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異世界メモリアル【4周目 第16話】


気持ちいい。

もはや気持ちいいですよ。


女子にしては体の大きな、柔道着を格好良く着こなしている対戦相手は、俺の腕を見事に腕ひしぎ逆十字固めしていた。

去年はこれでもうギブアップって感じだよね。

今の俺はかなり強い。


はっきり言おう。

肘がおっぱいに当たっています。

正確には肘を中心として腕の半分くらいが当たっています。

腕が痛いことよりもそっちの気持ちよさが勝ってしまっています。

普通はそれどころじゃないくらい腕の関節が悲鳴をあげるのだろうが、ステータスが違いますので。

痛みが10だとして気持ちよさが90くらいの割合だね。


「いいぞ、相手は少しも動けないみたいだ! このまま決めてしまえ!」


対戦相手の仲間らしき連中が声援をあげる。

残念だが、動けないのではない。動きたくないだけだ。

真冬の布団のように、柔らかくて温かくて気持ちいいからです。


「ロト―! 闘ってるときにニヤニヤすんなー! いくら相手が弱いからって失礼だぞー!」


真姫ちゃんに怒られてしまった。

どうやら実力差があるから、笑いながらわざと技を受けていると捉えたらしい。

違いますよ、おっぱいですよ。おっぱいでニヤニヤしてるんですよ。

しかしその真相を伝えるわけにもいかん。


怒られてしまったので、仕方なく攻勢に転じる。ま、制限時間もあるからそろそろ倒さないといけないのだけれど。


俺は彼女を、腕ひしぎ逆十字をしているままの状態で、直立した。

どよどよと周囲がざわめいた。まぁこんなことが出来るのはプロレスラーくらいだろうからな。

対戦相手は仁王立ちした俺の右腕に絡みつきつつ、少しも力を弱めることなく目を見開いている。


右腕を曲げ、肩に乗せる。

彼女の首を左腕でしっかりとホールド。

そのまま地面に叩きつけた。デスバレーボムと呼ばれる技だ。


ぶっ倒れたところを容赦なく、腕ひしぎ逆十字にキメる。

相手の得意技を使用することを、掟破りと呼ぶらしいね。

腕は折れない程度に曲げてあげた。


「YOU WIN!」


審判がジャッジを宣言する。

俺は掟破りの腕ひしぎ逆十字によって、年に一度のストリートファイト大会、その第1回戦を勝利した。

去年は1回戦でボロ負けだったからなー。


ストリートファイト大会は男女混合、無差別級の闘いだ。学年別ではあるが、他は一切なし。

対戦場所も、もちろん武道館などではない。

毎年変わる決まりだそうだが、なんと今年はビーチ!

砂浜は夏の日差しを受けているが、そこそこの温かさだ。

素足で砂を踏む感覚が楽しい。ボクシングやプロレスの靴を履いているやつは砂が入って気持ち悪そうだ。


「全く、ロトは武道をなんだと思っているんだ」


勝った俺に説教しているのは、もちろん寅野真姫なわけだが、非常にけしからん水着姿の人に言われてもなんとも思わない。うへへとしか思わない。

場所に相応しい格好が一番有利だという俺の主張に頷いてくれてありがとう。

この大会で水着参加は俺と真姫ちゃんの二人だけだ。

みんなは空手着だのボクサーパンツだのファイトスタイルに合わせた格好をしている。


「いやー、ちょっと嬉しかったもんで」

「そうか。最近そもそも闘ってなかったもんな」


嬉しかった理由を勝手に勘違いしてくれた。


「よっしゃ、じゃあこっちも楽しんでくるか!」


真姫ちゃんは左手の平に右の拳をぱしーんぱしーんと当てながら、天真爛漫に快活な笑顔でそう言った。


「YOU WIN!」


瞬殺ってのはまさにこのことだね。

背は低いががっちりした体格のアマレスのコスチュームを着た男が対戦相手だった。

真姫ちゃんはファイトが始まってすぐにスタートダッシュ、そのままラリアット。

相手は首を中心にして身体を半回転させ、顔面から砂浜にダイブ。そのまま起き上がることはなかった。

ストリートファイトの基本ルールは2ラウンドなのだが、大会の都合上2回戦までは1ラウンド制だ。ずっと1ラウンドでいいだろと思います。


「あっちゃー、ロトみたいに出来なかったー」


虎柄のビキニ姿でゆうゆうと戻ってきた真姫ちゃんはあっけらかんとそう言ってのけた。

強い。強すぎる。


「むしろ俺がトラを真似してみるわ、カッコイイから」

「そうか?」


対戦が始まった途端に砂を蹴ってダッシュ!

が、ラリアットをかましたところで宙に浮かすことはできなかった。


「トラー、やっぱそう簡単にはいかないわー」

「ロメロスペシャルかけながら言うなー、相手に失礼だぞー」


うん、真姫ちゃんは武道を重んじてて偉いなあ。

俺はプロレス研究会しか経験してないからね、ついね。


2回戦はノーダメージで終了した。相手が男ならこんなもんだ。

俺達は順当に楽勝を重ねた。


次の対戦が5戦目。ここで勝てば次は真姫ちゃんとの決勝戦だ。

相手は巨漢の相撲取りである。


「Round1 Fight!」


波動拳が撃てたらなあと思うね。

大きな男相手に最初はどうやって攻めて良いものやら。


「ぐはっ」


張り手、強え!

胸に強烈な張り手を食らうと、心臓が止まるんじゃないかってくらいの衝撃が来る。

ああ、こりゃ強いな。

しかしこれは負けられん。


真姫ちゃんの胸に張り手なんて、絶対に許さんからだっ!


「うおお!」


俺は膝にローキックを入れる。

巨漢は膝が弱点と相場が決まっている。


「ぐほっ」


両拳を合わせたハンマーを上から振り下ろされた。首の付根に体重の乗った一撃。ダメージゲージだともう半分削られている感覚だ。


さっきと同じ場所にローキックを2発叩き込む。


パアン!


頬に張り手を食らった。あやうく意識が吹っ飛びそうになる。

諦めずに俺はローキック。ひたすら中キックボタンの連打だ。

格ゲーだったら、下手くそなプレイだとしか言えないね。

敵の動きは鈍くなって、ローキックを打つ回数が増えてくる。いいぞ。


うおっ


ジェットコースターのように視界がぐるっと下から上に。

空を見上げたまま、砂浜に叩きつけられる。パワーボムを食らったのか。

相撲の技しか使わないと思って油断したっ。

背中に焼けた砂浜の熱さを感じるやいなや、腹に四股を踏むようなストンピング。


「K,O!」


俺の負けがジャッジされた。

思えば自分の負けを聞いたのは初めてだな。いつも気を失っていたし、最近は負けてないし。


「Round2 Fight!」


ダメージゲージが全く回復しないままRound2が始まる。そろそろみんなこのルールがおかしいことに気づけ。

だが、だからこそってこともある。


張り手をくらいつつも、ローキック、ローキック、ローキックだ。

いよいよダメージが蓄積されたようで、もう下半身が動かなくなった。

中キックコマンドのローキックから大キックコマンドのローキックへ!


ガクッと膝を落としたところに、側頭部への大キック!

そのまま蹴りを数発叩き込むと前のめりに倒れた。


「K,O!」


勝った。

Round1とRound2で1本ずつになるのは極めて稀というか俺は見たことがない。


「Round3 Fight!」


ははは、相手は足がほとんど動かないんだ。

こんなもん勝てるに決まっている!


俺が蹴りを繰り出すと、その足を掴まれた。

足は地面に抑え込まれ、腕で固められる。

そして相手はうつ伏せに倒した俺に乗っかった。ものすごい体重がのしかかる。

そのままフェイスロック。これはステップオーバー・ザ・トーホールドウィズフェイスロック。いわゆるSTFというプロレスの技だ。


痛い! 苦しい! 死ぬ!


重くて動けねえし、足はがっつり固められているし、頬の骨は軋んでいる。

相撲取りがこんな技使うの反則だろ……。


くそ、このままじゃ真姫ちゃんが、胸に張り手を……


そのまま意識は途切れた。



筆者はストⅡとかよりスーパーファイヤープロレスリングの方がプレイ時間が長かったせいでどうしてもプロレス率が増えてしまうのだった・・・。

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