異世界メモリアル【5周目 第6話】
「あ、鞠さん」
スッ……
軽く会釈しただけでスルーされた。
会話するくらいならいいじゃないという相手の親密度から更に評価を下げたため、どうやら会話するのも嫌なくらいまで落ち込んだらしい。
五周目になってこの体たらく、俺はこのゲームが下手すぎないだろうか。
そして毎回思うのだが、なぜ俺はちゃんと情報を集めないのだろうか。
「なあ義朝」
「どうしたロト」
親友という設定なのにまったくと言っていいほど話しかけることもない俺が久しぶりに声をかけてもナチュラル極まりない対応をしてくれる義朝。なにげに有り難い存在だな。ロリコンだけど。感謝はするが舞衣を見ることは許さん。
「庵斗和音鞠さんのことを教えてくれ」
彼女のことは実はキャディをしていただけなので、あまり知らないことに気づいた。
「庵斗和音さんか。お前も面食いだなー」
いや、確かに鞠さんは美人系だし金髪で派手だが、この世界で面食いもクソもない。美少女じゃないやつなんかどこにもいない。
「彼女は裕福な家庭の生まれでな。屋上から見えるお城あるだろ。あそこに住んでいる」
「あそこに!?」
お金持ちだということはわかっていたが、まさかホントに城に住んでいるとは。もちろん西洋風のハイラル城のようなガチすぎる城であり、住むのに適しているとは思えない。俺にはラストダンジョンに見える。そしてあそこにゴルフ練習場があるというのはシュール過ぎる。
「世間知らずのお嬢様って感じでそこがまたいいんだが、金銭感覚はまったくと言っていいほどないみたいだぞ。自分で買い物をしたことがないという噂だ」
まあ、普通にドジすぎて無理っていう噂もあるが。財布を置いてくるとか、レジで中身が入ってないことに気づくとか、小銭を全部ぶちまけておろおろと探して日が暮れるとかそんなイメージしか無いな。
「甘いものが好きらしい。嫌いな食べ物は硬いもの」
しっくりくるね。綿あめみたいなお人だ。マシュマロのような肌だしな。草加せんべいを齧るイメージは無いね。
「可愛らしいものが好きらしい。少女趣味ってやつだ」
少しも意外じゃないね。鞠さんは幼稚園で女の子がお絵かきで描くお姫様みたいな存在だ。むしろ彼女のグッズがファンシーショップで売られてもおかしくないくらいだね。
「そんなところか」
「おい! そんなの見りゃわかるだろ! もっとないのか!?」
これだと大体わかってたのにデートに失敗してたみたいじゃねえかよ!
「えー、部活は演劇部」
「知ってるよ! 俺も演劇部だっつーの」
「なんとゴルフをするらしいぞ」
「知ってるっつーの!」
「ロト、お前詳しいな」
がっくり。肩を落とした。
なんと使えないやつなのか。こいつは自分の存在意義を理解できているのか?
「ああ、そうそう。好奇心が旺盛だから自分の知らない庶民的なものとか場所は好きらしいぞ。あと誕生日は来週だ」
「それそれそれ! そういうやつ! ナイスだ義朝、心の友よ!」
グッジョブ。肩を叩いた。
義朝は親指を立ててウインク。なんといいやつなんだ。
事前に知っていればある程度戦略が練れるじゃないか。治験のバイトでお金は少しあるし。
その週の夜。
妹が訪ねてきた。
「お兄ちゃんがデートでミスったから口も聞いてくれない庵斗和音さんだけど、なんと、もうすぐ誕生日です!」
パジャマ姿でぱぱ~んと朗報を告げる舞衣。ここで知ってるよなんて言うやつの気が知れないね。
「なんだって!? 千載一遇のチャンスじゃないか!」
「そうだよ! がんば!」
くう。この応援があれば宇宙飛行士選抜試験でも合格できそうだ。
「ではでは、誕生日プレゼントをお選びくださいねっ」
うむ。妹から繰り出される三択問題を妹に応援されている状況。少し変かもしれないがまったく不満など無いね。
1.おどる宝石
2.駄菓子詰め合わせ
3.お姫様ドール・フィギュアバージョン
絶妙に難しいな。
なんで宝石じゃなくておどる宝石なんだよ。金で買えるわけじゃないと話が変わるだろ。
なんで駄菓子でいいのに詰め合わせちゃうんだよ。硬いものも含まれちゃうだろ。
なんでお姫様ドールでいいのに、フィギュアにしちゃうんだよ。少女じゃなくてオタク受けっぽくなってるだろ。
大体誕生日プレゼントっていつも同じ金額なんだけど1と2が同じ金額っておかしくないか?
いや、それについてはあのゲームも同じか……。そんなのどうやって手に入れるんだよっていう選択肢が出てきたもんな。あまり考えすぎないほうがいいだろう、所詮現実といったってゲームみたいなものなのだから。
とりあえず質問してみるか。
「舞衣、おどる宝石ってモンスターか?」
「え? なにそれ。おどる宝石はおどる宝石だよ。フラワーロックなら知ってる? あれのジュエリーバージョン」
フラワーロック!? 古い!
しかし余計にわからなくなったぞ。庶民的なんだもん。
「駄菓子詰め合わせって、何が詰め合わせてあんの」
「いろいろだよ~。ふ菓子とか」
ふ菓子! いいね!
「舞衣もふ菓子好きなの?」
「好きだよ~」
へえ~。
「なんでそんなにニヤニヤしてるの、お兄ちゃん」
「いや、別に」
「ふーん」
「それよりお姫様ドールって何」
「そのままだけどね。お姫様の、ドール。それのフィギュア。つまりフィギュアだけど」
フィギュアなんだよなあ。
「じゃあ2で!」
「おっけ~」
そうして俺は鞠さんの誕生日に駄菓子詰め合わせを贈った。
「鞠さん、誕生日おめでとう」
「これは? へえ~、駄菓子というお菓子ですの? これは珍しい、ありがとうございます」
このリアクションはあれだ、ノーマルだ。
つまり1か3のどちらかがグッドでどちらかがバッドということ。
わっかんねえなあ……。
しかし普通に考えて、駄菓子詰め合わせが誕生日プレゼントって微妙だよな。そういう普通の感覚が無くなっちゃうよな。
とりあえずノーマルでも親密度は向上。話しかけたら返事をしてくれるようになった。




