冒険者ギルドにて
冒険者ギルド。
そこは様々な冒険者が依頼を求めやって来る。
クエストには大きく分けて4種類、探索、討伐、調達、護衛が存在する。
その中から自分の実力に応じたものを選ぶのだ。
中には分不相応な依頼を受けようとする者がいるが、その場合はギルドの職員が依頼の斡旋を行わない。
ギルドにおいて冒険者は縦5cm×横8cmのオーバル型のタグにより管理されている。
このタグはオーダーメイドで名前の他、年齢や性別、職業、レベル、簡易ステータス、所持スキル、依頼達成率が記載されており身分証明書の代わりになっている。
(無論、詳細なステータスを表示できるがそれを行う者はいない。)
タグ自体は一定期間での更新の義務があり、ギルドは更新手続きにより活動状況や生存を管理する。
ギルドの窓口では職員もにこやかに応対し、トラブルとなるのは皆無であった。
だが、ギルドの受付嬢メイリンは不機嫌だった。
隣の窓口では昨日の4人組の内の一人、エルフのハートガントが受付の青年、ジェフとにこやかに話をしている。
ジェフは受付担当になって日が浅いため、フォローしようと話しかけたのだが、
「いや結構、彼で十分間に合っている。」
とあしらわれてしまった。
(何なのかしら。少しイケメンだからって、私の助けがいらないなんて!!)
冒険者タグ更新に来たドワーフのオイーレも
「オイーレさんは前回更新から2レベルもアップしていますね。おめでとうございます。」
どんな時も微笑みを忘れないメイリンは受付嬢の鏡と言えるが、
「2レベルか、スウェイドお主はどうだった?」
と仲間との会話に戻り全く眼中にない様子。
「すみません。クエスト完了の手続きをしたいのですが・・・。」
三人の若者で構成される冒険者パーティが手続きの為に窓口を訪れる。
「はい。すみません、ただ今受付しますね。」
てきぱきと手続きをこなすメイリンである。彼女は凄腕でもあるのだ。
「はい。これでクエスト完了です。お疲れさまでした。」
僅か数分で手続きを終え、にっこりとほほ笑む。
それを見た若者三人は顔を赤くしながらメイリンにお礼を言い帰ってゆく。
(このれよ!これが当然の反応よ!なのにあの連中は!!)
メイリンとしては納得いかないことかもしれないが、ハートガントやオイーレにとって対象外なのだから当たり前の反応と言えた。
そのメイリンが睨む中、当の四人組はギルドのテーブルでパーティ会議を始めた。
「さて、タグの更新もしてきたことだし、それぞれのタグの確認をするか。」
と、ウィルヘルムが提案する。
冒険者が生存確率を上げる為には仲間の能力を考えて行動する必要がある。
その為、仲間の能力は知らなくてはならない。
4人は隠すことなく自分のタグを見せる。
オイーレ=エスリンギュ
職業:重戦士
レベル:7
耐久値:B+ 精神値:C
攻撃力:B 防御力:B
筋力:A 体力:A+ 器用:A 敏捷:D-
知性:C 魔力:C 魅力:B 外見:C
スキル
斧技A、防御A、探索A、鍵開けA、罠解除A、機械操作B、忍び足C、レスリングB、
危険感知B、鉱物学B、鑑定B
依頼達成率:100%
賞罰:なし
ハートガント=ヤルギュレッシュ
職業:魔法戦士
レベル:7
耐久値:C 精神値:B
攻撃力:B 防御力:D
筋力:B 体力:B 器用:B+ 敏捷:A
知性:A 魔力:B 魅力:A 外見:A+
スキル
剣技B、回避A、危険感知A、追跡C、魔法工学B、魔法知識C、生物学B、植物学B、
幻影魔法C、召喚魔法C、心霊魔法D、変成魔法C、強化魔法B、元素魔法B
依頼達成率:100%
賞罰:なし
スウェイド
職業:剣士
レベル:7
耐久値:B 精神値:C
攻撃力:A 防御力:B
筋力:A 体力:B+ 器用:C+ 敏捷:C+
知性:B 魔力:C 魅力:D 外見:E
スキル
剣技A、槍技A、気配察知B+、探索B、聞耳A、追跡C、操縦B、地理学B、生物学C、
武術知識C
依頼達成率:100%
賞罰:なし
ウィルヘルム=グラス
職業:僧兵
レベル:7
耐久力:B+ 精神値:B
攻撃力:C+ 防御力:B
筋力:B 体力:B+ 器用:B 敏捷:C
知性:C 精神:B 魅力:C 外見:B
スキル
棒技A、盾技B、探索B、話術C、歴史学B、神秘学B、紋章学C+、死霊学B
神聖魔法B、格闘術C+、説法B
依頼達成率:100%
賞罰:なし
「ふむ。各自、少しは成長したのぉ。」
と、他の三人のタグを見たオイーレがうなずきながら言う。
ウィルヘルムは
「そろそろ新しいスキルを覚えるべきか?」
新しいスキルを覚えるか今までのスキルを伸ばすか考えこんでいる。
ハートガントは使用可能な呪文のチェック(受付のジェフから貰った)に余念がなく、
スウェイドは各自のタグを横目で見ながら武具の手入れを始めた。
そんな時である、
「おい聞いたか。あの話を。」
「なんでも、下へ降りることの出来る洞窟があって、そこには金銀財宝が山の様にあるってやつか!」
「しーっ!声がでかい。それでだなぁ・・・。」
「だが、財宝の他にそれを守る竜がいるって話だぞ。」
「それは本当か。でも竜は全滅したのじゃないのか?」
違うテーブルで話を聞いていた冒険者たちが会話に割り込んでくる。
「儲け話だろ、ひとつかませろよ。」
「ちっ!それがいるらしいんだよ。」
「そうか、竜が相手じゃいくら財宝があっても割が合わないだろう。」
「それが、どういう訳か竜は傷だらけで眠っているのだそうだ。」
「傷だらけで眠っているのか、それでも勝てるかどうか怪しいな。
目覚めてドカンなんてことになるかもな。」
竜の攻撃の一つにドラゴンブレスがある。
その威力は強力無比な攻撃と言われており、レベルの低いパーティは簡単に全滅すると言われている。
「くくくくく、ここだけの話だが竜の力を封印することが出来るものがあるんだよ。」
「なんだって!!」
「声がでかいぜ。それにもう何十人も参加する予定なんだぜ。」
「何十人も!!なら万が一にも負けないかもな。」
「万が一じゃねぇ!!絶対だ!これは絶対もうかるでかいヤマだ!」
「しーっ!お前も声がでかい。」
そんな話をよそに何時もの四人は
「何か隣で景気のいい話をしてるな。」
「お?スウェイド、聞き耳か?」
とオイーレが突っ込んで訪ねて来る。
「・・・声が大きいからな。あの程度の会話ぐらい拾ってしまうのが聞き耳スキルの難点だな。」
「で、何かいい話は聞けたのか?」
「ああ、財宝と竜退治の話だな。」
オイーレはため息をつきながら
「あれか、俺も誘われたが、人数が多いのと財宝がよく分からないのがな」
「よくわからない?」
とウィルヘルムが反対に尋ねる。
彼の疑問はもっともな事なのだ、ドワーフは財宝、特に宝石類に目が無いことで有名なのだ。
「・・・財宝の臭いがしないんじゃよ。」
「財宝の臭い?」
「うむ。クエスト特有の財宝の香りは無い上、危険な臭いしかせんのだ。」
「それに関しては私も同意するね。」
とハートガントが同意する。
オイーレやハートガントの第六感は馬鹿に出来ない。
彼らの持つスキルの危険感知が働いている可能性が極めて高い。
「という事は、俺達はスルーだな。」
とウィルヘルムが言うと他の三人は頷きながら同意する。
冒険者は危険な場所へ行くのは見返りがあるからであり、危険なだけの場所に行くのは思慮の足りない者か、未熟な物だけである。
財宝のうわさだけで付いて行く者は冒険者には向いていないのだ。