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異世界メモリアル【3周目 第33話】


よっしゃ、小さくなって乗り物に乗り込み、コンピューターウイルスを砲撃して倒そう!

ミニゲーム攻略であいちゃんを助けるぞ!

マクロの決死圏、なんちゃって!

ぴきゅーん、ぴきゅーん♪


なーんて甘い世界だったら良かったのにね。

どうも運動会やら初詣やらといった汎用イベントはミニゲーム感覚なんだが、攻略に関する部分とかは本気で努力を求められるようだ。ほんとクソゲー。


江井愛を構成している要素は4つに分けられる。1つはボディ。アンドロイドというハードウェアだ。

1つは魂と呼んで良いのかわからないが、ヒトとしての脳を移植した領域。ここだけは触れる事ができない。

3つ目が記憶媒体。人間の海馬に該当する部分だ。修学旅行でコピーさせたりしていたが、つまりはデータということ。

そして人工知能たらしめているプログラムの部分。コンピューターウイルスに感染したのはここだ。


あいちゃんを助ける方法は、プログラムのソースコードを見て不審な点をデバッグしていくというガッチガチのプログラマ仕事だった。

容赦がなさすぎだろ。

俺にはRPGをツクールするくらいが限界だっつーの。

大体、理数系っていっても情報工学はまた別だろう。物理や化学の知識の出る幕なんかありゃしない。

数学が関係あるのは機械の中枢部分を操作するようなコアなところだけで、人工知能のプログラミングは高級言語と言って人間が読み解きやすい関数や式で作られている。

プログラミングに必要なのはプログラミングの知識と経験であって、学校の勉強はさほど役には立たないようだ。

分厚いコンピューター言語の本を見ながらソースコードをひたすら眺める。

博士が言うには修正はプロに任せて構わないらしい。俺はおかしな点を発見するのがミッションとなる。膨大なソースコードの中からおかしい点を見つけるのは至難の業だ。

コメントは普通の言葉で書かれているから、ここを先に見ていくと早いだろうか。

基本的にコメントというのは、その下に記載するコードの説明、ロジックの意図が書かれている。

相手の目を見て考えを読み取る機能、などと書かれたところから関数が始まって、瞳孔の大きさから判断する処理とか、動きから判断する処理とか。

他に分かりづらい処理の説明や修正した履歴を残す記載もあるようだ。

む? これは……?


「バカ……博士」

「今、完全にバカって言ったよね……」

「ちょっとおかしい点が」

「スルーなのか、まぁいいどこだい」

「ここにコメントで、なぜかこれで動く、と書いてあります。これはおかしいですよね」


初めてそれらしいものを見つけたので少し興奮気味に報告したのだが、スッと目を伏せる。


「それは……そういうものなんだ」

「そういうものって……いや、理屈にあいませんよ?」


プログラムっていうのは人間と違って曖昧な指示では動かない。決められた通りにロジックをなぞって動くものだ。

なぜか動くとかありえない。


「しかしそこをコメントアウトしたら動かないのだから仕方がないだろう。なんにせよそこじゃないから他を探してくれ」


面倒臭そうにあしらわれた。

疑問のまま進行するのは気持ち悪いが、寄り道している場合でもない。

今も病気で苦しんでいる彼女のことを思い出す。

とろんとした顔で舌を出しながら、うっとりと見つめてくる顔。

……うーん、エロいなあ……。

駄目だ、思い出すとむしろ仕事にならない。

冷めたコーヒーを胃に流し込むと、膨大なソースコードに改めて無心で挑んだ。


あっ、これは……?


「ここ、おかしくないですか?」

「どれどれ」

「コメントで、後で直すって書いてあります。つまりまだ直してないのだから現状ではおかしいということですよね?」

「あ~、ん~、これもウイルスとは関係ないなあ」

「えっ、だって直ってないんですよ? 問題じゃないですか」


後頭部をガシガシと掻きながら、露骨に面倒臭えなあという顔をする。

いや、俺がおかしいの?

おかしいのはこれを記述した奴じゃないの?


「良いの! 仕様なの!」


博士は反論は許さないとばかりに会話を打ち切った。

なんなんだ……。

そんな仕様があるかよ。

納得行かないが、作業を再開する。


コメントにはプログラマの愚痴なんかもたまに書いてあるな……。

眠すぎるとか、もう限界とか、今度こそ転職とか……ご苦労さまです。

ゲームプログラマになりたいと思ったこともあったが、ゲームはやる方がいいな。

ゲームを作ってくれた人たちと、あいちゃんを作ってくれた人たちに感謝だ。

あ、イースターエッグ部分を発見。

この仕様を組み込んだバカセには全く感謝しない。

頭部を発熱させて湯気を出させる命令を肉体に送る部分のコード、これをコメントアウトすれば危なっかしくなくなるな。こっそりやっておこう。


暫くの間没頭していたが、空腹を覚えて席を立った。

少し休憩するか……。


目に蒸しタオルを乗せてソファーに寝そべり、握り飯を食う。


窓の外は真っ暗だ。どうやら10時間ほど経っている。これで進捗としては0.1%くらい。このままでは時間が足らない。何かやり方を考えないとな……。


女の子が出てこねえことに気づいちゃった。なにこれ?お仕事モノ?ちなみに作者は元プログラマです。そんなに悪くない職業だよ。

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