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異世界メモリアル【第12話】


実羽さん……。

体育祭で褒めてくれた女の子達より、がっかりされた彼女のことが気になっていた。

そんなことを知ってか知らずか、教室でぼんやりしていると、唯一の男友達の義朝よしともが話しかけてきた。


「もうすぐハロウィンだな」


ハロウィン?

あんまりギャルゲーでは実装されないイベントだな。

しかしコスプレとかするから、CG回収できそうな気もする。


「ボランティア部はハロウィンチャリティーイベントするってよ」


義朝は俺の肩を抱き、耳元でこう言った。


「手伝いを募集してるから、参加したら実羽さんと仲良くなれるかもな」


前の世界だったら、そんなんじゃねえよ、とか言うところだ。

しかしこの世界においては、こいつのアドバイスは有能過ぎる。

俺はこの親友に握手で感謝を伝えた。


******


「うへへへへ……」


俺は幼女たちを前によだれを垂らしていた。

――違うぞ?

違うんだ、俺はそういう性癖の人間じゃあない。


男の子も、超可愛い。

――いや、違うぞ?

ちょっと説明させてくれ。


ハロウィンのボランティアというのが、幼稚園での人形劇だったのだが。

ほら、この世界って美少女しかいないじゃん?

当然、幼稚園の女の子も美幼女しかないわけよ。

その子達がみんなハロウィンの仮装してるんですよ!

オレンジの帽子と黒い服。

女の子はオレンジのかぼちゃのスカートで、男の子は半ズボンだ。

手作りの魔法のステッキみたいなのを持っている。

かわええ~。


「お兄さん、お姉さん、よろしくおねがいします!」


みんなして挨拶してくれた。

かわええ~。


「ロトさん、今日はよろしくね」


実羽さんが、右手に嵌めたパペットの手をこちらに突き出してきた。

俺も右手のお爺さんのパペットの手で握手する。


「よろしくのう」

「ふふ、もう役に入ってる」


パペットを握手させながら笑う俺たち。

結構いい雰囲気なんじゃないの!?


さて、この人形劇は桃太郎ハロウィンバージョンというものだ。

カボチャから生まれたカボチャ太郎が、廃病院へ行ってゾンビを退治するお話だ。

何の話やねん、と思うかもしれませんが。

俺が考えたんじゃないからね。

演劇部の芝居の脚本を人形劇に転用しているのである。


「むか~し、むかし。ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんはディスコへフィーバーしに、お婆さんはジャスコにショッピングに行きました」


時代設定は、絶妙な古さである。

もっとも園児にとっては、大昔であろう。

この世界自体がちょっと生前より古いんだけどね。

インターネットとか携帯電話がまだ存在してないからさ。


「お婆さんがジャスコで買った大きなカボチャを割ってみると、なんと元気な赤ちゃんが」


俺は右手のお爺さんと左手のお婆さんを両手を広げ、驚いた演技をする。


「この子をカボチャ太郎と名付けよう」


ジジ臭い喋り方をする俺。


「お爺さんはカボチャから生まれたからという理由でカボチャ太郎と名付けてしまいました」


お爺さんのネーミングセンスがないことをそれとなく批判するナレーション。

脚本家は自分でもどうかと思いながら書いてたのだろうか。

お爺さんを演じる立場としては、ビミョーである。

俺の右にいる実羽さんが、カボチャ太郎をぴょこぴょこと動かす。


「トリック・オア・トリート」


実羽さん演じるカボチャ太郎は、きりっとした声で、かっこかわいいよ。

そうだな、ガンダムWのカトルみたいな声だ。


「カボチャ太郎はお菓子をくれないと悪戯をするぞと近所を脅迫し、たくさんのお菓子を食べてすくすくと育ちました」


なんて教育上よくない主人公なんだ。

ハロウィンってそういうものかもしれないけど。

この話、幼稚園児には向いていないんじゃないのかね。

と、そんなことを考えている場合ではない。

次は俺の番だ。


「た、助けてください、病院にゾンビの群れが」


俺の精一杯の可愛い女の子の声の芝居である。

なんで俺がナースをやることになってしまったんだろうね。

指の付け根を前に出してナースのパペットの胸を大きく見せるという、こだわりの芝居をする。


「かわいくな~い」


……園児の素直な意見が聞こえてくるが、気にしないぞ。


「カボチャ太郎はゾンビを退治するため病院へ向かいました」


次も俺の番だ。


「んにゃ~お、カボチャ太郎さん、お腰につけたチェリーパイ、一つ私に下さいな」

「いいでしょう、黒猫さん、ゾンビ退治についてくるならあげましょう」


指をくねらせて、猫のうにゃうにゃとした手を表現する。


「かわいくな~い」


園児の素直な意見が聞こえてくるが、気にしないぞ。(2度目)


次はボランティア部員Aの出番である。

男なので俺は顔も名前も覚えていない。


「ひゅーどろどろどろ、カボチャ太郎さん、お腰につけたチーズタルト、一つ私に下さいな」

「いいでしょう、お化けさん、ゾンビ退治についてくるならあげましょう」


ふむう。

お化けだったら、もっとフワフワとした動きが出来ないもんかね。

全く、演技がなってねえな。


「かわい~い」


園児の素直な意見が聞こえてくる。

くそう!

こいつのはかわいいのかよ!

俺は負けるのは嫌いだった。


「カボチャ太郎は黒猫さんとお化けさんを連れて、病院へ向かいました」


そしてゾンビとのバトルが始まる。


「くらえ、バールのようなもの」


カボチャ太郎はバールのようなものでゾンビを倒していく。


「忍法、火遁の術」


黒猫は忍者という設定なのだ。


「おお~~」


男の子達のテンションが上がる。

設定に助けられたぜ。


「怖いよぉ~」


お化けさんはゾンビが怖くて逃げるという意味のわからない設定だ。

役に立たないお供である。


「かわい~い」


チィッ、美幼女どもめ!

役立たずに対して可愛いとは何事だ。

俺の黒猫の方が可愛いだろうが!

猫で忍者なんだぞ!?

ぐぬぬぬぬ。


「くらえっ、スーパーウルトラギャラクシーファンタジックプリティーキューティーハニーフラーッシュ!」


カボチャ太郎が必殺技でゾンビを殲滅した。

なんとなく色っぽい攻撃である。

ここだけ妙に子供向けだよな。


「こうしてカボチャ太郎と黒猫さんとお化けさんはゾンビを退治して、病院を救ったのでした。めでたしめでたし」


ぱちぱちぱちぱち。


園児たちが拍手してくれる。

なんとスタンディングオベーションである。

かわええ~。

こりゃ遣り甲斐のある活動だわ。

ボランティア部でもよかったかもしれない。


その日は打ち上げがあり、ファミレスで実羽さんとドリンクバーで乾杯した。

そして実羽さんは、小首をかしげながらこう俺に質問した。


「今日はなんで参加してくれたの?」


こ、この質問の返答は間違えてはいけない気がする!

俺は全力で脳内に選択肢を作成する。


1.ボランティアをやってみたくて


ううむ、一見無難そうだが。

なぜ今回なのかという理由がつかない。


2.ハロウィンが好きなんだ


今回手伝った理由にはなるが、本質からズレすぎている。

好きだとなんでボランティアをするのかよくわからない。


3.園児に対して興味があって


これは、誤解を招く恐れがある。

今回やってよかったと思う理由ではあるが。


4.正直、実羽さんと仲良くなりたかったんだ


んあ~~~~!

正直すぎて恥ずかしい!

言えない!

なんか邪な理由に聴こえるし!


「べ、別になんとなくだよ、なんとなく」


選択肢を選べなかったので、時間切れのリアクションになってしまった。

正直なところ隊長となって帝都を守るゲームの時も、俺はよくそうなっていた。

これがあのゲームなら、画面の選択肢を囲むフレームからぽっぽーと蒸気が吹き出ていることだろう。


「ふうん?」


テーブルに片手をつけて、顎を乗せながら興味深そうに俺の顔を見る実羽さん。

時間切れになったけど、脳内は4の選択肢を引きずっているため非常に恥ずかしい。

自分でも頬が紅潮しているのがわかる。


「ふう~ん」


大きく開けていた目を細めながら、少しニヤっとした。

何かを理解されてしまった……。



その週の日曜の夜。

いつものとおり、舞衣がやってきた。

実羽さんの評価が非常に楽しみなんですが。


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 106(+5)

理系学力 89(+5)

運動能力 101(+11)

容姿   128(+10)

芸術   42(+24)

料理   105(+11)

―――――――――――――――――――――――――――――


「ん? 芸術が随分上がってないかい?」

「人形劇やってたからでしょ」


あぁ~、演劇的なものは芸術扱いだったのか。

それで芸術の数値が低すぎて、園児にウケなかったのか。

そういうことか~。

俺が演技を工夫したところで下手くそってことか~。

ちきしょうめ。


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

実羽じつわ 映子えいこ [カラオケくらい好き]

望比都沙羅もうひと さら [香車くらいの存在]

次孔じあな 律動りずむ [下手な演技で園児にバカにされたってホント!?]

寅野とらの 真姫まき  [まじ微妙]

―――――――――――――――――――――――――――――


以前はカラオケのクーポンだったところから、カラオケそのものまで上昇してるじゃん!

すげーじゃん、来たじゃん。

もうコレはイケると思って良いのではないの?

一緒に帰ろうって誘ったときに、見られたら恥ずかしいって断れることはないんじゃないの?


沙羅さんもなんか多分凄いじゃん。

香車なかったら困るじゃん。

将棋好きにとっての香車がどの程度かわからんけど。


――俺って、園児にバカにされてたの?

あんな天使のような笑顔の生き物に?

次孔さん情報は多分当たりだからな。

パラメーターが低いと生きるのがつらい。


まじ微妙か。

微妙、なのもパラメーターが微妙だからですかね。


「さ~て、来月はいよいよクリスマスだよ、お兄ちゃん」

「そうか。金持ちの友人の家でパーティーがあるんだっけ」

「そんなイベント用意されてないけど」


そういやそんな友人は居なかったわ。


「クリスマスまでに彼女できなかったらゲームオーバーなやつでもないよね?」


妹がいたりする設定があるからな。

そっちのゲームの要素も多いよな、この世界。


「それだったらもうリセットしたほうが良いね」


――辛辣なコメントをどうも。


「クリスマスパーティーが学校であるじゃない。お兄ちゃん料理部だからクリスマスの料理を準備するんじゃない」


ほう。

そうなのか。

なんで妹のほうが俺より学校事情に詳しいんだろう?

ま、舞衣はなんでも詳しいか。


それでは、今からクリスマスパーティーに向けて部活に精を出すことにしよう。





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