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異世界メモリアル【第10話】


夏休み中、女装メイド喫茶で働いた俺はなんとか20万円を稼いだ。

そして真姫ちゃんとプールデートの約束を取り付けたのである。


高い代償だと思うか?

否。

安いものだよ、あのおっぱいが見れるならね。

おっぱい、プライスレス。


今は更衣室を出たところで真姫ちゃんが着替えるのを待っているところだ。

期待と興奮が抑えきれず、ニヤニヤが止まらない。

周囲から見えている俺は、さぞ気持ち悪いことだろう。


「おっまたせ~」


水着姿を見て、驚嘆する。

と同時に戦慄する。


「なっ……」


言葉が出なかった。

真姫ちゃんの肌は傷だらけなのである。

下手したら虐待を疑われるレベルで。

試着のときはなかったので、夏休み中についたものだろう。

また前回の試着室で前から見ただけではわからなかったが、古傷もいくつかある。


「なんだ? あまりのナイスバディーで言葉もでねえか?」


カラカラと笑う真姫ちゃん。

俺は事実を受け止めきれていないが、本人が気にしていないのであれば、気にすることは失礼かもしれない。


「あ、ああ。あのときも思ったが、本当に、な、ないすばでぃーだぜ」


いくら武道を色々やっていると言っても、ここまで傷だらけになるか?

傷が付いてるのは背中側の方が多い。

まともな武道なら正面しか攻撃を受けないだろう。


周りの視線も険しいものだった。

美少女のビキニ姿に浴びせられるものではない。


「あの流れるプールに入らないか?」

「応よ」


水の中に入ってしまえば、目立つこともないだろう。

流れるプールでゆったりとプカプカ流される俺たち。


「それにしても女装してメイドのバイトとは、アホだな~お前」

「今日のデートのためなら、安いもんだよ」

「そ、そうかよ」


わかりやすく照れる真姫ちゃん。

素直な人だ。


「その~、夏休み中は何してたの?」


それとなく聞いてみる。


「いつもどおりだぜ。特訓して、特訓して、試合して、特訓」

「そ、そっか。誰と?」

「ん? 親父と兄弟」


家族かよ……。


「特訓ってそんなに厳しいのか?」

「あん? 人と比べたことねえからわかんね」

「その、身体に結構傷が……あるからさ」


それとなく聞くの下手くそか、俺。

ダイレクトに訊いちゃったぞ。


「ああ。こりゃあ負けた罰だよ」


――は?

な、んだと?


「久しぶりに負けちったんだよな~。やっぱ弟も強くなっててよ~」


弟に負けたからっていう理由で?

女の子の、真姫ちゃんの肌を傷だらけにしたってのか?

―ー誰か知らんが、ブッ殺すぞ。


「年下に負けたら親父から罰を受けるルールだからさぁ~」


そんなルールがあってたまるか。


「鞭はやっぱり痛いんだよな、やっぱ目立つか? 傷」


目立つよ。


「俺は気にならないけどさ、顔ばっかり見ちゃうから」

「な、お前そういう事言うのな」


顔をそらして、そっぽを向く。

誤魔化せているだろうか。

俺、多分めちゃくちゃ怖い顔してると思うけど。


「その親父さんってさ、俺でも戦えるのかな?」

「はぁ? 道場破りだったら必ず親父が相手するけどよ、あの人に勝てるやつなんていねえよ」


勝てなくたって構わないが、一発でもいいからぶん殴りたい。

殴って一言、言ってやりたい。

クソくだらないルールをやめろ、と。


俺は流れるプールの水面下で拳を強く握っていた。


******


「お兄ちゃんって、本当に馬鹿だね」


舞衣は呆れた顔でそういったが、声は優しかった。


「夏休み中ずっとバイトして、ようやく見れた水着姿を台無しにされた恨みを晴らしたかったんだよ」

「はいはい、そういうことにしといてあげる」

「俺は本当に、って、痛えっ」


舞衣が俺の傷口に薬を塗ってくれていた。

ものすごく痛い。

俺は全身傷だらけである。


今日、デートを終えて直ぐに俺は道場破りに向かい、真姫ちゃんの親父にボッコボコにされたのだ。

あまりに一瞬の出来事で何を食らったのかもわからねえ。

打撲も切り傷も擦り傷もできる謎の必殺技だ。


「お兄ちゃんの運動能力で勝てるわけないじゃん」

「格闘ゲームだったら勝てた」

「残念ながら格闘ゲームじゃありませんから」


そうだな、そうだろうな。

ギャルゲーだもんな。

真姫ちゃんは赤点仲間じゃなくて、武道系の運動部で知り合ってさ。

高校3年あたりで全国制覇してさ。

それから道場破りするっていうルートなのかもな。

攻略本にはそう書いてあるのかもな。


でも、そんな冷静にプレイできねえんだよ。

既読スキップもない、この世界はよ。

とんだクソゲーだよ。


「冷静にステータスを確認しなよ」


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 96(+8)

理系学力 79(+10)

運動能力 60(+6)

容姿   110(+12)

芸術   16(+1)

料理   86(+10)

―――――――――――――――――――――――――――――


上限とかわかんねえけど、よっぽど運動能力低いんだろうな。

ゲームばっかりやってた前世より筋肉ねえしな。

現状で前世より上回っていると感じるのは料理の腕と容姿だけだ。


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

実羽じつわ 映子えいこ [メイドさんは意外と好き]

望比都沙羅もうひと さら [ペンギンのぬいぐるみくらいの存在]

次孔じあな 律動りずむ [体育の成績最低なのに道場破りに行ったって本気!?]

寅野とらの 真姫まき  [まじ軟派]

―――――――――――――――――――――――――――――


次孔さんスゲー。

さっきの出来事なのにもう耳に入ったのかよ。


真姫ちゃんは……軟派か。

実際は相当硬派なことをしてしまっているのだが、真姫ちゃんは道場破りしたことは知らないからね。


「で、お兄ちゃんどうするの? 身体鍛えるの?」


そうだなあ。

多少鍛えたところでどうにもならないんだろうけどな。


「来月は体育祭があるよ」


あー。

やばいね。

全ヒロインの評価下がること請け合いだよね。


「鍛えます」

「そっか。バイト代入ったら、またアイテム買いに行こう」


今日は舞衣が優しい。

まぁ、ここまで全身傷だらけの怪我人だったら、そりゃ多少は優しくしてくれるか。









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