえっちなお兄ちゃんにはオススメ」
「ちょ、ちょっと?」
「巨乳が背中に当たってたら地獄のような特訓も辛くないんでしょ?」
「むうっ」
なぜ、なぜ知っている。そのことは当事者の真姫ちゃんですら気づいてないのに。
いや、知ってるんだ、そういうことを。なんでもお見通しだと思ったほうが良い。
しかしもうこの選択肢を選ぶ事はできない。選んだらおっぱい目当てだと思われちゃう。いや、お見通しなんだから意味がないというのは正論ではあるが……。
「わかった、次の説明を頼む」
「市民プールの監視員、これは暑いっちゃ暑いけど、水着だから灼熱地獄ではないよね」
「うん、それは問題ない」
「市民プールは小さな女の子の水着姿を見放題だから、ロリコンのお兄ちゃんにはオススメ」
「おいおいおいおい!?」
「6歳の水着には興味ないけど10歳には興味あるんだよね?」
「やめろやめろ、ガチな感じになるからやめろ!」
だからなんで知ってるの?
ニコと海に行ったときにちょっと思っただけじゃない。
なんにせよこの選択肢を選んだらもうロリコンは確定。シスコンは甘んじて受け入れるが、ロリコン呼ばわりされるのは困る。ロリキャラは二人ともすでに攻略済みです。次孔さんは身体は多少貧相だけどロリではない。少なくともロリコンと呼ばれていることを好ましいとは思ってくれない。
「もう次ので良いよ」
「え? そう?」
そんなわけで消去法で選択したのはイベントスタッフ。しかし俺が思っていたものとは全然違っていた。
「やっほー☆ キミが売り子のバイトさんだね? おいらのことはてんせーちゃんと呼んでおくれ」
まさか画竜天星ことてんせーちゃんとの出会いイベントだったとは。
イベントというのは、同人誌即売会のことだった。
「俺はロト」
「ロトくんね。じゃあ、これに着替えてね」
「……なんすかこれ」
王子? いや騎士かな。白いマントでいかにも正義って感じの。そりゃ俺も聖騎士とか好きだけどさ。
「今日売る本のキャラだよ~。総受けなんだ♪」
総受けなんだ……総受けのキャラのコスプレをして、そいつが総受けされている本を売るんだ……。
俺が総受けみたいじゃん……。
「ロトくんは見るからに受けだから、バッチリ似合うよ!」
舌を横からぴろっと出しつつ、びしっと親指を立てるてんせーちゃん。
嬉しくねえ~……。
いや、攻めが良かったというわけでなく。
出会った頃は親密度が低いから態度が厳しいことも多いが、今回は歓迎モードなのは自分が描いた漫画の主人公のコスプレをしているからということでそれは有り難いのだが。といってもてんせーちゃんは人懐っこい性格ゆえ、親密度が低くても露骨に態度が悪いということはないが。
お客様の列は最後尾がまったく見えないくらいに形成されている。まぁ、てんせーちゃんだから当然だ。
頒布を開始していいという合図の曲が流れると、怒涛の如くお客様が押し寄せる。
「新刊、一部ください」
「ありがとうございます」
「新刊三部とトートバッグください」
「ありがとうございます、こちらお釣りになります」
イベント会場は熱気があるが、一応冷房もあるし、本を求めてやってくるのは若い女性ばかりだし、バイトとしては悪くない。
ただ、お釣りを渡すときの視線がどうにも……恥ずかしい。
その目は恋する乙女とは少し異なる。俺のことを好きなのではなく、俺が男に抱かれているところを想像して頬を赤らめているのだ。この差は大きい。大きすぎる。
精神的なダメージも受けるが、肉体的にもしんどい。
ただの売り子なんて簡単だと思っていたが、四時間立ちっぱなしでずっと本を渡し続けるというのは結構な重労働だった。しかも今回の本は総集編という今までの同人誌を集めて一冊にしたものなのでそれなりに重い。腕がパンパンになると、真姫ちゃんとの修業の日々を思い出してしまう。
一応最大六時間という条件だったが完売したためその時点で仕事は終了だ。正直あと二時間やってたら運動能力が相当アップしちゃうところだった。いや、それはいいけど。
しかし疲れた……。
「ロトくんお疲れ~、明日から地方遠征だから頑張ってね~」
ですよね……だって夏休みの間、バイトは十四日あるんだもんね……。
何気にじわじわとブクマが増えてて嬉しいです。最近読み始めたよ~、という方からの感想お待ちしております!特に好きなキャラクターとか!




