異世界メモリアル【3周目 第20話】
「やは~、お兄ちゃんののろけ話を聞くことになるとはね~」
「どこをどう聞いたらそうなるんだ」
いつもの定例で俺は妹に相談をしていた。
というか悩みを聞いてもらっていた。
情けないとか言ってはいけない、彼女は恋愛シミュレーションの世界のサポートキャラなのだ。
当然の役割なのだ。これでいいのだ。
いつものやつはこんなかんじ。
【ステータス】
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文系学力 310(+15)
理系学力 338(+29)
運動能力 300(+17)
容姿 287(+30)
芸術 279(+24)
料理 148(+3) 装備+100
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【親密度】
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星乃煌 [顔を洗った後の今治のタオルくらい愛している]
実羽映子 [好き]
次孔律動 [このまま終わってしまうのか!?]
来斗述 [噛ませ犬役]
庵斗和音鞠 [このままの関係でいいじゃない]
江井愛 [好きになる確率10%]
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あんだけ言われたけど、10%だからね。
そこで相談を始めたわけだが、なぜか妹はのろけ話だと思っているらしい。
どんだけハッピーな思想なのだ。お気楽極楽か。
「いやいや、だってヤキモチ焼いてたって話でしょ? 1度デートしてその後他の女の子とばかり会ってたらちょっかいだしてくるなんて可愛いじゃない!」
「ぐむ。そう言われたらそうだが」
確かに来斗さんが言うことを整理するとそうなる。
あいちゃんの行動が全て可愛い嫉妬だったという話にされると、自分の器の小ささが際立ってくるので辛い。
「でもほら、親密度を見たらさあ」
わかるだろ? と妹を見る。
他の女の子達はこれを知らないからそんなことを言うんだ。
こちとらわかってんだよ、どの程度好かれているかを。
舞衣だけは俺の気持ちを理解してくれるだろう。
「はぁ~、お兄ちゃんは全然わかってないね」
「えっ!?」
ちっちっちと人差し指を振られる。
意外すぎる反応だった。妹は完全なる俺の味方だと思い込んでいるので、ショックだ。
「逆に考えてみてよ、お兄ちゃんが好きになる可能性10%の女の子って誰がいる?」
えっ!?
んん!?
考えたこともなかった。
数値でなく言葉で表すなら気になる女の子……ってところか。
確かに普通の高校生だったら、クラスに1人か2人いるかどうかだろう。
この世界は美少女だらけだが、それでもそれほど思いつかない。
「そんなにいないでしょう? 十分高いんだよ、可能性は」
「そう、なのか?」
「で、その10%くらい好きになりそうな女の子から好意を向けられたら? 格好いいとか好きだとか言われたら?」
「そりゃ……好きになっちゃうかもな」
素直な言葉を口にすると、妹に腕を組んでそらみたことかというように鼻で笑われる。久しぶりにウザカワ。
「そういうこと。だいたい、お兄ちゃんはわかってないというか、調子に乗ってるというか、偉そう」
「なん……だと……!?」
そんなことを言われるとは。
しかし妹に言われるとショックじゃないし、なんならちょっと嬉しい。
来斗さんからされたダメ出しのときは死ぬかと思ったけどな。
「メロメロにしてやんよとか言ってたけど、その方法が自分を高めるだけとかありえないでしょ」
物凄いダメ出しをされているが、サポートキャラの口調は優しい。
微笑んだままの妹が、俺の鼻先に人差し指を突きつける。
「お兄ちゃんなんか、女の子に好きだって100回、1000回言ってようやく振り返ってもらえるんだからね」
――ああ、そうか。
目からウロコとはこのことだった。
そりゃそうだ。
誰だって、自分のことを好いてくれる人が好きなんだ。
俺はハーレムラブコメの主人公なんかじゃない。
周りが勝手に好きになってくれるなんてありえない。
それは多少ステータスが高くても同じなのかもしれない。
あいちゃんはなぜデートに誘うのかと聞いた。
可愛いからか、好きだからかと。
それに俺はそうだ、とだけ答えた。
大人ぶって、カッコつけて、3周目だからな、なんて偉そうに。
なんだよ、俺からは何も言えてないんじゃないか。
情けなさとか恥ずかしさはもう、通り越して清々しい気持ちだった。
もうどうすればいいかわかったからだ。
好かれようとする努力だけじゃ足りない。
好きだという気持ちを伝える努力のほうが大事。
あいちゃんに対してなんか面白くないと思っていたのは、彼女の親密度が低いと感じていたから。
俺の好意に対して、相手の好意が見合わないことが、やるせない。
もっと好かれたい、自分が好きな気持ち以上に好いて欲しい。
でも、それは彼女もそうだった。
俺が好意を伝えないから。
表情や態度で気持ちが伝わってしまうことに恥ずかしさがあったから。
俺があいちゃんを好きだという気持ちを認めることが出来なかったから。
なんだ、俺が子供だっただけだ。
よし、吹っ切れた。
俺はもう、ちっぽけなプライドなんかに負けやしない。
相手より好かれていないとしたって、俺は気持ちを伝える。
それが本当の勇気。
俺は勇者のロトだ。
「舞衣、好きだ」
「私にはいいから!?」
「好きだ。あと、ありがとう」
「もう……でも、そういうことかな」
頬を人差し指で掻いている妹の嬉しそうな顔を見て、ようやくスタートラインに立てた気がした。