異世界メモリアル【4周目 第18話】
令和でもよろしくおねがいします、って書いている人多いんだろうなー。
自由研究の対象になるのは思いの外、嫌な気分ではなかった。
なので、妹を研究するのは問題ないだろうと思ったが、本気で嫌がられてしまった。
更に言えば、俺が研究されていること自体も舞衣は快く思っていないようだった。なんでだろ。
せっかくなので武道の研究がしたいということで真姫ちゃんに頼み込んだ。
武道の研究のために必要な情報だと言えば、下着のサイズから何から全部教えてくれるので、逆に心配になってしまったね。
もちろん、発表なんかしません。心に刻んだだけです。
こうして無事に夏休みは終わり2学期を迎えた。
2年生の2学期と言えば、そう修学旅行である。
毎回、結構楽しみにしているんだよな。
今回も3択だった。
選べるのは元ネタがRPGだったりテーブルゲームだったりするが、さて。
1.アイドルを育てる世界
2.生徒を卒業させる世界
3.ホムンクルスを育成する世界
あらー。どうやら育成ゲームだね。しかもギャルゲーの。
ここはやっぱり1番でしょう。
というわけでアイドルを育てる世界へと行くことになったわけだが、遠すぎ。
まさか飛行機で16時間かかるとは。なんならファンタジーの世界に比べたら近くないとおかしいだろ。
俺がアイドルとして育てられるとかいうクソゲー展開になることもなく、無事にプロデューサーに就任できた。
「良かった、ロトさんがプロデューサーなら、私もアイドルになれるかも」
そう言って俺の元へやってきたのは、実羽映子さんです。
まぁ、いかにもアイドルって感じの白くてきらきらした衣装が似合う似合う。
髪型は茶色のストレートで、赤い紐の髪留めを付けていた。
なんというかその、センターを取りに来たって感じ。
「おー、アイドルとか意味わかんねえけどよろしくなー」
片手を上げて尻を掻きながらやってきたのは近所のおっさんではもちろんなく、寅野真姫である。
意味わかんないのかよ。
衣装は似合うとか似合わないとかいう話ではなく、とにかく胸がはちきれそうだ。
ぱっつんぱっつんという言葉では表現しきれない。
「アイドルにしてあげるなどと言う勧誘から、いつしか要求はエスカレートしていき、大丈夫、みんなやってるからとかそのくらい我慢しないととか言ってる間に、気づいたら集団レイプされているところを動画で撮影されて……」
「来斗さん、その展開にはならないから」
「残念」
来斗述という女の子は黙っていれば黒髪ロングの清楚系おっとり美人のポジションを確立できるのだが……。
この3人をアイドルとして育てるらしい。3日間で。
「よし、まずは歌唱レッスンだ」
くぅ~、俺Pだよ俺P。夢のようだね。
腕を組んでみんなの歌を……聴いていられなかった。
「待って、待って。トラはジャイアンのものまねでもしているの?」
「誰だよジャイアンって」
いや、もうボエエエ~って感じだったよ?
さすがに気絶するほどではないけど、本当にそれは歌なのかと問いたいくらいにはひどいね。
真姫ちゃんは後で特別レッスンしないと駄目だ。
「次は、ダンスレッスンにしよう」
ラジカセから曲が流れる。久しぶりに見たね、ラジカセ。
今回の修学旅行では2曲を歌って踊ると決まっていて、曲も振り付けも同じ。最終日に全チームがステージに上がって投票で競うのだそうだ。
俺は腕を組んで、みんなのダンスを……見ていられなかった。
「ちょっと、ちょっと。来斗さんは俺のMPを削りたいの?」
「なんですかMPって。マゾプレイ?」
ふしぎなおどり、としか言いようがない。
さすがに仲間を呼んだりはしないから、MP吸い取られて全滅することはないけどひどいね。
来斗さんは個別にレッスンが必要だ。
俺は実羽さんを呼び出して、レッスン場の隅へ。
「お願いがあるんだけどさ」
「ロトプロデューサーのお願いですか?」
まっすぐで潤んだ瞳。何でも聞いてくれそうな顔だ。うう、アイドルのプロデューサーって仕事はやはり良いなあ。
「実羽さんは歌も上手だし、ダンスも出来る。センターを任せたい」
「うふ。そうですよね」
嬉しそうに声を弾ませた。グッドコミュニケーションだな。
「トラの歌と来斗さんのダンスが壊滅的なので、俺はそちらにかかりっきりになるから、来斗さんとの歌の練習と、トラとのダンスの練習は実羽さんに頼みたいんだ」
「えっ、ええ? つまり、私以外の2人とばっかり一緒にいるってこと?」
「へ? まあ、そうなるかな」
がくりと肩を落とす実羽さん。この後、そんなの関係ねぇを連発するネタが始まるのかと思うくらい、下手こいた感じに見える。実羽さんは一番上手なんだけど。
「仕方がないか……ご褒美は期待してますよ」
「う、うん」
ご褒美って何だろう……。
実羽さんの事は考え出すと怖いので、とりあえずレッスンに戻る。
「はーい、トラちゃんはこっちに来てね~。伴奏に合わせて声を出してもらえるかな~」
「は~い! ってなんかお前馬鹿にしてないか? 幼稚園児扱いしてないか?」
バレたか!
しかし、最初のは~い! のときは全然気づいてなかったのアホカワイイ。
「そんなことないですよ~。さん、はい、あああああ~♪」
「あああああ~♪」
そんな感じで初日は幼稚園児レベルの歌唱力を普通の女子高生にまで持っていくことに成功した。
「あっ、ロトさん昨日の進捗などの報告が」
「実羽さん、任せた! 信頼してる!」
「ん、もう」
俺は真姫ちゃんを押し付け、来斗さんの手を取ってダンスレッスンへ。
実羽さんはぷいっと顔を背けていたが、大丈夫だろう。
「はい、来斗さん、お~て~てを、う~え~に~♪」
「むっ、これは園児プレイ!? さすがロトさん、ド変態ですね!? やる気が出てきました!」
バレたか!
しかし、幼児プレイだと分かった方がやる気が出るとかヤバイ。
真姫ちゃんの方が全然健全だったな。
「ロトせんせ~、おトイレ~」
「ダンス以外は普通でいいから! ダンスが幼稚園レベルなだけなんだよ!」
「ひ、ひどい」
「ひどいのはダンスだから」
「ううっ、ドSすぎる……興奮してきました」
「そりゃ良かったね、頼むから早く年長さんクラスのお遊戯が踊れるようになってくれ」
しかし、手を頭に乗せてキツネさんをしている来斗さんはやたらに可愛かった。保母さんとかになったらいいのに。
2日目はどうにか来斗さんを振り付け通りにダンスが出来る所まで持ってきた。
3日目は午前中最後のレッスンを行って、午後にはコンサートだ。
「よし、みんなで課題曲を歌って踊ってみてくれ」
ふむふむふむ。
なんというかな。
「来斗さんはダンスがまぁまぁで歌が上手い。トラは歌はまぁまぁでダンスが上手い。しかしセンターの実羽さんはどっちもまぁまぁだな」
「誰のせいよー!? だから報告しようとしたのに!」
ヤバイ、ついに実羽さんを怒らせてしまった。
「ロトプロデューサー、私にもマンツーマンしてくれないと許しませんよ」
「は、はい」
実羽さんは睨むと怖いので、ただ従うしかない。
しかし俺Pは全く駄目駄目なものをそれなりにすることは出来ても、まぁまぁなものをプロ顔負けにする実力などないのである。
結果としては、平凡となった。
20組中の8位という、まぁ何とも言いようがない。
3人のリアクションとしても、まぁ何とも言いようがないなという顔だった。
やっぱりプロデューサーは難しいな……。
帰りの16時間の飛行機の中で、エコノミー症候群になりながら、意外と悔しい気持ちになっていた。
まさか平成が終わってまでときメモみたいな小説を書いているとは思いませんでしたね。
そろそろ4周目も佳境に入るから気合を入れていかねば。




