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異世界メモリアル【3周目 第13話】


「ロトっち、どこ撮ってるの」

「もちろんチアガールです」

「このエロッち! 選手を撮れ、選手を!」


ぱかーんと黄色いメガホンで頭を(はた)かれる。


俺と次孔さんは野球の地区予選大会にやってきていた。

もちろん学校新聞の取材である。


新聞部も大分慣れてきたが、次孔さんにはよく叱られる。

次孔さんにとって俺は使えない後輩のようなものだ。歳は同じでもあまりにも偉大な先輩である。

それにしても次孔さんの俺への対応はこの3周目の世界では、1、2周目とは大分対応が異なる。

部活で活躍している俺に出会うのと、新聞部の俺に出会うことの違いによるものなのだろうか……。


ポニーテールを揺らしながら応援しつつ、メモを取っている次孔さんは格好いい。

普段は人懐っこくて愛くるしい元気な女の子だが、新聞部員としては本当に優秀というか、プロフェッショナルというか。

競馬新聞の記者になりたいんだもんなあ。

いつも本気で、全力で取材をしていて、尊敬してしまう。

一緒にいると見とれてしまうことがほとんどだ。


「こら、ぼんやりしてんなーっ! 打ったぞーっ!」


ぱかーんとバットがボールを打った音に続いて、ぱかーんと俺の頭にもメガホンがヒット。

タイムリーが出て、同点に追いつく場面だったようだ。

野球はやったことないが野球ゲームは散々やったので知識だけはある。

うん、重要な場面だから写真が必要だよな。

しかし、すでに2塁に居た選手はホームへ帰っていた。ハイタッチを終えてベンチに戻るところだ。


パシャ


「遅いわーっ! ベンチに座るところ撮影してどうする! せめてホームインを撮らんかい! お前はもうロトっちじゃねえ! トロっちだ! トロいから!」


メガホンで頬をぐりぐりとしながら怒られる俺。

映画監督にいびられる助監督みたいな絵面だ。

情けねえ。

次孔さんの役に立ちたいのに、ただ横に居てぼんやりして叱られているだけとは。とほほ。


応援団長が声を張り上げ、副団長が旗を振りかざす。

吹奏楽部の演奏する曲がアップテンポなものに変わる。

次孔さんも俺への攻撃を一旦止めて、メガホンで激励の言葉を叫ぶ。

そして、ネクストバッターズサークルから選手が動くと、メモを取り出して鉛筆を持つ手に力を入れる。


「9回2アウト、ランナー2塁で同点……ここで打てば逆転」


真剣な眼差しで自軍のナインを見つめる次孔さん。

笑顔もいいけど、真面目な顔も素敵だ。

一筋に垂れる汗は、この暑さのせいか、それとも熱戦のせいか。

トレードマークの音符の髪飾りが強い日光に照らされて反射しているが、その横顔の方が眩しい。

汗を拭うこともなく、敵のピッチャーをじっと見据えている。

ううん、この緊張感。

片時も目を離せないぜ、次孔さんから。


「打った―! ホームランだ―!」


立ち上がり、両手でガッツポーズをつくって興奮する次孔さん。

いい表情だ!


パシャ

パシャ

パシャ


「撮れたか、トロっち!?」

「ええ、バッチリです。最高に可愛い次孔さんが撮れました」

「このどアホ――――――――!」


メガホンで頭を連打されてしまった。


「逆転ホームランだぞ!? 何をやってるんだ、もう! 私の、新聞記者の写真なんか撮ってどうすんだ! 記事にならないよっ」

「でも次孔さんが誰よりも輝いてますよ」

「あ、あ、アホ――――――――!」


更に速いスピードでメガホンで頭を連打されてしまった。

スイカを叩き割れるくらいのスピードだ。16連打だ。

よっぽど怒っているのだろう、顔が真っ赤だ。


しかし、俺は気づいてしまったよ。

学校の素晴らしさを伝える役目を果たしている次孔さんこそが、俺が全校生徒にその素晴らしさを伝えたい相手だとね。


「んも~、ヒーローインタビューの取材に行くぞ」

「ああっ、待ってください」


尊敬の気持ちが強すぎて、思わず敬語になってしまう。

軽やかに駆け出す次孔さんを、取材道具の入ったショルダーバッグを持って追いかける。



「新聞部の次孔律動っす! 最後のホームランを打ったヒーローにインタビューをお願いできますかっ」


うーん、誰が見ても完璧な笑顔だ。

こんな好感度の塊みたいな人から頼まれて断るやつがいるだろうか、いやいない。


「もちろんです」

「ヒットでも十分逆転できる場面でしたが、最高の形で打てましたね」

「コンパクトに当てに行ったんですけどね、まぐれ当たりってやつです」

「またまた、ご謙遜を~、完全に芯を捉えてましたよ」

「ははは、そうですか?」


す、すげー!

なんだよ、この完璧なインタビュー。

次孔さんがさっきの試合の内容、活躍のポイントを完全に把握できてるのはもちろん、相手の心を捉えまくってるし、ラジオパーソナリティをやっているからか、喋りも進行もスムーズすぎる。

今すぐ女子アナに成れるぞ、次孔さん。


「次はいよいよ全国ですね、頑張ってください」

「はい、ありがとうございました」


選手も満面の笑みで去っていった。

そりゃそうだろう、こんな扱い方をされたら気分が良いに決まっている。


それから次孔さんは、監督、先発ピッチャー、同点タイムリーを打った打者とインタビューを続け、誰にも真摯で丁寧な対応をしていた。

ただ特ダネが取れればいいっていうことじゃないんだなあ。

新聞部に協力してもらえる関係性をつくるっていうことが大事なんだ。


「ちゃんとメモ取れた?」


次孔さんから今日始めて、俺に笑顔を見せてくれた。

負けないくらいの笑顔で返事を返す。


「もちろんです、次孔さんの女子アナっぷりを完全にメモりました」

「だから私を観察するなーっ! インタビューする気あるのかっ」

「ありますよ。俺は、次孔さんにインタビューしたいです」

「だーかーらー、新聞部はする側! される側じゃないの!」


眉毛を釣り上げて、俺を睨みつけてくる。

だが、今回ばかりは引けない。

目をそらさずに、信念を持って言葉を変えさせてもらう。


「でも、俺が、この学校のみんなに知って欲しい、一番輝いている人は、次孔さんなんです」



通算100話だって! これを読んでいるあなたは100話も読んでいただいたわけですか! ありがとうございます! 

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