異世界メモリアル【第15話】
元日の夜。
今年初めのステータス確認である。
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 114(+4)
理系学力 97(+4)
運動能力 116(+5)
容姿 139(+1)
芸術 48(+2)
料理 133(+10)
―――――――――――――――――――――――――――――
こんなもんだな。
冬休みに入ってから、年越しそばとおせち料理作りしかやってないからな。
【親密度】
―――――――――――――――――――――――――――――
実羽 映子 [子猫くらい好き]
望比都沙羅 [朝の占いくらいの存在]
次孔 律動 [ちょっ~っとだけ好きかも!?]
寅野 真姫 [まじ勇者]
―――――――――――――――――――――――――――――
子猫くらい好きって、もうこれかなり好きじゃん。
どう考えても実羽さんは子猫のこと大好きじゃん。
これってもう告白されてるようなもんだよね。
やばいな、ステータス確認のたびにラブレター貰っちゃう感じ。
いままでは親密度が低かったから、思ったことなかったけど。
沙羅さんも、毎日気になっちゃうってことなんじゃあないの?
ばーかばーかとか言ってたけどさ。
次孔さんはもう笑っちゃうよな。
適当に言ってたそのまんまなんだもん。
真姫ちゃんも普通から勇者だから躍進だよな。
親密度は大分好調だ。
ステータス確認が終わって、改まって俺は舞衣に話しかける。
「舞衣、子猫の里親を見つけたいんだけど」
「……そんな相談されても力になれないよ?」
「そうかー。俺の知る限り、舞衣ほど頼りになる人はいないんだが」
むー、と人差し指を顎に当てて思案する妹。
「何か有るたびに妹に相談するっていうのはどうなの?」
――うむ。
情けない兄と映るのかもしれない。
もっとも、情けなくないとも思ってないが。
「俺は子猫の里親を見つけたい。そのために一番頼りになる人に相談するのは当然だ。俺一人の力でどうにかしようなんて思っていない」
舞衣はじっと俺の顔を見ている。
「やるだけのことをやるってのは、一人で頑張ることじゃないと思う。目的を成し遂げるために最善を尽くすってことだ。俺は舞衣のちからを頼るべきだと思った。それだけだよ」
ふう、と息を吐いてから舞衣は言った。
「じゃあ良く出来た妹からアドバイス。次孔さんはただの新聞部じゃないの。もっとずっと影響力を持ってる。頼ってみたらいいよ」
「ありがとう、相談してよかったよ」
舞衣が俺よりも圧倒的にこの世界のこと、いいやそれだけじゃない。
俺が知り合った女の子のことでも、何でも俺より詳しいことは明白だ。
妹に頼りたくない、なんてことは俺は思わない。
情けなくたって、成し遂げたいことは成し遂げたほうが良い。
ゲームについてもそうだ。
攻略サイトなんて見ないでプレイするほうが楽しいと思う。
しかし何としてでもコンプリートしたいゲームもあるだろう。
それならクリアした人に聞いてもいいし、攻略本でも買えばいい。
今回のはただのクエストじゃない。
実羽さんが心底願っている、子猫の将来のことなのだ。
里親を見つけるためなら、土下座でもなんでもしてやるさ。
冬休み中なので、学校は無い。
しかし次孔さんは新聞部だから、部活動の活躍の場には居るに違いない。
正月は神社でかるた競技大会が行われる。
かるた部の取材に来ているかもしれないと思い、初詣の翌日も神社に来ていた。
すぱーんと札を弾くカッコイイ部員たち。
それをカッコよく撮影している次孔さんを見つけた。
普段軽い印象なところがあるけど、真面目な顔も魅力的だ。
トレードマークの音符の髪留めを揺らしながら、小さい身体を動かして写真を撮っていた。
邪魔できる雰囲気じゃない。
俺は百人一首をBGMに、彼女の懸命な姿をずっと見ていた。
一通り終わったところで、話しかける。
「次孔さん、ちょっといい?」
「おっ!? なんですか? 振り袖ウィークに出なくていいんすか?」
――なんで俺のバイト先の女装メイド喫茶について詳しいんだ。
振り袖ウィークというのは、1月2日から1週間メイド服ではなく振り袖を着るというイベントだ。
「……明日から出勤だよ。花魁の方だけど」
「あぁ、人気があまりないメイドさんは振り袖じゃなくて花魁風衣装なんでしたっけ」
ほっとけよ。
そっちのほうがお客様のリアクション良いんだぞ。
次孔さんはおっぱい小さいから男に胸元を見せる快感を知らないんだろう。
――なんて言ったら殺されるかもしれない。
知ってる俺もどうかと思うしな……。
そんなことは口に出さないように、本題に入る。
「実は子猫の里親を探したくて、協力してもらえないかな」
「子猫の里親探し? なんでそんなことを?」
理由。
理由か。
「里親が見つかるようにと神様に祈ってしまったけど、別のお願いが叶っちゃったんだ」
「――ちょっと、何言ってるかわかんないんだけど」
なんでわかんないんだよ。
ってそりゃわかんないか。
腕を組み、目を瞑って考えている次孔さん。
理由は事実ではあったが、説明がわかりにくくなってしまった。
しかし実羽さんのためと言うのは恥ずかしすぎる。
「まぁ理由はいいや。じゃあ、ラジオに出演したらいいっすよ」
「……ラジオ?」
「聞いたことないんですか~? ショックだなあ。次孔 律動のリズム天国っていう番組を地元ローカルでやってるんですよ」
えぇ~! 次孔さんラジオ番組持ってるのかよ!
凄いな、この人。
「今夜の生放送にゲスト出演してもらって、そこで告知したらどっすか?」
「おお! それでよろしく!」
こうして今夜、俺はラジオデビューすることになった。