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異世界メモリアル【第14話】


「いやー、年末年始は家族で過ごすに限るよね」


俺は自分で作った不味い蕎麦を食いながら、最愛の妹に話しかける。

この世界に蕎麦粉なんてもんはない。

代用品を探しては見たものの。

有名な立ち食いそば屋の10倍以上ボソボソとした蕎麦になった。


「デートの約束がないことを正当化するお兄ちゃんでありましたとさ」


ズゾゾ、と落語家のように啜る舞衣。

蕎麦という食べ物は初めてのはずなのに食べ方が江戸っ子のように堂に入っていた。

謎の多い妹である。


「俺だって大事な用事があったけどキャンセルしたんだよ?」

「女装メイド喫茶で年越しイベントするようになるのは流石に、と思っただけでしょう」


……俺の考えは基本的に、いや、全部妹に見透かされているの?

そんな顔をしていたからか、アドバイスめいた発言をくれた。


「年が明けたら神社に行くといいよ。誰かいるかもしれないし」


お?

場所に行くことでエンカウントしてイベントが発生するやつか。

昔はそういうゲームもいっぱいあったよなあ。

行く前に誰が居るかわかっちゃうシステムのものもあったが。

当然ですが移動マップが無いからわかりません。


年が明けた途端、俺はコートを羽織って家を出た。

ああ、寒い。

神社に着くと、さっそくエンカウントした。


「押忍、ロトも火渡りか?」


白い装束に身を包んだ裸足の美少女であった。

夏休みの補修仲間として出会った真姫ちゃんである。

万夫不当ばんぷふとう強者つわもの という噂だが、俺には最強のおっぱいに見える。


「い、いや俺は普通に初詣だけど……」

「よし、おめえも一緒にやっとけ」


有無を言わさず連れて行かれる俺。

運動能力が人並み以下の俺は、屈指の武術家の前では無力である。


火渡りって、両脇に火が付いてる道を渡るだけかと思ってたが……。

目前にはスーパーマリオに出てくるような火柱がぐるぐると動いていた。


「よっ、ほっ」


真姫ちゃんは要領よく飛び越えたりくぐったりして渡っていった。

ええ……なに、この謎のミニゲーム。

いや、ミニゲームが突然始まるギャルゲーもいっぱいあったわ。

ゲーマーの俺にとっては有利なイベントだ。

この身体はコントローラーよりもうまく動かせないけど。


「ロト―! 続け―!」

「応よ!」


ゲームだと思えばイケる気がするぜっ。

よっ、ほっ!


「って、熱っちーよ!」


俺はマリオじゃねーから直接火に触れなければ平気、ってことはねえよ!

近づくだけで熱くて死ねるわ!

しかし真姫ちゃんは余裕で渡り終えたようだ。


「早く来ーい」


くそう!

これはゲーム、これはゲーム……。

これはスペランカーじゃないから簡単には死なない、簡単には死なない……。

自己暗示をかけて、気合で乗り切る。


うおおおお!


熱ささえ気にしなければ、ミニゲームとしては簡単だった。

ロックマンみたいにスライディングが必要だったら燃えてたね。


「やるじゃないか、ロト」


にひひ、と歯を見せて笑った。

よっしゃ、好感度アップ、のはず。

ガッツポーズをしている俺にもっと騒がしいやつが近づいてきた。


「おお! トラちゃん以外に火渡りを成功させる猛者もさがいたとは~」


パシャパシャとカメラを撮りつつ近づいてくる。

言うまでもなく新聞部の次孔さんである。


「学校新聞に載せてもいいっすかね~」

「親密度が上がるならいいぞ」

「はい?」


しまった、火渡りでテンションが上がったのか正直に答えてしまった。

ゲーム用語を攻略対象に言うなんてあってはならないことだな。


「つまり、俺のことを今より好きになってくれるならいいってこと」

「……ひょっとして今、わたし、口説かれてます?」


きょとん、とした顔を見せる次孔さん。

しまった!

そうなるな、そりゃそうなるわな。

良くもこんな恥ずかしいセリフを言えたものだ。

羞恥で顔が赤くなる俺。


「こ、これは火の灯りが顔に映ってるだけで赤面してるわけじゃないから」

「はあ。別に何も言っていませんが」


至って平常心のツッコミが返ってくる。

俺の方だけが一方的に恥ずかしがっていることが恥ずかしいよ!

口説かれたと思ってる側は何とも思ってないじゃないか!

この振られたような感じ、つらい。


「ん~、良くわからないですケド、ちょ~っとだけ好きになったかな」


えっ、マジ?


「ってことで、新聞には載せますねっ」


ぶんぶんと手を降って去っていった。

適当かよ!

新聞に載せたいだけだろっ。

いや、待て。

舞衣との確認で親密度はわかるのだ。

今のセリフが適当かどうかもわかるってことだ。

俺は呼吸を整えて、冷静になる。


「神社でいちゃいちゃと、天罰を恐れない勇者ですね、あなたは」


うわあっ!

いつの間にか後ろに沙羅さんがっ?


「勇者というなら、火渡りをしたことに対して言って欲しいところですが」

「俺を~今より~好きに~」

「ちょ、やめ、やめて」


恥ずかしいセリフを言った相手に再生するの禁止!


「やめて欲しいですか?」

「やめて下さい、お願いします」


俺が懇願すると、腕を組んでフフンと鼻を鳴らしながら胸を反らして言い放った。


「私を今より好きになったらいいぞ」


さっきの俺の恥ずかしいセリフを堂々と言う沙羅さんだが、よく見ると振袖姿だった。


「……沙羅さん、振り袖が凄く似合ってるね」

「――ぇっ?」


困惑する沙羅さんを俺は上から下までじっくりと観察する。


「もともと和服とか似合うと思っていたけど――本当によく似合ってる」

「ふええっ!?」

「いつも可愛いけど、いつもに増して可愛い」

「かっ、かわっ?!」

「さっきより、ずーっと好きになったよ」

「―――――――――ッツ」


顔を真っ赤にした沙羅さんは逃げ出した。


「お、覚えてなさい! ばーかばーか!」


恥ずかしすぎるのか、ヒドイ捨て台詞だった。

あのクールな沙羅さんが、照れると子供のようだなあ。

なんて可愛らしい人なのだ。

よし、今年はもっと沙羅さんを恥ずかしがらせることができるようにってお祈りしようかな。


賽銭箱の方に行くと見知った美少女が参拝中だった。

参拝を終えた実羽さんに話しかける。


「あけましておめでとう、何をお祈りしたの?」

「世界が平和でありますようにと」


……目がマジだ。

この人は本当にそれを願っている。


「あと、この子の里親が見つかりますようにって」


実羽さんは、子猫を抱きかかえていた。

全く、どんだけいい人なんだ。

もはや俺の恥ずかしい願いが、恥ずかしすぎて願えないよ。

俺は参拝して、この子猫の里親が見つかることをお願いした。


「ロトさんは、何をお願いしたんです?」


実羽さんは俺を待ってくれていたようだ。

ううむ、本当のことを言うのは照れくさいな。


「実羽さんともっと仲良くなれますようにって」


頬を指で掻きながら、誤魔化すように、結局照れくさいことを言った。


「あははっ」


なぜか笑う実羽さん。

子猫の手を持って俺の方に招き猫のようなポーズをさせて言った。


「その願い、叶えてしんぜよう~」


とても聞き覚えのある場面で、とても聞き覚えのあるセリフ。

だが、言ったのは神様ではなくヒロインだった。

やれやれ。

ゲームでは願い事の選択肢は一つだ。

一つはもう叶ってしまった。


だったら神様に願った方は、自分の力で叶えようかな。




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