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異世界メモリアル【4周目 第26話】


どうしたらいいかなどと、悩んでいても答えは出ない。

俺は哲学をするためにこの世界に転生したわけじゃないんだ。

これは、ギャルゲーなんだよ。

そう割り切らないと前に進めない。


門下生がやってきたので、俺は真姫ちゃんのお父さんを任せて一旦帰宅した。

眠れるわけもないと思っていたが、まともに眠っていなかった俺はベッドに倒れ込んだ後、意識を失うように丸一日寝ていたようだった。


たっぷり寝たら、気持ちが切り替わった。

細かいことはいい。俺はこのゲームを攻略するんだ。


改めて寅野邸に訪問した俺は真姫ちゃんを呼び出した。


「真姫ちゃん、俺と闘ってくれ」

「なんだ、突然」

「理由は後で話すよ」

「ふーん。わかった」


お互い道着に着替えて、道場で向かい合う。

散々二人で一緒に彼女の父と闘っていたが、やり合うのは久々だった。


もちろん、強い。真姫ちゃんはものすごく強い。

と思っていた。

こんなに動きが読めただろうか。これほど攻撃がよく見えただろうか。正直なところ避けるのが容易だ。冷静に身体を捌くことができる。反撃を繰り出せば当たるという確信がありすぎて逆に打ち出せない。つまり、俺は本気で戦う相手としては不足だと思っている。


なんとなく、攻撃をやり過ごしながら適度に試すような攻撃をしてみたりを暫くの間やってみて合点がいった。俺は今、親父さんと同じような動きをしている。俺に対してしてくれてた動きを、今俺がやっているのだ。


なんだ。やっぱり。そうだったんだ。

彼は愛情がこじらせすぎて不器用すぎてシッチャカメッチャカで、とても許せないような行動をとったけど、それでも娘を愛してなかったわけじゃないんだ。

それどころか俺に対しても修行をつけてくれるようなやつなんだ。


ふざけやがって。初回プレイで怒りに任せてぶん殴りに行った俺の気持ちをなんだと思ってるんだ。あの怒りは間違ってたなんて少しでも思わせるんじゃねえよ、クソゲーが。


「ロト、お前……ハァハァ……こんなに強かった……いや強くなったのか」


俺は最小限の動きで動いてるだけ。フォークダンスのほうがまだ疲れるかというくらいだが、彼女は完全に息が上がっている。いつの間にかこれほど実力差が出来ていたのか。


「真姫ちゃん、俺が強くなれたのもきっとお父さんのおかげだよ」

「フゥ、フゥ、なんだ、どうした」


会話しながらも蹴りを繰り出してくる。それを片手でいなしながら話を続ける。


「俺はね、ずっと嫌いだった。いや、憎んでいた、ずっと前から」

「ずっと前から……?」

「そうだよ。真姫ちゃんにひどいことをする君の父親が許せなかった」

「んー。それが当たり前になってるから、別にそう思って、ない、けどなっ」


パンチとキックのコンボ攻撃も、イージーモードのリズムゲームくらいの感覚で対処できる。強くなったなあ、俺。


「今でも許してないけど、憎くてやってるわけじゃなかったみたいだ。でも愛してることが伝わるような態度でもないだろ」

「お前、なんか恥ずかしいことを平気で言うのな」


真姫ちゃんは攻撃を止めた。恥ずかしがっているというよりは呆れているようだ。肩で息を整えつつ、頭を掻いている。


「これからもっと恥ずかしいことを言う」

「え~」

「真姫ちゃん、好きだ。愛してる」

「うわっうわっ」


俺はがばっと抱きしめた。こうしていると守ってあげたくなるくらい小さな体だとわかる。


「ずっと真姫ちゃんを守りたかった。父親から守ってあげたいと思ってた」


胸元を見ても、彼女は下を向いていて表情はわからない。ただ、全く抵抗していないことを返事だと受け取って話を続ける。


「だから俺は強くなったんだ」

「そうだったのか……」


首筋に温かい吐息がかかる。


「それがこの始末だよ。卑怯な手段で散々疲労させて休ませないで闘ってそれでも勝てなくって、倒れさせて。しかも強くなったのは完全にお父さんの修行のおかげで。情けない」

「そっか」


下手に励ましたりしないところが、真姫ちゃんの優しさだと思う。ありがたい。


「お母さんは病気だったんだってね」

「うん」

「弱いから早く亡くなったんだって言ってた」

「うん」

「だから強くなって欲しかったって」

「……うん」

「俺はずっと弱いものを守るのが強さだって思ってた。それが優しさだって。でも俺と君のお父さんでは優しさの考え方が違ってるだけだった。ちゃんと真姫ちゃんのことを大事に思ってたんだ」


ぎゅ、と腰に当てられた手に力が入る。抱きしめ返してくれたのだ。胸に彼女の頬が当たっている。


「ロトは、そんなに思ってくれてるのか?」

「うん」

「本当に?」

「本当に」

「証拠は?」


証拠か。

考えてみればズルいことに、こっちは証拠があるんだもんな。真姫ちゃんが俺をどう思っているかはシステムとしてわかっている。親密度という形で。

俺の気持ちをどうやって示せば良いのだろう。その問題は熟考する前にとても簡単な選択肢が提示された。


真姫ちゃんが背伸びをしながら、目を閉じたからだ。


俺は口づけをする、という選択肢を選ぶだけだった。


次回で4周目が終わります。

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