異世界メモリアル【3周目 第29話】
「ぺろっ、ちゅぱっ、ちゅばっ……んっ、はぁ……」
「興奮しすぎだぞ、ちょっと落ち着けって」
「だって、んっ、はぁ、こんなの初めてで」
あいちゃんはうっとりとした表情で無心に舐め続ける。
桜色の舌をちろちろとこまめに動かしながら、愛おしそうにときおり唇をその先端に当てる。
ときにはキスをするかのように優しく、ときにはむさぼるように強く。
ただ本番はまだ楽しみにするつもりなのか、あくまでも舐めるだけだ。
ちょっとじれったい気持ちになる。
「なぁ、もう良いんじゃないか?」
「だ~め」
上目遣いでそう言うと、根元の方から丹念に、下から上に沿って舐めあげる。
唾液でテラテラと光る唇を拭うこともせず、照れた表情を見せる。
「ずっと楽しみだったんですよ?」
「まぁ、俺もこうなることを待ち望んでいたんだけどな」
「ふぉんと? うれひい」
大きく口を開けて、かぷっと咥え込んだまま喋るあいちゃん。
幼さが垣間見える無邪気な笑顔から目が離せない。
じっとりとした湿気を含んだ夏の夕闇においても、汗一つかくことはない身体。
空と同じ深い藍色の浴衣は、あまりにも似合いすぎていて。
「なあ、写真撮っていいか?」
「ふぇえ? ぷはっ、はぁ、やだ……恥ずかしい」
俺はもう自分を抑える事はできなかった。
カメラを構える。
恥ずかしそうにするが観念したのか、舐めることを止めないままで控えめにピースサインを見せた。
夏祭りの喧騒から少し離れた場所で、カシャカシャとシャッターを切る音が鳴る。
「これ、学校新聞に載せようかな」
「ええ!? 何考えてるんですか、ロト先輩!?」
「ほら、だって、人工知能の初めて、だぜ? スクープだろ」
「嫌ですよ、恥ずかしいです!」
嘘だ。
みんなに見せるなんて勿体無い。
俺の、俺だけのもんだ。
まあ、博士には見せてもいいかな。
「なあ、俺も、もういいか?」
「あ、そうですね、良いですよ」
俺は我慢に我慢を重ねていた。
もう限界だ。
少し強引に引き剥がし、一気にかぶりつく。
「はむっ」
温かく、柔らかい。
無心で口いっぱいに頬張る。
ぷるっとした目当てのものを舌に感じると、その歯ざわりを愉しむ。
軽く噛むとその弾力に感動する。
「最高だっ」
「もう、私もイッて良いですか?」
「いいぞ、ほら、イけっ」
「んっ、そんな強引に、あ、ああ~~ッ」
「どうだ? あいちゃん」
「ん、はぁ。ヒドイですよ、こんな無理やり。初めてなんですから、もっと優しくしてください」
「ごめんごめん」
「もう。でも、嬉しいです」
「本当に良かったのか? 初めてがこんなので」
「もちろんです」
顔を綻ばせるあいちゃん。
ふぅ……。
良かった……。
俺も久しぶりだったしな。
――たこ焼き食うの。
こっちの世界の食い物もそんなに悪くないが、やっぱりたこ焼きは美味い。
花火大会に来た俺達は、すもも飴とたこ焼きを買ったのだが、あいちゃんがすもも飴を先に食べてる間、俺が先にたこ焼きを食うのを嫌がったのだ。
俺は熱々のうちに食いたかったんだが、二人で一緒に食べたいなんてお願いされては断れなかった。
俺と博士の研究は成功し、なんとか花火大会の前に食事が出来るようになった。
博士は何かお粥のようなものを食べさせようとしたのだが、あいちゃんがそれを拒否。
初めて食べるものは、すもも飴とたこ焼きって決めていたようで。
夢にまで見たすもも飴とはいえ、舐めるだけで興奮しすぎだろう。
本番のすももを齧る頃にはすっかり水飴が無くなっちゃってたぞ。
とはいえ俺も苦労してようやく成し遂げた成果だ、つい写真に収めてしまった。
しかし両手がふさがっていたからとはいえ、強引にたこ焼きを口に突っ込むのはやりすぎだっただろうか。
でもまだ温かいうちに食べて欲しかったしな。
彼女の、初めての食事だからな。
よかった、本当に。
連日の研究は大変だったが、こんなに美味しそうに食べてくれるなら報われた。
彼女が食べたいと言っていたものを次々と屋台で買っていく。
両手に抱えて花火大会の会場へ。
河川敷の芝生の上にビニールシートを広げて、二人で座る。
目を輝かせながら、両手を忙しなく動かすあいちゃんを見ながら、うちわを仰ぐ。
焼きイカを齧りながら、紙コップの生ビールを飲む。ぬるい風が心地よい。
わたあめを舐めて口の周りをべったべたにしている姿が愛らしい。愛ちゃんらしいし、愛らしい。
やがて闇は深まり、花火が打ち上がり始めた。
彼女は花火を見るのも初めてだ。
楽しんでもらえるだろうかと、表情を伺う。
あいちゃんの頬に、赤や青の光が反射する。
その瞳の中にも花火が映り込む。
綺麗だ。
本当に綺麗だ。
「ねえ、先輩」
空を見上げていた彼女が、首だけ曲げてこちらを向く。
無言で瞳をうるませて、ただじっと俺を見ている。
ドン、ドンという花火の打ち上がる音に反応するかのように、俺の胸も高鳴る。
ロマンティックな雰囲気を感じ取っているのだろうか。
「先輩って……」
薄い唇から漏れるためらいがちな台詞。
俺はごくりと唾を嚥下して言葉を待つ。
いっそその次を言わせないように塞いでしまいたい。
「先輩ってー、料理、下手ですよね?」
「は?」
あまりにも想像と異なる台詞に面食らう。
「私、彼氏にするなら料理上手な人がいいなー」
「はー?!」
青のりのついた歯を見せながら、のほほんとした声で俺にそう言いやがった。
あらゆる意味で、何もかも台無しだった。
せっかくR-15なんだし多少はね?
ハーメルンさんではこんなのばっかり書いていました。
↓2次創作ですが、よろしければ。感想貰えたら続き書くと思います・・。
https://syosetu.org/?mode=user&uid=238321




