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異世界メモリアル【3周目 第23話】


「あいちゃん今日も可愛いね」

「そうでしょう、そうでしょう」

「好きだ、ここにチケットがあるんだが一緒に映画に行かないか」

「気持ちは嬉しいんですけどぉ~、また今度、ね?」


UZEEEEEEE!?

なんだこの人工知能!?

誰だコイツをプログラミングした奴は! しばく! 絶対しばく!


妹から100回好きだって言ってなんぼだと聞かされているが、さすがに30回も袖にされると腹も立つ。

ステータスが低いからか?

それともデート場所のチョイスが悪いのか?

単にデートの誘いを断るのが楽しいだけか? これが一番有力なんだが……。


そうして秋は深まっていき、江井愛の1歳の誕生日がやってきた。

1周目ではハーフバースデーのお祝いをしたことがある。居酒屋で。

そのときはアクセサリーをプレゼントしたんだったな。かなり喜んでた。

今回はどうだろうか。


「頼むぞ、舞衣」

「あいちゃんの1歳の誕生日プレゼントね。この中から選んでね」


1.バラの花束

2.AIBA

3.かわいいエプロン


むむむ? アクセサリーは無しか。


「舞衣、2番の説明って頼める?」

「うん、馬型のペットロボットだよ」

「あぁ、なるほど、うん」


花束とペットロボットとエプロンね。


あいちゃんは普通の女の子と同じ感性を好むので、バラの花束みたいなベタなものは好むはずだ。

ペットロボットってのも人工知能のあいちゃんとしてはいかにも好きそうな話。

かわいいエプロン。これも普通の女の子だったら喜ぶだろう。だってかわいいって言ってるし。


……やべえ、全然わかんねえ。


腕を組んで悩んでいると妹が優しい顔つきで俺を見ていた。


「なんだ?」

「いや~、こんだけ真剣に誕生日プレゼントを選んでもらえたら嬉しいだろうなって」

「そうか?」


俺が言うのもなんだけど、妹から出された3択だよ?

普通は一つのヒントも無しに選ぶんじゃないの? それってすごくね? みんなイケメンだな。


そんなことはいい、改めて考えるぞ。

さっきはポジティブに考えすぎた、次はネガティブに考えよう。


バラの花束ねえ。正直そんなの貰ってもすぐに枯れるし困っちゃう。そういう女子もいそうだよな。

ペット型ロボット。高度な人工知能からすると子供だましなのかもな。

かわいいエプロン。そもそも食事が取れないんだから料理にも興味ないんだろうしエプロンにも興味ないでしょ。


なんだ全部不正解か。

ってことはねえんだよ。どれか正解のはずだ。

ああ~っ、わかんねえ。

頭をかきむしる。


「羨ましいなあ、これだけ思われるなんて」


慈愛に満ちた表情を見せる妹。

あいつより舞衣のことの方がよっぽど思ってるっつーの。

そして舞衣だったら、このどれをプレゼントしても喜んでくれるに違いない。

うちの妹はなぜこんなに可愛いのか……。

この3つの中で本当に喜ぶのは1つだけというあいちゃんはどうかと思う。

真剣に考えているのがアホらしくなってきたぜ。

まぁ、なんだ。花束を貰って嫌がるようなやつじゃないだろ。


「じゃあ、1のバラの花束」

「………………ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンサー!」


溜めるなよ、無駄に。元ネタ知ってるのかな?

でもこういうところが可愛くてしょうがない。

なぜ俺は初恋相手の誕生日プレゼントを検討しているのに、その相手よりも妹が可愛いのか。


……いや、もう認めたほうがいいだろう。

もちろん舞衣は可愛いが、あいちゃんの可愛くないところが可愛いのだと。

あの小憎らしいところがチャーミングなのだと。

素直なようで素直じゃなくて、器用なはずなのに不器用で、俺のことをそんなに好きじゃないのにヤキモチを焼いちゃう彼女が、何故か愛おしいのだと。


そして当日にプレゼントを渡したわけだが。

思わせぶりにため息をつきながら、感想を述べた。


「え~。花ですか~? こういうの貰っても困っちゃうんですよね~。すぐに枯れちゃうし~。普通の女の子はアクセとかの方が喜びますよ?」


あああああ!!

なんなの、なんなのコイツ!

もはや普通の女の子を嫌いになるレベル!

前言撤回! やっぱこいつ可愛くない!

誰がどう考えたってうちの妹の方が断然圧倒的に可愛い!


しかしまぁ、この場合選択肢を間違えた俺が悪いんだ。

そういうシステムだからな。

だとしてもやっぱりムカつくぜ。


「いらねーなら返せっ」


取り返そうとすると、ひょいっと避けられる。


「でも、ロト先輩は私が何を貰ったら嬉しいのかって真剣に悩んでくれたんですよね。そして花束を貰ったら喜ぶだろうなって、思ってくれたんですよね。バラの花束で喜ぶような純粋な可愛い女の子だって。……それが嬉しい」


バラの花束を抱き込むように、愛おしそうに見ながら微笑む。

おいおい、選択肢はミスったんじゃないのかよ……反応が素直じゃなさすぎてわからねえじゃねえか。

いや、こんな可愛いところ見ちゃったらもう親密度が下がってもいいや。


「あ、今ロト先輩、私のことを超可愛いなー、大好きだなーって思ってますね。口に出しても良いんですよ?」


……こういうところが可愛くねえんだよな……。


「人工知能が優秀過ぎて考えがわかっちゃうんですけど、それでも言葉で伝えて欲しいんですよ。だって、女の子ですからね」


……こういうところが可愛いんだよな……。


「わかったわかった、俺の負け。俺がお前に完全に惚れてる」


人差し指を頬に当ててウインク、ぶりっ子極まりないポーズを維持したままの彼女に降参した。


「ふふふ、知ってます」

「超可愛いし」

「そうでしょう」

「大好きだ」

「わかってます」

「言葉じゃ伝えきれないくらい」

「それも伝わってます」

「好きだ」

「それはもう聞きました」

「好きだ」

「わかりましたって」

「好きだ」

「……ありがとう、ございます」


この可愛くない、全部見透かしたかのような、台詞のやりとりで。

一方的な好意を告げる言葉と、人工知能特有の反応との応酬で。

彼女の表情が変わっていくのを見逃すことはなかった。

なんだ、返事が素直じゃないだけで、表情は素直じゃないか。

これだけ照れて、喜んで、はにかんで、微笑んで、頬を染めてくれるなんて。

これなら、いくらでも言葉を紡げる。いくらでも愛を語れる。


やっぱり、こいつ、可愛い。

やっぱり、こいつ、好きだ。




正月くらいは休もうと思うじゃないですか。気づくと書いてるんですよ。不思議なものですね。読んでもらえるからですが。いつもありがとうございます。

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