異世界メモリアル【3周目 第16話】
3周目の2年生として夏休みに入った。
真面目に4周目以降も頑張ろうという気持ちになった俺は、バイトに精を出すことにした。
アイテムは持ち越せることができるので、バイトしたお金でステータス向上に役立つアイテムを手に入れることがこの異世界をコンプするための攻略法に違いないからだ。
ここで今持っているアイテムを整理しておこう。
【倒れるだけで全身スーパーコア】
これは毎日5分のトレーニングで少しずつ運動能力が上がるアイテムだ。
【萌える参考書 ~ねえ、妹と暗記しよっ~】
妹に萌えているだけで学力が上がるアイテム。これは本当に買ってよかった。勉強が楽しいって素晴らしい。
【5分しかNO枕】
1日5分寝るだけですむため勉強時間を増やせるアイテム。眠くならないわけじゃないので、なるべく使いたくない。
【リアルGショック】
重力発生装置になっている腕時計で運動能力を上げる効果が向上する。はっきりいってしんどい。
【遺伝子レンジ】
食材の遺伝子を調理中に組み替えて品種改良できる調理器具で装備していると料理は+100。
【お料理特訓ロボ・ヒラノーレミ】
破天荒なレシピを教えてくれるロボット。人間離れした突飛な行動で笑いが耐えない楽しいお料理体験によって料理の上達が早くなる。
なお、お風呂に入るだけでどんどん美形になる入浴剤は、消耗品のため無くなっている。
こうしてみると明確だが、容姿と芸術に関するアイテムがない。
むしろ普段の生活や部活では向上させにくいステータスなのだが。
なんで買ってないんだよ、俺。
3周目のことを考えてプレイしろよ、俺。
普段は新聞部とゴルフ部があるのでバイトが出来ない。
次孔さんのことを校内に紹介するという目標があるので新聞部はサボれないが、ゴルフ部は正直辞めてもいいのだが。
入部するための特ダネが欲しくてキャディやっただけだしな。
でも、辞めたら、庵斗和音さんを傷つけるかもしれないという恐怖が……。
1周目で料理部を辞めたときに沙羅さんを傷つけたときのことはトラウマだ。
なのでほそぼそと続けてしまっている。
新聞部とゴルフ部は夏休みも忙しい部活ではあるが、半分くらいはバイトに時間を使えるだろう。
「舞衣、アルバイトを紹介してくれ、合法的で死なないやつでなるべく稼げるやつ」
「ほーい。上げたいステータスとかはないの?」
食べ終わったアイスキャンデーの棒を咥えてピコピコ動かしながら、質問してくる妹。
運動能力を上げようとしたら雪山強行軍になったんだよな。あれだけは二度とごめんだ。
また、以前に容姿を上げるために女装メイド喫茶をしたことと、芸術が上がるBL漫画家のアシスタントをした記憶がよみがえる。
「ステータスはアイテムで上げるから、バイトは稼げればいいや」
「じゃあ、この3つから選んでね」
1.ゾンビランドリーサガ
2.東京グールグル
3.ヘル寝具
相変わらず、わけのわからないものばかりだ。
「舞衣、一つずつ説明を頼む」
「んとね、ゾンビランドリーサガは、ゾンビをクリーニングするお店だよ。腐りすぎたゾンビを洗濯する仕事だね。とてつもなく臭いし、汚いから時給が高いよ」
「……そうか、そうなるのか……」
うっかり時給が良いものと言ったら、キツイ汚い臭いといういわゆる3Kの仕事を紹介してくるのが我が妹であったか。
嫌だ、嫌すぎる。
どう考えても他の2つもそういうのばっかじゃん。
撤回だ、撤回しよう。もっと楽な仕事にしてもらおう。
「えっと~、悪いけどさ、舞衣さ、その~」
「3つの中から選んでね」
「いや、そのな、別のな」
「3つの中から選んでね」
OH……なんてことだ、もう同じことしか言わないNPCみたいになっちまった。
駄目だ、3つの中から選ぶしか無い。
臭いのは嫌だ、他の2つに希望を託したい。
しかし、最悪これを選ぶ可能性もあるので、疑問を解消しておこう。
「そもそも腐りすぎたゾンビをなんで洗濯するんだ。何に使うんだ」
「ペットだから、可愛がるんだよ」
「ペットなの!?」
「結構人気なんだよ? アイドルみたいな格好させる人だっているよ」
「まじかよ……」
俺にとってはガンシューティングで撃ち殺すだけの存在だよ。
あれを可愛がるやつがいるんだな……。
なんだよゾンビにアイドルみたいな格好させるって。わけわからん。
「次はなんだっけ」
「東京グールグルは、回転寿司だね」
ホッとした~。なんだ、普通じゃん。
じゃあもうこれでいいかな。
「屍食鬼向けだから、寿司のタネがヒトの死体を使ってるよ。死体を取り扱う仕事だからみんなやりたがらないんで時給が高いよ」
あぶねー!?
絶対やりたくない仕事だったわ!
なんなら今までのやつはまだマシだわ。
「私も詳しくしらないけど、人差し指2本乗せた寿司とか、膵臓の軍艦とか人気なんだって」
「聞きたくねえ~!」
想像して顔が青ざめる。
君の握った膵臓を食べたい、って言ってる場合かよ。
「頼むから違法じゃなくてもそういう倫理的にNGなのは選択肢に入れないでくれ」
「お兄ちゃん、屍食鬼にも人権はあるんだよ?」
そう言われてもなあ。
多様性にも許容できる限界があるぞ。
なんにせよ、これをやることはない。無理。
「次、3つ目のやつを頼む」
俺はお祈りのポーズをしながら、言った。
次のがまともじゃなかったら腐りすぎたゾンビを洗う羽目になるぞ……。
「ヘル寝具は寝具のレンタル屋さんだよ」
わぁ、普通。やったー! なんて喜ぶと思うかよ。
「それだけじゃないんだろ? なんかあるんだろ?」
「吸血鬼向けの寝具だから基本的に棺桶ってことくらいかな」
あー。吸血鬼か。
一般的には怖いとか血を吸われそうとか思うだろうが、俺にとっては実羽さんにつきまとうチャラ男のイメージだ。
「棺桶を運ぶっていうだけ? もっとなんかあるんだろ?」
「バイト中は十字架を身に着けちゃ駄目。ニンニク食べちゃ駄目。日中に訪問しちゃ駄目」
「うーん、別に困らないな」
「じゃあこれでいいね~」
そして俺はヘル寝具でバイトすることになった。
夜中に山奥に住む吸血鬼のところに重たい棺桶を運ぶのは、シンプルにキツイ仕事だった。
重たい話を書いているとしんどいです。こういうのを書いていると落ち着きますねえ・・。恋愛モノを書くための励ましのお便りを募集中・・・。