インタールード『舞衣の業務レポート』
初めてのロト以外の語り部です。一応、感想をいただく限りは一番人気のキャラクターになりますが、その核心に触れるこのエピソードでどうなるか……。
私の存在を人間に説明するのは大変難しいのですが、そうですね、女神の公務員といったところでしょうか。
女神と言っても私を信仰してくれる人がいるわけでもないのですけれど。
いわゆる神が市長だとしたら私は市役所の役員、というわけです。
言うなれば、死後の世界部、恋愛不具合課、アシスタント係というお仕事。
死んだ人間が愛されないが故に成仏できずに彷徨っている魂を救済してくれる方をサポートするのが役目です。仕事としては……あまり華々しい役どころではありません。
同じ部でも、クリエイターが逝くと言われている別世界創造課とか、逆に極悪人を懲らしめる地獄体験課の方がメジャーですし。
正直なところ、恋愛不具合課はモテない男女の吹き溜まり。
冴えない仕事なことが多いので、いつも転属願いを出しています。はっきり言ってパソコンでも鏡でもなんでもいいんですが直接男性の方を喜ばせる方が楽しそうじゃないですか。
私だってその、恋もしたことがないのに悲恋で亡くなった方をどうこうというのは、ねえ?
ああっ、女神様っとか言われたい。愛が止まらないとか言われたい。
でも、これが仕事ですからね。
次の仕事もきちんとこなさないとね、存在意義が無くなると消滅しちゃいますから。
今回配属されたのは、ちょっと変わった世界でした。愛を知らずに亡くなって成仏できない魂を救うという崇高な役目なのに、私がサポートするのはいかにもモテなさそうな男の子。しかも妹という設定だそうです。妹じゃあ恋愛対象にはなりませんね……いや、仕事なんでいいんですけど。頑張って可愛い妹を演じますとも。
就任した職場のサポート相手、ロトさんという名前ですが……まぁやっぱり冴えない男です。早く他の職場に転属されないかな……と思ってました。
しかも何かにつけて私をその、可愛いとかデートしたいとか言うんですよね。いや、その嬉しいですよ? 例えば頑張って可愛い女の子を描いたイラストレーターが、すっごい可愛い絵ですねって言われたら嬉しいように。でもアイドルとして頑張ってるのに本気でデートに誘われても困るみたいな……これで人間に通じるでしょうか? でもアイドルの娘と違って私は、その可愛いとかあまり言われたことがないので……。崇拝とか畏敬ならまだしも好意というのはその、ちょっと慣れません。
私は妹なので、彼と一緒に行動することは出来ません。市長、というか上司の神が用意した情報取得方法でのみ把握することが出来ます。あなたがもしインターネットを知っているのであれば、ネットニュースみたいなものだと思ってください。あなたが世界のことをざっくりわかっているように私もロトさんをざっくり理解しています。そして彼が攻略できるようにサポートするのが仕事です。彼や彼が元いた世界のことについてある程度の知識は身につけたつもりですが、ゲームというのはよくわかりませんね。伝説の樹が本当にあるなら卒業式の日は行列が出来るんじゃないでしょうか? 女の子1人で待ってるわけがないですよねえ。
ロトさんとはあくまでビジネス上の付き合いですが、正直食事は美味しいほうがありがたいです。どんな仕事でもそうだと思いますがご飯が美味しくないと辛いですよね。あと今回はお酒が飲めることも嬉しいです。ロトさんと一緒に飲むお酒は、まぁその美味しいです。これはこの世界の長所の一つですかね。日本人ならご承知のとおり神様というのはお酒が好きなんですよ。もっと供えてくれて良いんですよ~?
それにしてもロトさんは結構大変です。本当に。一度バッドエンドをすることで能力の底上げをした方がいいじゃないのかなーと思ったりもしましたが、意外にも真面目なんですよねえ。こんな世界で法律なんか気にしてどうしようっていうんでしょう? 人殺しのゲームではためらいなく引き金を引くくせに。まったく、不器用なんだから……いや、情が移ったりしませんよ?
でもエンディングを迎える度に、彼は本当に成長しています。ニコさんを成仏させることが出来たときは本当にちょっとうるっときました。そしてそれを引きずってしまうところも。業務上そのことはすっかり忘れて次の女の子に行ってもらわないと困るのに。全く調子が狂ってばかりです。私を酒の勢いに任せて罵倒していたときは心配もありましたが、でもこれで異動できるなと思ったんです。コンプライアンス的に被害を訴えればね。そりゃ上司は神ですから、鬼でも悪魔でも無いので。聞き届けてくれるんです、職場環境の改善。もともと望んでいた部署ではなかったので、これをきっかけに終わりに出来ると思って引き継ぎ用の準備をしてました。
ところがやっかい極まりないあの江井さんを攻略するとは。お兄ちゃん、頑張ったなあ……。ちょっと私を頼りにしてくれなくなって寂しいなんて全く思っていませんよ? 本当です。今更もう妹の私を攻略しようとなんて思わないでしょう、良かった良かった。最近可愛がってくれないとか、全然思っていません。仕事がしやすくて助かります。ええ。
――3周目が終わった今、転属願いが通ってしまいました。
ああ、バカですね。私はもうこの仕事が気に入っていたのです。いえ、誰に対してごまかそうというのでしょうか。私はロトさんを気に入っていたのです。別に好きとかそういうのじゃないですよ? 彼の行先を見届けたいという気持ちです。情が移ったのです。本当にバカなことです。これは仕事です。公務員仕事ですよ。でもこの心が弾むような感覚。この感覚の答えを知りたい。
せっかく転属願いを聞き届けてもらったのに、今更残りたいという私の意見は条件付きで許可されました。それにしても人間向けに業務レポートを書けという命令は何なんでしょう。神様というのは人間の信仰、もっと今どきの言葉でいうとニーズによって存在意義が発生します。私という存在が現状のままで居て欲しいという気持ちがないと成り立たないということでしたが、うーん、こんなことを書いたからと言ってどうにもならないと思うのですが。
でも、今の現状を継続する唯一の方法と言われてしまっては仕方がありません。
このようなレポートで本当に良いのでしょうか、人間の皆さん。
私、舞衣をもっと続けても良いでしょうか?
どうでしょう? これが舞衣なんですけれど。嫌われなければいいなあ。




