異世界メモリアル【3周目 第14話】
「んでんでんで、お兄ちゃんは結局誰が好きなわけ~?」
「お前」
「んも~! そういうのはいいから!」
むきーっと地団駄を踏む我が妹。
からかわれるよりも、からかいたい、マジで。
こういうやりとりしていると安心するよ。
「なんだかんだで全然デートしてないじゃん! どうなってんのよ!」
ライオン柄のパジャマとスリッパでがお~っとか言いながら怒ってるぞポーズを見せる。
可愛すぎるだろ。
もっとして欲しい。
このやりとりはもちろん、いつものステータス確認後のことだ。
ステータスはこんな感じ。今は2年の2学期が始まったところ。
1年の2学期から比べたら、かなり成長している。
【ステータス】
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文系学力 295(+223)
理系学力 307(+209)
運動能力 283(+228)
容姿 257(+236)
芸術 255(+224)
料理 145(+40) 装備+100
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理系と料理以外は2周目の最終ステータスを上回っている。
当初やる気がなかった影響はあるものの、やはり2周目攻略時のボーナスがあるからな。
特に奥義を手にしている理系なんて特に何かせずとも普通に勉強していれば上がっていくくらいだ。
そして問題の親密度だが。
【親密度】
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星乃煌 [風呂の後のフルーツ牛乳くらい愛している]
実羽映子 [好き]
次孔律動 [師匠って呼ぶのなんなの!?]
来斗述 [クラスメイトA]
庵斗和音鞠 [このままの関係でいいじゃない]
江井愛 [好きになる確率5%]
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このとおり、ステータスに比べて大して進展がないのだった。
理由はおそらく、妹の指摘の通り。
デートをしていないからだ。
彼女たちに好かれたいと思っているのに、なぜデートをしないのか。
それはズバリ、次孔さんについて悩んでいるからだ。
彼女への思いは募るばかり。
ところがそれは恋心とは少し違うものとなっている。
師匠と呼んでいるが、実際は神のような扱いだ。
次孔さんの魅力を全校生徒に布教したい……そんな気持ちなのでデートなんて恐れ多いのが一つ。
俺を悩ませるポイントがもう一つ。
この世界では、攻略した女の子はもう出てこないということだ。
会えなくなってしまうことの寂しさもあるが、毎週次孔さんのラジオを聞くのが楽しみにしている俺にとってあのラジオが無くなってしまう事は致命傷ともいえる。
つまり、この3周目でうまく次孔さんを攻略出来たとしても次孔さんのいない4周目以降が憂鬱になってしまう。
よし、好きな順番で攻略しよう~♪
というお気楽なプレイが許されないんだ、ホントクソゲーだなこの世界は。
そんなことを考えていたところ、冒頭のシーンになったというわけ。
真面目に女の子を攻略しない俺におカンムリだ。
妹は俺の恋の応援団だからなあ……。そういう立ち位置だからなあ……。
「いや、そりゃ俺だってデートしたいよ」
「しなよっ」
「じゃあ、舞衣がしてくれ」
「私は妹だから! デートできないの!」
妹だからデート出来ないなんてオカシイ。
やっぱりこの世界はクソゲー。
……しかし、妹だったらデートしても居なくならないから……というのが本音か。
そんな考えじゃ、駄目だ。
次孔さんが俺にラジオで伝えてくれたことを無為にしてしまう、それだけは出来ない。
真面目な顔で真剣に悩んでいる俺の眼の前にいるライオン娘は、ぷんすか怒りながら缶チューハイを飲み始めてしまった。
夜も遅いのにスナック菓子の袋まで開けて、まさにパジャマパーティーの様相だが、これは怒っているらしい。
「お兄ちゃんのせいでストレスが溜まっているから、やけ酒してやるんだから! 夜なのにお菓子も食べちゃうからね!」
などと言っているが、そんなことされても正直俺は困らない。
むしろ楽しいので、逆効果となっていた。
しかし、俺がデートしないことでストレスが溜まっちゃうなんて不幸な役回りだな。
「お兄ちゃんは~、ほんっと~に、今のままでいいと、思ってるんか~! コラ~! がお~!」
2缶目に突入した妹は、可愛いからこのままで放っておい……いや、やめよう。
俺がこの世界にいる意味を考え直すんだ。
ヒロイン達を攻略する。そのことが彼女たちを救う唯一の道なんだ。
そういうゲームをプレイしているんだぞ、勇者ロト!
「俺も飲む!」
妹から缶チューハイを奪い、一気飲みする。
ぽかんとしている舞衣に言ってやる。
「攻略するぞ、俺は!」
おおー、とお菓子を口に入れながら弱めのリアクションを見せる。
まぁいい。
さて、誰を攻略するか。
4周目にいなくても比較的困らない方がいいよな。
――となると。
やっぱ人工知能かな。
あいつに会えなくなっても……大丈夫だよな。
いたらウザいだけだし。
他の攻略を邪魔してくるしな!
そうだ、そうだ、そうしよう。
現状5%らしいが、なんとかなるだろう。
「待ってろよ、江井愛! メロメロにしてやんよ!」
「やった~、今夜は飲むぞ~!」
アルコール度数の低い缶チューハイを、自室で兄妹2人でがぶがぶ飲むだけの夜。
俺が交通事故で死なずにおとなになっていたら、そんな日もあったのかもしれないと思える夜。
そんなことしてても、もちろんステータスは上がらない。
攻略相手の親密度も上がらない。
4周目のプレイの役にも立たない。
だが、こんな夜があるからこの世界をプレイすることを楽しいと思えるんだろうなあ。
いや、これが普通に生きる楽しみってやつか。