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異世界メモリアル【4周目 第11話】


――長かった。

残暑から4ヶ月。クリスマスイルミネーションが街を彩る頃になってようやくロボット状態から回復した。

映画はもちろん再現ドラマやら舞台、更には能や歌舞伎にまで出演してしまった。よくもまあカタカナしか話せないのに出来たもんだ。


運動能力が秋のうちに鍛えられなかったことはかなり厳しい。

しかし今回は諦めるか、というわけにもいかない。少なくともストリートファイト部なんてものは今回のプレイで初めて存在したわけで次回も存在するかはわからないのだ。


久しぶりに部活に参加する。

両手で頬を叩き、気合を入れて体育館に足を踏み入れた。武道家の慣習で入る前には一礼する。そういった部分が普通のスポーツと武道は違うのだ。剣道部や空手部なんかもそうしている。

ストリートファイト部は上履きなど履かないので、体育館では裸足だ。12月ともなると床はとても冷たい。畳が敷いてある柔道部が羨ましい。

新体操をしている女性陣やバレーボールをしている女性群がいるなかで、今日も体育館の隅でぽつんと一人で筋トレをしている真姫ちゃんの元へ。


「お待たせ、トラ! 今日からまた俺も修行に励むぜ!」

「お? なんだもうヤメたのかと思ってたぞ」

「違うよ! しょっちゅう見に来てたでしょ?」


部活に全く行かなくなると退部になっちゃうかもしれないので、顔は出していたのだ。決して真姫ちゃんの床おっぱい押し当て……じゃない、腕立て伏せを見たいからではない。


「なんで参加しなかったんだ?」

「え? 今更? なんか変だったでしょ、俺?」

「ん~? そうか~?」


顔がロボってて、言葉が片言だったのになんとも思ってなかったのかよ。いくらなんでも鈍感すぎやしませんかね。髪切ったことに気づかないと女子は怒るらしいですよ? 真姫ちゃんはボディは物凄く女子力高いけどメンタルは男っていうかもうオスだね。……はぁ。

などと多少自分に興味がなさすぎることにショックを受けてみたが、本当に興味がないことは親密度でわかっている。つまり俺が弱いからだ。彼女の好意を手に入れるためには強くなるしか無いのだ。なんとわかりやすい!


とりあえず筋トレを開始する。

隣で物凄いスピードで胸を上下にぶるんぶるんさせている……いやスクワットをしているのを見つつ、腹筋に負荷を与えていると、真姫ちゃんは「あ」と声を上げた。


「そういや、一応部員だったから出しておいたぞ。冬のイベント」

「……冬のイベント?」


まさかスキーだのスノボだのじゃあるまい。雪合戦? 雪合戦って格闘技なの?

考え込んでいると真姫ちゃんはあっさりさっぱり答えを言った。


「寒中水泳だよ」

「ああ~~っ!? 懐かしい!」

「懐かしい?」


1周目の1年生のときだもんなー。あんときは死ぬかと思ったよな。次孔さんを助けようとした俺がプールに落ち、真姫ちゃんが失格になってまで助けてくれたんだ。あー、懐かしい。


「って、なんで寒中水泳すんの!? ストリートファイトと関係ないじゃん!?」


俺が懐かしがってることに疑問符を浮かべたままの真姫ちゃんに思わずツッコミを入れた。

懐かしい思い出とともに蘇った、心臓が縮むほどの冷たさの記憶。あれは体を鍛えれば平気になるっていう問題じゃねえ。


「寒中水泳は武道の一種だ。この学校では一番強いやつが虎柄の水着で出場するというのが伝統だぞ」


虎柄の水着が伝統……?

えっ、まさか俺が買った水着のせいなの? あの一周目の行動が立てたフラグ? なんてことをしてしまったんだ……。

俺が購入したアイテムは持ち越される。それは自分のものだけではないらしい。苦労してバイトして買った水着は寒中水泳するためじゃないっつーの。

仰向けで少しだけ脚を宙に浮かせる体制はキツイ。どれだけ眼福があってもキツイものはキツイ。

腹筋が限界に近づいてくる。ツラい……。それよりも水着を買ったことの方がツラい。

思わずため息がでるが、それも腹筋に負荷を与える。


「来週から練習するからなー。男子はふんどしだぞ」


ふんどしかー。舞衣と買いに行くのかなー。ふんどしも選んでくれるのかなー。妹にふんどしを選んでもらう兄でごめんねー、いつもすまないねえ……。それは言わない約束でしょ……。そんな約束したことないけど。うーん、筋トレ中は益体も無いことを考えがちだ。しっかし寒中水泳の練習か……。

ん?


「それって、水着姿のトラと二人でってことかな」

「ん、そうだな」


キター!

なるほど! それなら買ってよかったね!

思わずガッツポーズ。


「お、やる気満々だなー、ロト」


うんうんと頷く真姫ちゃん。胸も大きく頷いている。空手着越しでもこれなんだから来週からは大変なことになるぞ!

心頭滅却すれば火もまた涼し。寒さだって慣れれば平気に違いない。揺れる巨乳を見るのはいつまで経っても飽きることはないのにね! 不思議だなあ。


「久しぶりに組み手でもすっかー」

「お、いいねー」


上機嫌になった俺は、腹筋のトレーニングをやめ、軽いノリで構えた。

そして彼女の身躯はもっと軽い。羽でも生えているかと思うくらいふわっとジャンプすると、気づいたときには首の後に蹴りが入っていた。


12月の体育館の床は冷たい。

頬や額がこれほど冷たい。


全身で水浴びをするなど、やはりどうかしているだろうと思った。





ほんと、感想いただけるからなんとか書けております。一言でいいので、ぜひお願いします。

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