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異世界メモリアル【4周目 エンディング】


寅野真姫(とらのまき)

彼女とのエンディングは今までと異なり、ある程度想定をしていた。

それは寅野の親父をぶっ飛ばして、愛の逃避行。これだ、これしかない。

そう思っていたんだが……。


まさか、こうなるとは。


卒業式の前日。

寅野家で結納を行っていた。

髪を綺麗に結わえて、振り袖に身を包んだ真姫ちゃんはそれはもう綺麗で可愛い。誰だよ、巨乳は和服が似合わないって言ったのは。死ぬほど似合ってるよ。普段は粗野で粗暴でワイルドすぎる真姫ちゃんだが、まあどこに出しても恥ずかしくないべっぴんさんである。それが俺の嫁!


「真姫、綺麗だぞ」


真姫ちゃんの父は嬉しそうに泣いている。悪魔にしか見えなかった彼ももはや普通の人の親だ。思い起こせばニコパパもそうだったな。


「婿殿」

「ムコ殿!?」


どうやら俺のことらしい。


「こんな女っ気の欠片もない乱暴な娘を貰ってくれてありがとう」


信じられないことに、ボロボロと涙をこぼしていた。確かに胸以外は女っ気がないかもしれんが、胸の女っ気だけで女子力最強だよ。もうほんと凄いんだから。そんなことを父親に言うわけもなく、ただ恐縮してペコペコする。こんなことになるとはな。

正直なところ、俺は真姫ちゃんの親父をぶん殴って、言いたいことだけ言って、彼女とともにどこか遠いところで暮らすものだと思っていた。そうしたいというよりは、そういうエンディングだろうと思っていたわけだ。

しかしこのクソゲー世界、何気に最後は結構なハッピーエンドになるっぽい。そこだけはよく出来ているとクロスレビューを書くことがあったら褒めてやろう。


「ロト~。こんなの似合わないだろ~?」


真姫ちゃんは心底そう思っているようだった。眉尻をハの字に下げてへちょっとした表情。


「史上最強に似合うからそんな顔はやめるんだ。せっかく綺麗なんだから勿体無いだろ」


自分でもびっくりしたが、七五三の衣装を嫌がる子供に対するような優しい言葉が出た。これが愛なのでしょうか。


「ホントか~?」


そういう彼女は本当に七歳のようなあどけなさで、守ってあげたい気持ちにさせる。この人は少年のような心を持った女の子であり、そこが魅力だ。あと凄く女っぽいボディね。


「真姫、世界で一番可愛いよ」

「うわーっ、よくもそんなセリフを恥ずかしげもなく。わーっ」

「好きだよ」

「わ、わーっ」


わかりやすく恥ずかしがる彼女だったが、実は俺のほうが断然恥ずかしい。恥ずかしげもなく見えたのなら俺はポーカーの才能がある。さすが俺、そういうゲームも得意だったか……。

人生はゲームではないので、何度もやり直すことは出来ない。コンティニューも出来ないし、もう一度プレイすることも出来ない。だが、俺はこの世界でもう三人目となる女性とのエンディングを迎えようとしていた。

生きているというかプレイしている時間ももう高校生のレベルではない。かなりの経験値を積んでいると思うから大人の男としてこのくらいの褒め言葉や告白はさらっとできそうなものだが、なかなかね……。

ひょっとすると大人の男なら出来るというのが幻想なのかもしれないが。

そんな一大決心であることを知ってか知らずか、口をもにゅもにゅさせて恥ずかしがる真姫ちゃんを見ていると勇気を出して言ってよかったと思える。

好きな女の子に勇気を出して言葉を伝えることが出来るやつはみんな勇者だ。ドラゴンを退治する方がよっぽど勇気なんかなくたって出来るんじゃないだろうか。

実際、真姫ちゃんの親父に啖呵を切るほうが全然簡単だった。


一昨日のことだ。


「あんたが最愛の人を救えなかったのはわかる。守れなかった悔しさもわかる。だから強くなって欲しいっていうのもわかる。だがな、だから助けないとか、支え合わないとか、苦しめるってのは違うだろ」

「なんだと?」

「俺達が強くなるのは自分が死なないためじゃないだろ。愛する人を守りたいからじゃないのかよ。あんたもそうじゃなかったのかよ。お互いが強くなってお互いに助け合って、お互いに優しく出来るために強くなるんだろ」


俺は言いたいことを言ってるだけだった。説得なんてもんじゃない。吐露に過ぎない。それでも、自分が何十年も続けてきた哲学を否定する若造にこの親父は寛容だった。


「じゃあ、お前は真姫とどうするっていうんだ」

「助け合って、支え合って、愛し合って、更にお互い強くなるよ」


恥ずかしくなど無かった。男ってのは強敵を前にした強がりの方が勇気が出る。大きいことも言ってのける。


「真姫も同じ思いなのか」


真姫パパは俺の後ろを見やった。……ウソだろ!?


「う、うん……そ、そ~だな」


そこには珍しくも髪を梳きながら恥じらう真姫ちゃんの姿が! ちょっと、今の聞いてたの!?

こうなると恥ずかしさの限界だ。愛の告白をうっかり聞かれることほど恥ずかしいことなど無いね。さっきまで堂々たる態度で臨んでいたはずだが、もう畳に突っ伏すように倒れ込む。本当ならそのままゴロゴロしたいところだ。枕で顔を隠して、悶絶するのを我慢して耐える。くぅ~。

ところがそんな空気は一瞬にして破られた。


「わかった。祝言をあげよう」

「ええ!?」「なあっ!」


俺と真姫ちゃんは慌てたが、義理の父になる宣言をした男はもうとっくに腹が決まっていた。俺を軽く睨むと、


「さっき言ってたことは違うのか」

「いや、ち、違いませんよ」

「助け合って、愛し合う。それをなんだ、未婚のまましようっていうわけじゃないだろうな。娘の父親としてそんないい加減なことを認めると思うか?」

「お、おお、そ、そうですね」

「真姫もそうだな」

「ええー、でもちゃんとプロポーズされてないしな~」

「おい、今すぐしろ」

「え!? 俺が!? 今? ここで?」

「早くしろ」


真姫ちゃんに向き合うと、彼女は俺の方に向かって黙って立っていた。その表情は期待と喜びに満ち溢れている。目は潤み、大きく見開かれている。頬は紅潮し、薄い唇は細かく震えていた。それを見ていると本当に思える。守りたいって。好きでいたいって。愛しいって。

一生、一緒にいたいって。


そして、俺はプロポーズをして、二日後には結納ってわけだ。まぁこのままエンディングなんだろうから、早すぎるってこともないのかもしれん。結局、初夜を迎えることがないところがクソゲーなわけだが。ほんとに、ほんとに、ほんとにそこがクソゲー。


卒業式の後、いつものごとく後日談が頭に流れ込む。


数年の間は一緒に世界中で修行旅行。

妊娠を機に道場を継いで、そのまま七人も子供を授かった。

義父も含めて、家族はみんな健康で元気に暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

本当にめでたい。お話としてはね。しかし、いつもの通り、その実感の無さよ……。

でも、真姫ちゃんについてはサービスシーンも結構あったからいいかな!? 背中に感じたあの感触、一生忘れないよ!


そして、一生一緒にいたい女性と別れを告げて、また次の女の子を攻略するプレイが始まる。



ついに4週目が終わりました。

どのタイミングでも感想は欲しいのですが、こういうときは本当に欲しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これまで毎周からみがあった真姫ちゃんもここでクリア?消滅?成仏かあ [一言] こう、FF10のラストバトルを思い出す あれも悲しかった
[良い点] 4周目もとてもいい話でした。 体罰親父、最初は本当にムカついていたのに最終的に憎めなくなっていて見事に作者様の掌の上で転がされてました… 真姫の強さから察するに現実ではただの虐待でも、この…
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