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異世界メモリアル【4周目 第8話】


「お兄ちゃん、欲しいアイテムは容姿を上げるアイテムじゃなかったの?」

「ん、ああ、いや……」


俺の部屋で、いつものやり取りの中で、次買うアイテムの相談をしていた。

一度は容姿を上げるアイテムを買うと言っていたのだが、俺は今迷っていた。

計画性は大事だ。

大事だが……正直、大会で小さな女の子にボッコボコにされているので、優先順位が変わった。

強くなりたい。

そうしないと痛さと恥ずかしさで死んでしまうから。


「ほしふるうでわとか無いかな?」

「なにそれ?」


ですよねー。素早さが2倍あれば勝てるのになあ。

アイテムショップは何度も足を運んでいるのだが、何を売っているのかよくわからない。

基本的に舞衣がいなければ生きていけない、それが俺。


「小さな女の子をボッコボコにできるようなアイテムないかな」

「えっ!?」


アイテムの希望を率直に言うと、妹は飛び上がった。

ちょっと誤解を与える言い方だったか?


「いや、棍棒とかメイスとかバールのようなものとかじゃないよ?」

「じゃあ安心、って全然ならないんだけど?」


腕を組み、仁王立ちをして軽く睨む舞衣。とはいえ本気で疑ってたり、引いているわけではなさそうだ。

信頼関係があるって素晴らしい。


「本当は素手で大きな男をボッコボコにしたいけど、それは無理だからせめて小さな女の子をボッコボコにしたいというだけだ」

「死ね!」


最愛の妹は突如狂ったかのようにモーニングスターで攻撃してきた。マジで死にかねない!

なぜそのようなものを装備しているんだ妹は!


「待て待て、絶対勘違いしてる!」

「ほー。弁解のチャンスが欲しいと」


モーニングスターの柄を肩にトントンと叩きながら俺をものすごい勢いで蔑む舞衣。

信頼関係がないってほんと悲しい!

わずか数秒でここまでなりますかねえ?


「部活だよ、部活」

「そんな部活があるか! 死ね!」

「待って! あるの! 待って!」


ほうほうの体で逃げ回るが、俺の部屋なので大して動けない。

ベッドの上に立つと、逃げ場を失った。

じりじりと間合いを詰める舞衣。

さすがにいきなり鉄球を脳天にブチかましてくることはないようだ。


「このままだとベッドが血と脳漿で汚れちゃうなー」


ぎゃー!

俺よりベッドの心配してるー!


背中に壁が当たってるのに逃げようとすると、布団で足を滑らせて尻餅をついた。

前方に繰り出された足が舞衣の足を蹴ってしまい、前のめりに倒れる。

モーニングスターを持っているせいでバランスが取れず頭から俺の胸に飛び込んできた。

とすん、と軽い体重を受け止める。

つまり、今、俺はベッドの上で、舞衣と座って抱き合っている状態。

鼻先にある丸い頭からは、いい香りがする。

温かく少し早めの息遣いが俺の首筋をくすぐる。

そして太腿に当たっている冷たい鉄球の感触……怖すぎる。今の俺のドキドキはどっちなの? 吊り橋効果なの? 


舞衣は飛び上がって激怒する……様子はなく黙ったまま体制を変えなかった。

俺からは動きづらい。どかすのもおかしいし、相手は凶器を持っている。

しばらく数秒が数分に感じるような時間が続く。


俺は弁解のチャンス、と捉えた。


「なあ、舞衣。本当はもうずっと俺のこと覚えてるんだろ? バレーレの煮込みの味だって知ってるんだろ? 酒に溺れてお前にひどいことを言ったことも覚えてるんだろ?」


努めてゆっくりと、優しく。言葉を紡ぐ。


「舞衣に頼ってばっかりの駄目なアニキだけどさ、ずっとこのゲームのプレイを、この世界で生きていくことを頑張ってたつもりだ。だからさ、俺を信じてくれないか」


小さな女の子をボッコボコにしたいっていうセリフくらいで怒らないでくれよ。そう思ったが自分で気づいた。そりゃ怒るわ。死刑が妥当だわ。俺が馬鹿すぎる。


「ごめん、本当にごめん、許されないと思っているけど、俺、お前に……」


許して欲しい、と言いたいところだが、やはり無理だろうか。

顔を近づけ、真剣な顔で迫る。

うつむいたまま、ぷるぷると震える舞衣。こりゃやっぱりまだ怒ってるな……。


絶望していると、舞衣は身体をぎゅっと固くしていたが少し背を反らして俺の顔を見つめた。

その顔は激怒で真っ赤に……ではなかった。

瞳は潤み、整った眉毛は動揺を示し、頬の赤さは好感度の高いヒロインのそれだった。


あれ?

どうなってるの?


状況が把握できなさすぎて、どうしていいかわからない。

とりあえず舞衣がモーニングスターから手を離して口元に持っていったことで、死への恐怖が少し治まる。


「駄目だよ……こんなの」


細々と聞こえる言葉。

そりゃ妹がモーニングスターを振り回す状況はよくないだろう。気づいてくれてよかった。


「私達兄妹だよ? ()()。本気なの、()()?」


小さな声で、握った手を近づけてのセリフは聞き取りにくかった。

パードゥン? と言いたいところだが、そこまで空気が読めないわけではない。


本気かどうかを問われているのなら、本気だと言うしかあるまい。


「俺は本気だ」

「そ、そう」


少しうつむいて、なぜか嬉しそうに微笑む舞衣。


「じゃあね、ロト」


手を振って俺の部屋から出ていった。

なんで呼び方がお兄ちゃんじゃなくてロトになってんだろ……ToLOVEるみたいだな……。


まあいい、もう疲れた。

死の恐怖が去った安息を布団にくるまって堪能したい。


ベッドに置かれたモーニングスターは重すぎて持つことが出来ず、俺は鉄球を抱いて寝た。

現状の運動能力では舞衣と戦っても勝てないようだ。やっぱりアイテムは運動能力アップにしよう……。




作者も想定外の展開になってしまった……けど、いただいてる感想を読んでたらこうなってしまったというか……これでいいのか……と苦悩する作者のためにも感想をおねがいします。

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