異世界メモリアル【4周目 第6話】
私って、ほんとバカ。
ギャルゲーの世界だからおばさんでも綺麗だとか、頭がお目出度いな全く俺ってやつはよ!
「チョット~、上腕二頭筋はもっと丁寧に」
「あ、はい、すんません」
夏休み。ストリートファイト部は月・水・金で活動。
それ以外の日はバイトだ。
男子高校生が下着姿になって、ホテルや家に出張してマッサージをする仕事、DKリフレで働いていた。
今回のお客様は、アロマは薔薇。下着はブリーフを指名している。
いそいそと服を脱ぎ、ブリーフ一丁になり、その後薔薇のアロマオイルを入れたポットに火を付ける。
大体のお客様はそんな俺の様子をじっと見ているので、美しい所作を心がけている。
「ん~、キミィ、格闘技とかやってるゥ?」
「あ、ええ、まあ一応」
「へぇ~、お手合わせ、したいネエ」
黒光りしたマッチョの男が、舌なめずりをしながら俺に言う。
なぜか肌が黒く、マッチョで、言葉遣いに特徴がある……一言で言うとアニキ。超アニキ。
そう、DKリフレのお客さんは大半が男だった。
しかも妙にアニキやオネエなどが多い。
俺の想定は甘すぎた。なぜお客様が女の人だと決めつけていたんだ。
「ぉう!」
つい声を上げてしまった。
「ごめんごめん、なかなか魅力的な大胸筋だったので、ツイねっ」
胸を触られたくらいで反応していてはこの仕事は務まらない。
「お触りはご遠慮くださいねー」
もはや言い慣れた台詞なので、淡々と伝える。
もちろん、嬉しいことではない。
嬉しいことではないのだが、どうも身体を触られると容姿が向上するような傾向がある。
女装メイド喫茶で働いたときもそうだったのだが、人に見られること、興味を持たれること。それが美しさの秘訣らしい。
女性相手には魅力的に映らない序盤のステータスの場合、男性から見られることが手っ取り早く容姿を良くする事ができるようである。
男に尻を触られると容姿が上がり、男に胸を撫でられると容姿が上がる。
よし、決めた。
容姿を上げるアイテムを買おう。バイトで上げようなんてバカな考えは捨てるんだ!
部活でも上がるもんじゃないし!
家でホットヨガだの半身浴だのばっかりやってるのも非効率なんだよ!
腕、肩が終わったので、次は背中だな。
「それではうつ伏せになってください」
マッチョのお兄さんは大体体温が高く、筋肉はリラックスして柔らかい。
下手すりゃ女の子よりも。
って若い女の子の客なんていねえけどな!
ギャルゲーの世界なのに!?
どんな世界でも労働ってのは甘くねえよなあ。
脳内でぶつくさ文句を言いながら、アニキに笑顔でマッサージを行い終わった。
40分コースの料金を受け取って、タワーマンションのエレベーターを降りる。
今日はあと1件あるんだよな。
次はおじさんか、お爺さんか、オネエか、またアニキか……。
向かった先はラブホテルだった。
まぁ、正直よくあることだった。
すでに使用されたベッドで施術するとか普通にある。
指定された号室の前でコンコンとノックするとドアが開いた。
ドアを開けた後すぐにすたすたと廊下を進んでいく相手は意外にも若い女性のようだった。
そんなこともあるのか。
部屋に入っても後ろ姿のままの彼女に声を掛ける。
「あの~」
恐る恐るといった様子でこちらを向いた彼女は意外な声をあげる。
「えっ、ロトさん!?」
「ええっ!? まさか」
お客様は来斗述だった。
なんで!?
淡いピンク色に染め上がった部屋の円形の大きなベッドの前で、学生服を身に纏った美少女。
胸元のスカーフをぎゅっと握り込み、入ってきた俺をちらちらと伺うように覗き込んでくる。
どう考えても立場が逆ゥー!
完全に俺がえっちなサービスを注文したみたいになってるゥー!
初めてのお仕事に挑もうとしていてるいたいけな女子高生にしか見えないィー!
なぜ夏休みに制服を着ているのか。
なぜDKリフレなんか頼んだのか。
なぜラブホテルなのか。
疑問が多すぎてどうしていいのかわからない。
ところが質問をしてきたのは向こうが先だった。
「えっと、服は全部脱いだほうがいいんですか?」
どうやら俺をDKリフレでやってきた男としてそのまま進行するつもりらしい。
口調も店員さんに話すような丁寧語だった。
「いえ、そのままで大丈夫です」
ズボンや長袖は捲ってもらったり脱いでもらうこともあるが、基本的にはTシャツや短パンなどの軽装で行うのが普通だ。
パンイチになるのはあくまで俺の方だ。なんででしょうね?
しかも今回はふんどし。なんででしょうね?
来斗さんが指定したらしいアロマオイルからピンクの香りがしはじめる。なんの匂いなんだこれ……。そもそもラブホテルの時点で妙にエロティックな香りがしているというのに、それが濃密になった気がする。
俺は深呼吸をしてから彼女にベッドに腰掛けるよう促し、足の裏からマッサージを始めた。
「はあっ……ううん……ひぅっ……」
感じ方がエロすぎる。
声を聞いてるだけでなんか凄いことをしている感じがある。
「最初はちょっと痛いけど、すぐに気持ちよくなるから力を抜いて」
そう言って安心させる俺。足裏マッサージの話ですよ?
はじめての感覚に緊張しつつも、緩やかに痛みを快楽に変えていく様子が表情からわかる。
もうちょっと強く攻めてもいいだろうか。
「あっ……でも、そこ、いい……」
頬を紅潮させ、口を緩めた。
もうろれつが回らないくらい気持ちいいのだろう。
思わず、未知なる快感を与えることに夢中になる。
足裏マッサージの話ですよ?
「それではうつ伏せになってください」
足が終わって、次は太腿を押す。
スカートはめくりあげずに、手を差し入れて股の付け根を揉んでいく。
「はあっ……ふうんっ……」
うーん。
制服のスカートに手を差し入れて揉むという行為。
これ、エロ過ぎるね?
全裸の方がよっぽどエロくないね?
スカートに手を入れるってヤバイね?
でも、まあ俺はプロなんでね。
なんということはないですよ。
マッチョなアニキをマッサージするのと同じ行為ですよ。
当たり前じゃあないですか。
細くて白くてすべすべしていて、全然違いますけど。青首大根みたいです。
大根足っていうと悪口のようだが、実際は大根に似ているとしたらそれは美脚だ。
手触りはもっと違いますけどね。
スポーツもしていないであろう文系少女の来斗さんは筋肉が少なく、かといって贅肉もそれほどない。
モデルなんかのようなやたら細くて長い脚ということもない。
丸みを帯びて柔らかい、いわゆる女の子らしい脚だ。女子高生にしてはちょっと細いかな、というくらい。
うん、マッチョなアニキをマッサージするのと同じ行為だなんてとても思えない。
これがお金を貰ってする仕事なんでしょうか。後で支払うことになったりしないでしょうか。
太腿を揉み終わると次は背中だ。
制服の中に手を入れて腰を揉んでいく。
スカートに比べればなんということはないね。
1ヶ月程度の経験とはいえ、やっぱりプロだからね。
「ああっ……もう、ううっだめぇっ……」
俺は背中をマッサージしているだけだ。それだけだ。
来斗さんはやたら官能的な声を上げるが、いつものことだ。気にしてはいけない。
すると、金具のようなものが手に触れた。
「ブラジャー外しますねー」
付けたままマッサージするとブラジャーが歪んでしまったり、金具が当たって痛いらしい。女装したお客様が教えてくれた。
服に手を入れたまま、直接下着を見ること無くブラを外した。
「手慣れてるんですね」
妙に抑揚のないセリフだった。
普段の来斗さんの口調なのだが、さっきまでと違いすぎて、不機嫌なのかと思ってしまう。
うつ伏せの彼女は背中からでは後頭部しか見えないので、表情は伺いしれない。
といっても、俺がブラジャーを外すのが上手いからといって機嫌を損ねる理由などないだろう。勘違いだ。
俺は別に手慣れていない。女装のお客様がやたら丁寧に教えてくれただけなんだけど。
「ところで、なんでDKリフレなんて、頼んだの来斗さん」
先程のセリフに答える代わりに、お仕事モードを解除して疑問を口にしてみた。
「レイプされるかと思って」
「……それでラブホにしたんだ?」
「そう」
「ふんどしを指定したのはなんで?」
「レイプされるかと思って」
いろいろと間違っていると思うが、今更なんだよな。
あまり考えることをせず、肩を揉む。
少しだけ首をひねってこちらを向いた。
「レイプしてもいいよ?」
……いろいろと間違っているんだよな。
「仕事中ですから」
俺はお仕事スイッチをオンにした。
再度ベッドに座ってもらって、腕を揉んでいると、じっとこちらを見て不思議そうな顔で質問をした。
「胸は揉まないの?」
「揉みません」
「凝ってるんだけど」
「絶対凝ってません」
「Cカップなんだけど」
「聞いてません」
「私が揉む?」
「お触りはご遠慮くださいねー」
どうしようもないやり取りは、60分コースの終わりを告げるアラームが鳴るまで続いた。
いや私はJKリフレ頼んだことないですよ!?




