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異世界メモリアル【4周目 第24話】


卑怯などとは言わせない。

だってこれはクリスマスプレゼントなんだからな。


俺と真姫ちゃんは毎日、毎日闘いを挑んだ。

俺がこれ以上無理だと思ったら、真姫ちゃんにタッチ。互い違いに延々と攻撃を仕掛けるのだ。俺達だけがタッグマッチになっているような状況だ。最初は罪悪感もあったのだが、どうせなら一緒にかかってこいという挑発によって交代しているだけフェアだと思うようになっていた。

それでも一日中は闘えなかった。なんせ相手は強い。とにかく強い。


しかし俺達は諦めない。

大晦日も元日も、三が日が明けてもずっと毎日闘いを挑む。

なぜなら勝てるまで闘うと決めたから。


負け続けてはいても俺も真姫ちゃんも成長しており、徐々に攻撃を受ける回数は減って闘える時間が伸びていった。

二月にはついに朝飯を食べてから夕飯を食べるまで闘い続けるようになった。

だが、まだこれじゃ駄目だ。

俺はいままでにバイトで稼いだ金をほとんど体力回復のアイテムに変えた。これで丸一日闘えるだろう。


「まだやんのか?」


夕飯を食ってからも攻撃を止めない俺達にようやく愚痴のようなものが出た。弱ってる、弱ってる。


「当たり前だ、泣き言言うな」

「抜かせ」


俺の攻撃はガードされ続けているが、多少のダメージは与えられている。相手の攻撃は回数が少なめだ。当然だろう、ずっと闘い続けているのだから攻撃する方が疲労が激しい。格闘ゲームだってこれほど長い時間やったらクタクタになるってもんだ。実際に体を動かしてるんだから、ダメージがなくとも体力がもたない。


本当はわかっている。これは卑怯だ。少なくともフェアじゃない。

本来の格闘というものは持久戦じゃないだろう。これは相手が()を上げるまでひたすら挑み続けるという嫌がらせに近いものだ。しかしそれでも。勝ちは勝ち。俺達は絶対に勝たなくてならない。そして、俺はこの親父をぶん殴って参ったと言わせる。そう決めている。


さて、また攻撃を仕掛けるかと思った矢先にクソジジイは突如、構えを解くと道場の壁にある時計を見た。もう飯は食ったぞ。まさか夜食だとか言わないだろうな。


「風呂の時間だ」


なんだと?

このおっさん、飯の時間もきっちり決まってるが、風呂もかよ。


「格闘家にとって食事は大事っていうのはわかるが、風呂は理解できないぞ」


俺は抵抗した。要するに風呂に入ってる間は休憩出来てしまうので不利だ。とにかくこいつを休ませずに弱らせる作戦なのだから。真姫ちゃんは単純に「おー、ロトはすげーやる気だなー」としか思ってないが、俺は卑劣な手段である自覚がある。なりふりかまっていられない、卒業までに絶対倒さなければならない。

俺が睨めつけてもヒゲ野郎はひょうひょうとした表情を変えない。


「俺が臭いのはいいが、真姫が臭いのは問題だろう」


カチンときたね。俺はいいが娘が困るだろうみたいな言い方。お前だけは絶対そんなことを言うな。偽善者野郎が。絶対的な悪者のほうがまだマシだ。


「なんだと? 臭いわけないだろ」

「それだけ汗かいた道着が臭くないわけがないだろ、馬鹿かお前は」

「じゃあ証明してやる」


俺は真姫ちゃんの肩を抱く。


「お? 何するんだロト」


無防備にきょとんとした目。これから俺が何をするのか少しも予想していない。


「わわわわ! なんだなんだ!」


俺が真姫ちゃんの正面から首の方に顔を近づけると、動揺し始めた。すまん、すぐに済むから。

スーッ

右耳の下から襟足の髪のところへ鼻を突っ込み、首の後の匂いを思いっきり吸った。


「何してんだロト!?」

「匂いを嗅いでるに決まってるだろ! いいから大人しくしてろ!」

「うう~」


スーハースーハー


何度も匂いを嗅ぐ。臭くないことを証明するためだ。もちろん、臭くなどない。しかしなんというか……全く匂わないというわけでもない。シャンプーや石鹸のような香りではないし……。


スーハースーハー


「もういいんじゃないか……?」

「黙ってて! 今、集中してるから!」

「うう~」


髪からなのか、首からなのか。もうちょっと奥の方を嗅ぎたいが、なんかお腹にぶつかって近寄れないんだよな。なんだよこれ。柔らかいのに押し返してくるような弾力があって、顔を前に近づけようとするとはじき返すように抵抗してくる。邪魔だなあ。


スーハースーハー


ううむ、なんというか甘い香りの中に少しのシトラスを感じる。しかしずっと匂いを嗅いでいたらだんだん頭がクラクラしてきたな。


「うう~、もうお風呂入る!」


真姫ちゃんはものすごい勢いで逃げ出していった。せっかく臭くないということを証明したというのに。

仕方がない、俺が足止めを……と気合を入れて振り返ると奴はすでに居なかった。やっぱり自分が風呂に入りたいだけじゃねえか。


ふんふん


自分の脇の臭いを嗅いでみる。臭え。風呂に入ったほうが良いのは俺だ。着替えたほうが良いし、一旦家に帰ろう……。


舞衣は温かく迎えてくれたが、鼻をつまんでいた。

どうやら、飯と風呂はちゃんとしないと駄目みたいだな。


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