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異世界メモリアル【第11話】


「し、死ぬう」


たかが体育祭で活躍するためだけに、毎日が地獄の猛特訓だ。

しかし、腹筋を舞衣に踏まれるというトレーニングには何か快感を得られるものがある。

そういうところに悦びを感じられなければ、とてもやっていられない。


「フッ、フッ、フッ」


舞衣をおんぶしながらのヒンズースクワット。

これはね、スウェット越しでも太腿が触れるから最高だ。

ただ、舞衣は貧乳のため背中に胸が当たるようなことは全く無い。


「あ、痛」


いきなり舞衣に頭をぽかりと殴られた。

え?

なんで?


「なんで、殴られたの、俺?」

「失礼なこと考えるから」

「考えただけで!?」


おんぶされてるから顔も見えないだろうに。

なんで考えてることがわかるっていうんだ。


「そういやバイト代が振り込まれたはず」

「ん。買い物行こっか」


俺達は手をつないで店に向かった。

というのは嘘で、手をつなごうとしたら引っ込められた。

つれないなあ。

店に入ると、舞衣はちゃちゃっとアイテムを見繕ってくれた。


「体育祭対策ピックアップ3つだよ」


1.スーパーロケット花火 2万円

2.キック力増強シューズ 5万円

3.プラスチック爆弾 4万円


やっぱり普通なものは無いのね。


「説明を頼む」

「1.は背中に背負うとロケットのように飛べる。短距離走は勝ったも同然」

「そんな明確な八百長が通るのか?!」

「そこは大丈夫。ただし止まれないからそのまま壁に激突して全治2週間くらいになるかも」

「そうかよっ」


無いね。

俺はふぅ、とため息をつく。

舞衣は常識がないのだろうか。

なぜ全治2週間になりそうなアイテムを薦めるの?

でも、このアイテムをどういう用途で販売しているのかも謎だ。

これを使っても学校側も何も言わないと思う、というのもおかしい。

舞衣が問題ないと言ってる以上本当に問題はないのだと思う。

やっぱり、この世界がちょっとおかしいのだろう。

なんにせよ、これはゴメンだ。


「2.は何か聞いたことがある名前なんだよな」

「ツボを刺激して強力なキック力を生み出す。サッカーボール蹴ったら人を殺せるレベル」

「とんでもないアイテムだが、何かゴールデンタイムで放送されてた気がする」


これはバレないのか?

まぁバレないか。

あのアニメでもバレてなかったし。

これは有りか。


「3.は何だ? まさか本当の爆弾じゃないよな」


そうだとすると体育祭で何の役に立つのか理解できない。

ところが舞衣はきょとんという顔をした。


「本当の爆弾だよ。爆破予告をして体育祭を中止にするの」


さらっと何言ってるの……。

俺は頭を抱えた。

なぜ体育祭に出たくないという理由でテロリストにならねばならんのだ。


「それだったら、単にサボればいいのでは?」

「サボると心象最悪だから」

「病気ってことにしても?」

「病気でも最悪だから」


マジかよ……。

っていうことはむしろこのアイテムって今の俺のためにあると?

いや、待て待て、こんなもん考えるまでもない。

あぶねー。

毒されるところだったぜ。


「2.を買うぜ」


俺はキック力増強シューズを手に入れた。


とはいえこれはパラメータが上がるわけじゃない。

地獄の猛特訓は続く。


10月2周目の日曜日の夜、ドアがノックされた。


「体育祭前の最後のステータス確認だよー」


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 101(+5)

理系学力 84(+5)

運動能力 90(+30)

容姿   118(+8)

芸術   18(+2)

料理   94(+8)

―――――――――――――――――――――――――――――


努力は報われるな~。

生前の世界はどうか知らないが、この世界は間違いない。


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

実羽じつわ 映子えいこ [メイドさん結構好き]

望比都沙羅もうひと さら [ペンギンのぬいぐるみくらいの存在]

次孔じあな 律動りずむ [体育祭での失態に期待できるか!?]

寅野とらの 真姫まき  [まじ馬鹿]

―――――――――――――――――――――――――――――


次孔さん、見とけよ。

俺は結構、次孔さんの挑戦的な感じが嫌いじゃなかった。

ゲーマーの俺にはミッションのように思えるんだ。


真姫ちゃんにはバレたんだな、俺が道場破りしたの。

馬鹿だと思うさ、俺だって。


そして体育祭が始まる。


俺だってゲーマーなんだ。

戦略ってもんがある。


まず一つ目の種目、玉入れ。

これは玉を投げる筋肉さえあれば、あとはゲームだ。

ポンポン入れることができたさ。

かなりの活躍といっていいだろう。


二つ目の種目は障害物競走。

飴玉を粉の中から探すとか、筋力は関係ない。

額にバットを当ててくるくると回ってから、平均台を渡ったり。

ネバネバのとりもちエリアを乗り越えたり。

いずれもミニゲームだと思えば簡単なもんよ。

やたらバラエティ番組感の強い種目だが、それが功を奏した。

ダントツとは言わないが、上位の成績を残すことに成功する。


フフフ、俺の知ってるギャルゲーなら『頑張ってるね』とか言われて、『やったぜ』となる。

そういうパターンだぜ。


ほら、思ってる傍から次孔さんがやってきたぞ。


「なんか期待はずれなんだケド。つまんない」


……非道くね?

このパパラッチめ。

俺の大失敗を記事にしたかったんだな。

がっかりした目で見て去っていった。

やるせねえ。


次は真姫ちゃんがやってきた。これは期待大ですよ。


「お前、みみっちいの得意なのな」


……みみっちい……。

否定はできねえけど……。


「お前らしいぜ」


ニカッと笑いながら背中をバンバンと叩いて、去っていった。

しょぼーん。


落ち込んでいる俺に近づいてくる沙羅さん。


「ご活躍でございますね。本当に賢いお人ですこと」


涼やかな目で微笑しながら言って、去っていった。

皮肉ですよ、皮肉。


これでも、地獄の猛特訓を乗り越えてなんとかやってるというのに。

それでも、パラメータは足りないけどさ。

ちくしょう。

そんなにパラメータが偉いのか!

パラメータの低さを工夫して乗り越える、それがゲームじゃねえのか!

全くこの世界作ったやつは、なんにもわかってねえな。


そしてまた来訪者がやってきた。

はちまきをオシャレに巻いて髪をなびかせ、体操服をブルマにインしないでヒラヒラさせながら。


「やあ、ロトさん。人探しやら、女装やら、いろんなことが得意なんだね」


おお、わかってくれる人がいたよ。

さすが実羽さん。

本気で褒めてくれている笑顔だ。

一見不良かと思う見た目なのに、努力を褒めてくれるこの感じ。

なんだろう、週刊少年マガジンのヒロインのようだぜ。


「いやぁ」


後頭部を掻きながら、言う俺。

恥ずかしくて全くうまく返せない。


「じゃ、後半も頑張ってね~」


手を振って去っていく実羽さん。

なんていい人なんだ――。


フフフ、そりゃ大活躍は間違いないさ。

後半は秘密兵器があるもんね。


後半1つ目の種目はビーチフラッグ。


これはもうダッシュ力が物を言う。

キック力増強シューズで初速を上げれば勝てる!


結果は圧勝だった。

明らかに不自然なほどのダッシュ力を見せたが、不審がられることはなかった。


そして、最後のリレー。

体育の成績が悪いのに、何故かリレーの選手に選ばれている。


当然、大活躍。

もうね、面白いくらい速い。

速すぎて一回転んだけど、それを余裕で巻き返した。


「凄いじゃん」


そうでしょ、次孔さん。


「やるな」


やるでしょ、真姫ちゃん。


「見直しましたわ」


見直しちゃったでしょ、沙羅さん。


女装メイド喫茶のバイトで頑張って、アイテム買った甲斐があったというものだ。


そして実羽さんがやってくる。

さぞ褒めてくれるに違いない。


「ちょっと残念かな」


―あ、れ?

少し寂しそうに目を細めて去っていった。


なんで?

ちくり、と胸が痛んだ。

今日の体育祭は全て俺の努力を出したんじゃないか。

やれるだけのことをした結果じゃないか。

そう自分に言い訳をする。

言い訳だって?

なんで俺は言い訳なんてしなくちゃならないんだ?


もう何となくわかっていた。

俺は自分に言い訳をするようなことをしていた。

それが実羽さんにはわかった。

そういうことだ。


俺はキック力増強シューズをゴミ箱に捨てた。





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