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異世界メモリアル【第1話】

――死んでも文句は言えなかった。


俺はゲーム中毒というか、特にスマホになってからは常にゲームをやめられなかった。

結果、いわゆる歩きスマホってやつで死んだ。


赤信号の横断歩道でトラックにドーン。

車を3台越えてぶっ飛んだのが最後の記憶だ。


高校3年生で、中学高校は男子校。

恋愛と呼べるようなものはしたことがなかった。

一応それなりの学力でいい感じの女子が多いという噂の大学に通うのを楽しみにしていたというのに。


人生を憂いながら、三途の川と思われる川岸でぼんやりしていると、脳内に直接言葉が響いた。


「そんなにゲームが好きなら、ゲームみたいな世界にいっちゃいなさい」


神様かなんかなのだろうか?

あまりのフランクさに、リアリティを感じない。

しかし、手や足に感覚が戻ってきた。

よくわからないが、そして俺は再び身体を得た、ということだろう。

肉体があるって素晴らしい。


ここは―――。

ゲームの世界なのだろうか?

別にドットが荒いなんてことはないが、背景のない真っ黒な場所に現れた。

闇ではなく、充分な明るさの黒だ。

キャラクターメイキングみたいな感じにも思えた。


さっき脳内に響いた言葉は”ゲームみたいな世界”であった。

つまりはゲームではないのだろう。

しかし次に聞こえてきた声は、明らかにゲームのそれだった。


「あなたの名前を教えてね」


成る程。

どうやら俺は本当に、ゲームみたいな世界にやってきたようだ。


俺がこういったゲームで最初に入力する主人公の名前は決まっている。

「ロト」だ。

ひょっとしたら、最強で始まったりしてな。


「初期ステータスを確認して、ボーナスポイントを振り分けてください」


おお、そうきたか。

序盤はHPを重視したい派だ。


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 5

理系学力 9

運動能力 5

容姿   8

芸術   7

料理   2

ボーナスポイント 10

―――――――――――――――――――――――――――――


えっ?

ちょっと思ったのと違う。

レベルとか、魔法力とかさ。

そういうのじゃないのか?


しかしこのパラメータはどこかで見たような、見たこと無いような。


あ、あれだ。

随分昔にやった育成型の恋愛シミュレーションゲームに似てるんだわ。

いわゆるギャルゲーってやつ。

最近はあまり見ないな。


うん?

まさか俺がやってきた世界ってのは……。

育成型のギャルゲーなのか?


とりあえず料理はよくわからんし、学力は後でなんとかなりそうだから、全部容姿に割り振ることにした。


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 5

理系学力 9

運動能力 5

容姿   18

芸術   7

料理   2

―――――――――――――――――――――――――――――


どうやら、そう頭のなかで決めただけで進行するようだ。


――すると、いきなり風を感じた。

外だ、おそらく春先。

桜が舞っている。

目の前には新築にもほどがあるだろうと思うほどやたらピカピカの校舎。

俺は制服っぽいものを着ているようだ。


「よう、何突っ立ってんだ」


後ろから肩を叩かれる。

なにやら良い奴そうな男だ。

イケメンとまではいかないが、誰からも好かれそうなタイプの好青年である。

確かにギャルゲーにこういうやつよく出てくるよな、男友達として。


「俺たち幼稚園からの腐れ縁だけどよ、また同じ学校だな。この3年間こそぜってー彼女作ろうな」


明らかに無駄のない説明セリフだ、非常にわかりやすくて有り難い。

どうやら親友で間違いなさそうだ。


これで間違いない。

俺はギャルゲーみたいな世界に転生したと確信する。


ここらでゲームならオープニングムービーでも流れそうだが、そういうことはないみたい。


さて、幼稚園からの腐れ縁のこいつのことは全くわからない。

名前もわからん。

普通ギャルゲーならセリフの窓に書いてあるのに。

ゲームみたいなだけで、この世界はとてもリアルなようだ。

RPG系の世界ならアイテムウィンドウとかステータスウィンドウとかあるだろうになあ。


「よお、義朝よしともこれからよろしくな」

「おう、友親ともちかもな」


ナイスなタイミングで別の友人が登場してくれた。

どうもこの親友は義朝よしともというようだ。


「さ、行こうぜロト」


……ここで俺は自分の名前を間違えたことに気づいた。

だってこういうときって普通、剣と魔法の世界に行くって思うよなぁ?

ゴリゴリの日本の高校生の世界観のところにロトだよ。

どう考えても違和感しかねえよ。


そして俺はすぐにパラメータも間違えたことに気づく。


身体が重い。

なんというか俺の身体に筋肉がまるで無い。

校舎の前にある階段を登りきれる気がしない。


そうなのだ、俺は運動能力が5しかないのだ。

ステータスの最大値はわからないが、5はかなりヤバイみたいだ。

90歳くらいになったら、こんな歩き方になるかな~っていう感じ。


リ、リセットしてぇ……。


親友はさっさと行ってしまった。

くぅ~、歩くのがしんどい。


キーンコーンカーンコーン


始業の鐘が聞こえてくる。どうやら初日から遅刻することになりそうだ。

ノロノロと歩んでいると右肩をポンと叩かれた。

後ろから走ってきた女子のようだ。


「おっさき~」


そのままタタタタターっと軽快に駆けていく女子生徒。


お、おおお~!?

これは出会いイベントなのか!?

つか、今の娘なんだよ。

超絶に可愛いんだけど!?


二重で大きな茶色の目。

細くてキリッとした眉毛。

唇が薄くて、若々しい健康的な肌。

ウェーブのかかったロングの茶髪で、軽やかになびいていた。

一瞬ギャルっぽいように見えたが、屈託のない笑顔がそういう印象を与えなかった。


服は制服だ。

紺のブレザーに白のシャツ、リボンなどの装飾が赤だな。

スカートは緑。

今の娘は相当短かった。

脚ほっそ!


それにしても歴代一番人気の若きCM女王でも勝てないんじゃね?っていうレベル。

やべえ! この世界やべえよ!

そしてリセット出来なくてよかった!

この出会いだけで死んだ甲斐があったってもんだぜ。


俺はテンションが上りつつ、ジジイのような足取りで学校に向っていった。


――学校についたら入学式はもう終わっていた。


「さ、帰ろうぜロト」


まじか。

俺は義朝に連れて行かれるように帰宅した。

自分一人では夜までには帰れなかっただろうから親友には感謝した。


俺の家は新築にしか見えない2階建て住居だった。

生前の家よりかなり立派である。


「お帰り、お兄ちゃん」


他人の家としか思えない玄関を開けたら出迎えてくれる人がいた。

セリフからすると、どうやら俺には妹がいるようだ。

生前は弟が1人いるだけだった。


出迎えてくれた自称妹を確認する。


う、うおおおおお!

これが俺の妹だと!?

俺になど全く似ていない完全無欠の美少女だった。

おそらく中学生だろう。

黒髪ストレートロングで背はやや低く、猫顔というのか人懐っこい感じの印象の娘だ。

明らかにいい子に違いないオーラで、まさに理想的な妹って感じ。

ブレザーの制服の上にエプロンをつけて、おたまを持っている。


「今日から両親は海外だから、二人暮らしになるね。今週は私が料理当番だけど来週はお兄ちゃん頑張ってよ」


わかりやすい説明あざっす!

そうそう、この手の設定は両親がなぜかいないんだよな。

で、この妹と二人暮らしすんの!?

やべえよ、どうみたって妹になんて思えねえ。

いますぐプロポーズしてえ。


「とりあえず部屋に入ったら?」


俺の部屋は2階らしい。

自宅の階段を登るだけでも俺の運動能力ではツライ。


階段を上がったところのドアには舞衣の部屋というプレートがかかっていた。

妹の名前は舞衣か。

この世界の俺の親は、兄へはロト、妹には舞衣という名前をつけた狂気のネーミングセンスということになるね。


自分の部屋はなかなかオシャレ感じだった。

基本的には黒とシルバーで統一された家具が多く、フローリングの6畳間。

そして、部屋にあるものを見ていくと今更だがいろいろな事に気づく。


まず俺の顔だ。

鏡を見ると生前の面影はあるが、大分不細工になっている。

目が腫れぼったいし、顔色が悪いし、肌が荒れてるし、髪がぼっさぼさだ。

ボーナスポイントを全部使ったのにコレかよ。

よくこんな奴に微笑みかけてくれるなぁ、妹。


んで、本棚を見ると、タイトルが読めない。

会話からして言語は日本語で間違いないんだが、どうやら文字が日本語じゃないようだ。

文系学力5というのは日常生活できないレベルっぽい。

この世界、いろいろとキビシイぜ。


カレンダーは数字がわからないが理解できる。

一週間は7日だし、12ヶ月が1年、暦は変わらないようだ。

時計も同じだ。


いろいろと確認していると下の階から声がした。


「お兄ちゃーん、ご飯できたよ~」


くぅ~、声も可愛いです。

急いで向かおうとしたところ、階段を転げ落ちた。

い、イテェ……。

運動能力低すぎだろ、俺。

瀕死でリビング・ダイニングらしき部屋へ。


「今日はご馳走だよ」


自信有りげに腰に両手をあてて、胸を張る舞衣。

食卓を見ると確かに凄い。

ど、どこの国の料理なんだ?

さっき持っていたおたまは何に使ったのかと思うほど、謎の料理である。


「ヌポンフのポワレと、バレーレのシチューだよ」


フフン、とドヤ顔する舞衣。

とてもかわいいが、困惑の極みです。

ポワレとかシチューは理解できる日本語だが、ヌポンフとかバレーレって何なんだよ。


とりあえず食ってみると味はそこまで違和感がない。

ヌポンフは牛肉に近いもので、バレーレは鶏肉に近いものだ。

しかし見た目はなんとも形容し難い。

全く知らないが、エジプトのステーキとカレーですとか言われたら納得するかな。

少なくとも日本の食卓で、女子中学生が作るような料理ではないね。

ここが異世界だということを実感するぜ。


そして俺は料理の数値が2だったことを思い出す。

生前の料理経験が全く通用しないことは、この食事で理解した。


「お風呂も沸いてるからね」


食べたら入りなよ、という舞衣。

ああ、この娘と新婚生活する設定で転生したかった。


風呂から出て、部屋で文字を読む方法を調べていると、ドアがノックされた。


「お兄ちゃん、入るよ」

「お、おう」


お風呂上がりなのか、ほかほかした感じで入ってくる妹。

黄色のパジャマで、頭にタオルを巻いている。

な、なんつー格好だ!

今すぐこの妹がプリントされた抱きまくらを全力で抱いて、床をゴロゴロしたいくらい愛おしい。


「さて、お兄ちゃん。現状を確認するね」


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

実羽 映子 [ミジンコよりは好き]

―――――――――――――――――――――――――――――


「今はこんな感じだね」


突然だが妹が親密度を教えてくれた。

そういうシステムのギャルゲー、確かにあった気がするわ。

定期的に俺と攻略対象の仲がどうなっているかを伝えてくれるっぽい。


「えっと、いろいろと聞きたいことはあるんだけど、実羽 映子って誰かな」

実羽じつわ 映子えいこさんは今日、知り合った女性だね。肩を叩かれたんじゃない?」


あー、あの美少女か。

俺が名前を知らなくても、なぜか妹がそれを知る謎のスキルがあるんだな。


「ミジンコよりは好きっていうのは?」

「そのままの意味だよ。まぁ、頑張りなよ」


慰められた。

まぁ、正直自分の鏡を見る限り、当然って感じ。

まともに歩けるほどの運動能力もねえし、文字も読めないような男なんだから、肩を叩いてくれたことがむしろ奇跡と言える。


「で、一番の疑問なんだけどさ、舞衣は? 舞衣の名前が載ってないよ?」

「え? なに言ってるの、お兄ちゃん。わたし、妹だよ?」


うん、そうだよね。

妹だよね。


ちっきしょおおおおおおおおお!

妹が攻略できねえとか超クソゲーだなぁああああ!

早くも失恋した気分だよ!


「さて、お兄ちゃん。今週は何をする? 勉強? スポーツ?」


あぁ、一週間何をするかでどのステータスが上がるかが決まるんだな。

明日から何をするか、か。

文字が読めないのはキツイが、まともに階段も昇り降りできないのが一番キツイだろう。


「身体を鍛えるよ」

「うん、じゃあ頑張ってね」


何やら紙を渡された。

もの凄い量のトレーニングメニューである。

腕立て100回と書いてあるが、現状では1回も出来ない気がする。


「えっと、これは……」

「一週間、毎日これを頑張ってね」


屈託のない完璧な笑顔なのに、悪魔に見えるぜ。

そうしないとステータス上がりませんからね、という意味だろう。

ゲームならコマンドをクリックするだけで終わるが、そんなわけはない。


ガチのトレーニングをしないと運動は出来ないまま。

本気で勉強しないと文字も読めない。

容姿も頑張らないと不細工のまま。

芸術とか料理とかも必要なスキルに違いない。


――ちきしょう。

俺が転生したこの世界は。

女の子だけは可愛いが、恐ろしいほどの努力をしないといけない世界。


この異世界は、クソギャルゲーだ!



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