異世界メモリアル【3周目 第30話】
「丁寧に、丁寧に、形をつくって」
「こうか」
「違う違う、こう。花みたいに」
「難しいな、これでいいのか」
「そんでもってコレをドーーーン!」
「やっぱ意味ねえじゃねえか!? 無駄なことさせやがって!」
料理アシスタントロボのヒラノーレミはコレだから嫌なんだ。
でもレシピは多く知っているし、作業工程もわかりやすい。
しかし言動がエキセントリックすぎる。
なんで丁寧に形を整えたあとで、その生地をぶん投げてめちゃくちゃにする必要があるんだ。
でも我慢するしかないか。
ったく、もう夏休みも終わり、卒業まであと半年だってときに、今更料理上手が良いだとか抜かしやがって。
みんなが受験勉強に勤しむなか、俺はひたすら料理をしていた。
3周目ではまるっきり料理なんかしてなかったから、遅れを取り戻すのは難儀だ。
彼女はロクに食べ物を摂取したことがないから、それなりのものでも美味しいと思うに違いない。
そもそも普通、手作りで気持ちが入ってれば嬉しいよな。
そう思ってちょっとした弁当を渡してみたのだが。
「あー、うん。なるほどですね。個性的な味というか。独特の歯ごたえといいますか。決して悪くはないと思うんですけど。はは」
などと明らかに美味しくないものに対する評価を困り顔でしてくれやがりました。
個性的っていうほど食ったことないだろ!
独特の歯ごたえって、普通の歯ごたえ知らないだろ!
というツッコミが出来るわけもなく。
確かに自分で食ってもそれほど旨いわけじゃないのはわかっていた。
え、本当に料理ステータス必要なの、嘘だよねという気持ちだったことは認めよう。
本格的に料理の修行に邁進するしかないと腹をくくった。
この3周目の料理概念はなんというか古い日本みたいな感じだ。
江戸以前の時代かと思うような食事が多く、基本的には質素である。
はっきりいってシンプルなものほど美味しく感じる。蒸した芋や焼いた川魚などだ。
ちなみに舞衣のつくる料理で好きなものは、白和えとあんかけ豆腐。
2周目のときのSFチックな食生活よりは俺は気に入っていたが、なんせ地味。
それ故に屋台のジャンクフードはそりゃもう美味かった。心から平成に生まれてよかったと思うほどに。
せめてソースがあればなあ。
普段は魚醤しか手に入らないんだよなあ。
そんなことを思いながら、煮干しの頭を取り続ける。
めんどくさいけど出汁が一番大事だからね。めんつゆ売ってないし。
ていうか麺が売ってないし。
あ。
そうか、麺か。
麺食いたい。
ヒラノ―レミのコンセントを抜く。
アイテムとして所有しているお料理アシスタントロボットのこいつが教えてくれるのはこの世界のレシピだ。
この世界には基本的に麺類が存在していない。
1周目のときと同様に俺が平成日本の料理を再現することは創作料理になる。
久しぶりにあれ食いたいな、という気持ち。
なんだかんだ言って基本的にはこれが一番モチベーションに繋がるんだよな。
そしてもう一つ、これ食わせてやりたいなという気持ちである。
さて蕎麦切りなんてのは素人には無理だ。良い醤油がないから、かえしも作れないし。
ラーメンも無理だ。鶏ガラや豚骨が手に入らない。
素人でも打てる麺といえば一つしか無い。
俺が大量の小麦粉を買ってくると、妹が目を丸くした。
「どうしたのお兄ちゃん、どこか爆破したいの?」
「いや、粉塵爆発目当てじゃないから、料理だから」
「え~? すいとんなんてそんなに食べられないからね?」
やれやれ、小麦粉をただの米が無いときの代用食だと思ってる世代はこれだから困る。俺より若いけど。
ポリ袋に入れた小麦粉と塩に加水し、ゆっくりと両足で踏んでいく。
ふむ、俺一人だと時間がかかるな。
「お~い舞衣~、ちょっと踏んでくれないか~」
「んも~! またそういうこと言って! 絶対ダメ! だから私はそういうプレイはしないから!? あいちゃんに頼みなよ!」
めちゃくちゃ怒られてしまった。
どうやら性的興奮のために俺の身体を踏んで欲しいという意味に捉えたようだ。
それはそれで魅力的ではあるが、勘違いだ。
「いや、俺じゃなくて料理なんだけど。一緒にこの小麦粉を踏んで欲しいんだけど……」
「え……」
舞衣はキッチンの奥に居た俺の全容を確認してから、勘違いに気づいて顔を真っ赤にした。
「し、知ってたし。じょ、ジョークだし」
腕を組んで上方向を見ながら強がりを言った。
うーん、フォローしたほうが良いんだろうか。
「そうだよな、いつも俺がえっちなことばっかり言ってるから勘違いさせたんだよな」
「そ、そーだし」
「俺はあいちゃんにどういうプレイを頼めば良いんだっけ」
「蒸れた靴下を履いたままで顔を踏むんでしょ?」
違うの? とでも言いたげにきょとんとした顔を見せる妹。
正直、わかってるなと思う。いや、わかりすぎていると思う。
「あいちゃんは汗をかかないから、靴下が蒸れないかもなー」
「そっかー、仕方ないから私がやってあげるねー、ってしないから!?」
テンパってるわりに、ノリツッコミは完璧だった。
そんなことより料理を手伝って欲しいんだけど。
「ちょっとでいいからさ」
「んも~、仕方ないな、本当に」
おお、手伝ってくれるのかと思ったらその足は俺の足の上に。
小麦粉を踏む俺の足を踏んでいた。
「あのー」
「駄目だよ、お兄ちゃん。これ以上は出来ないからね!」
いや、さすがの俺もこの状況を喜ぶことは無いんだけど……。
ていうか、本当に普通に手伝って欲しいんだけど。
そう思いつつも足を動かし続けると段々と踏みごたえが変わってくる。
体重が多めにかかってるから意外と効果的なのか?
「出来たかもしれん。舞衣も試してみるか?」
「ええ?! 私は踏まれたくないよ!?」
「いや、だから料理だって。試食してみるかって」
「あ、ああ。すいとん?」
「違うよ、これは、うどんっていうんだ」




