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異世界メモリアル【3周目 第25話】


吹き荒ぶ風が骨身に染みる、2月初頭。

俺はあいちゃんと一緒に下校していた。

なかなかデートに誘うことに成功しないのだが、一緒に帰る誘いにはのってもらえる。

トゥルーなラブの感じだ。


会話の選択肢は……好きな場所を聞きだそう。

まずは今まで提案して却下された理由を把握しておきたい。


「ボウリングは嫌いなのか?」

「ストライクしか出ないからつまらないんですよ」


そうですか。

そりゃ納得。

簡単すぎるゲームほどつまらないものはない。

高度な人工知能と高性能なボディがあれば、赤子の手を捻るより簡単なのだろう。


「カラオケは?」

「聞いたそのまま再生しちゃいますからね、遊びというより録音と再生機能を使用しているだけって感じです」


あー、そういや俺の台詞も再生されたことあるな。あれは最悪だった。

まぁ彼女にとっては、カラオケもつまらないわけだ。


「スキーはなんで駄目なんだ」

「雪山を登って降りることの何が面白いのかわからないんです。寒いし」


そう言われるとそうなんだが、身も蓋もないな。

いや、俺はスキーウェア姿を見たいだけなんだけどね。

ゲレンデの女の子は5割増で可愛く見えると言われている。

ゲレンデが溶けるほど恋したい。


寒いし、というのはジョークだろうか。

彼女は今もコートも羽織ることなく、スカートからは生脚を見せている。

アンドロイドなので寒くないのだと思われる。

しかしファッションとしてなのだろう、赤と緑のタータンチェックのマフラーをしていた。

制服の上からマフラーをもふっとさせて、髪ももふっとさせて、吐く息ももふっとさせていた。

いいよな、マフラーと制服の組み合わせって可愛いよな~っと思っていると、マフラーの奥で何か言った。


「ごめん、今なんて言った?」

「私、食べ物って食べられないじゃないですか」

「ああ、うん、そうだな」

「もちろん、チョコも食べられないじゃないですか」

「え」


思わず立ち止まる。

まさか、これは、バレンタインデーにチョコをくれないという前置き……?


「先輩、この世の終わりが来たみたいな顔してますよ? 多分、人工知能じゃなくてもわかるくらい絶望してる顔ですよ?」

「お、お、そうか?」

「ええ、大丈夫ですか?」


小首を傾げて表情を覗かれる。

いつものような、からかう表情ではなく、本気で心配している顔だった。

やっぱり本当にチョコをくれないつもりなのだろうか……。


「ああ、ああ、全然大丈夫。ところでホワイトデーのお返しってどうしたらいい?」

「先輩、お返しをあげる約束を取り付けることでチョコを貰おうとするのは止めたほうがいいですよ、情けないから」

「だって!」

「泣きそうな顔しないでくださいよ、情けないから」


はぁ、とため息がマフラーの隙間から白く上がった。


「誰もあげないなんて言ってないですよ、味見が出来ないから苦労しているんです」

「……それって、手作りしてくれようとしてるってことか?」


その言葉を聞いて立ち止まると、彼女は満面の笑みを浮かべた。


「そうですよ、先輩が喜ぶだろうと思って」

「おお!?」


なにこの素直で可愛い生き物!

俺の知ってるあいちゃんじゃない。


「しかもこの格好」


ぱっと両手両足を広げて言う。


「先輩が私の太腿が大好きだから冬でも生脚全開。しかもマフラーを装備。私を見る目がハートになってますよね」


え、この格好って俺へのサービスカットだったの?

恥ずかしいけど、嬉しいんだけど。


「デートのお誘いを断るのが心苦しいので、配慮しているのです」

「ええ……そこはOKしてくれよ」


謎の気遣いだった。


「だってチョイスがセンスなさすぎなんですよね」

「ええー」

「普通の女の子なら好きなんでしょうけど、人工知能だと面白くない場所ばっかり提案してくるから」

「あ、うーん」


ぽりぽりと頬を掻く。


「わかってますよ、私を人工知能扱いしないで普通の女の子だと思って誘ってくれてるからそうなるんだって」


両手の指を合わせて押しつぶす動作をしながら、嬉しそうにその指を見つめて言う。


「それは嬉しいから……」


心底嬉しそうに笑う。

冷たい風が背中に当たっても寒くないくらい、俺は胸が熱くなっていた。

彼女への気持ちは確かにあった。

だがそれは一方通行だったのだ。


「ごめんな、あいちゃん」

「えっ?」


普通の女の子、なんて女の子はいない。

相手のことを深く知って、好みを調べてデートに誘う。

それが普通じゃないか。

であれば、普通はこういうところでデートをするというレッテルなんかで誘うべきじゃない。

最初に遊園地に誘ったときに、普通っぽいことを喜んでくれたせいもあるかもしれないが、そのときだって絶叫マシンでは全然楽しんでなかったわけで。


「俺が一方的に好意を寄せてるだけじゃ駄目なんだよな。ちゃんと考えないと」

「う、これはさすがに照れますね……」


たはは、と自分の頭を撫でる。

俺もなにか気恥ずかしくなって、会話を重ねるように質問を考える。


「そ、そうだ。オーケストラなんてどうだ?」

「コンサートですか!? 行ったことないですが、そういうのは素敵です」


俺も音楽は聞く。

ただし、ゲーム音楽に限る。持ってるCDもサントラばかりだ。

オーケストラも、クラシックではなく竜退治の世界のものだが、以前修学旅行で行った竜退治の世界の交響楽団がやってくることを知っていた。

バリバリのゲームイベントなので正直デート場所になんかならないと思っていたが……。


「美術展とか?」

「美しいものは大好きですよ、理屈じゃないですからね」


俺はロールプレイングゲームの絵師しか知らないが、そういったイラスト展もこの世界では普通に存在している。そういう異世界だしな。

クリスタルの世界の絵なんかかなりアーティスティックだ。


デートの提案とは本来、彼女の好みと俺の好みが一致する場所、それを探していくことなのかもしれない。


「占いとか好きなのか?」

「女の子はみんな占いが好きですよ」

「でも未来なんて自分で予測できるんじゃないのか」

「出来ませんよ~、明日の天気くらいならわかりますが」

「はは、天気予報は占いじゃないな」


そんな話をしながら、俺はOKしてもらえそうなデート場所の情報をいくつか手に入れる事ができた。



下校会話です。でも作者は実はトゥルーラバーではないです、ごめんなさい。

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