竜の指輪
指輪には古代語で“時間”“空間”“物質”“伝達”をあらわす単語が刻まれていた。
ハートガントの呪文により魔法の指輪であることは判明したが、どの様な能力を持っているのかは専門家でなければ判らない。
冒険者ギルドの鑑定士は引退した元冒険者の魔法使いが引退後の就職先の一つになっており、高Lvの魔法使いであるため鑑定眼は確かなものである。
4人はギルドの鑑定士の結果を今か今かとソワソワしながら待っていた。
彼らからすると久しぶりのマジックアイテムである。
弥が上にも期待は高まる。
「整理番号は何番だったっけ?」
ウィルヘルムはさっきから何度も同じことを聞いている。
「8番じゃよ。先ほど7番だったからもうすぐじゃな。」
オイーレは落ち着いたように答えているが、ぐっと手を握りしめたままである。
ハートガントもスウェイドもソワソワしている。
「8番のパーティさん、8番のパーティさん鑑定結果が出ました。」
「「「「きたー!!」」」」
4人がハモリながら鑑定の窓口へ押し寄せる。
「で、で、で、何じゃったんじゃ????」
オイーレが尋ねると鑑定窓口の職員メイリン(女性20才独身)が1枚の紙を出しながら答えてくれる。
「鑑定結果はこちらの様になります。
まず、各指輪の共通項目で防御力の上昇があります。」
「ほほう。で、それはどのくらい上昇するのだ?」
防御力が上がると聞いて魔法剣士のハートガントは期待に目を光らせる。
魔法使い系の呪文は、防御の高い重い鎧は呪文の発動を阻害する場合が多い。
必然的に指輪などの装備で防御力を上げることになる。
魔法剣士は前衛である分、その防御力の過多は重要な要因になる。
指輪とは言え防御力の高いものは10点以上の物が存在する。
ハートガントは期待に胸を膨らませていた。
だが、メイリンの答えは非情なものである。
「1点分です。防御が1点分上昇します。」
途端に渋い顔になるハートガント。
口をへの字にしながら訊ねる。
「間違ってない?どれかだけ高いってことは?」
メイリンの方もにっこり微笑みながら
「ハートガント様。当方の鑑定結果に間違いはございません。
話を続けてもよろしいでしょうか?」
「はぁぁぁぁぁ。どうぞ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
長いため息をつくハートガント。
(くうぅぅぅ。受付人気ナンバーワンの私が説明しているのにこいつらは!!)
メイリンはこめかみをピクピクさせながら話を続ける。
「つづいて、各リング固有の能力は」
「能力は?」
今度はオイーレが喰いつく様に訊ねる。
「“時間”は敏捷度や速度が速くなります。
“空間”は攻撃やスキルの射程が増えます。
“物質”は攻撃やスキルの効果が上昇します。
“伝達”はスキルを伝えられます。」
少し間をおいてメイリンが微笑みながら言う。
「それぞれの効果は約1%の上昇になります。」
「はぁぁぁぁぁ。」
オイーレの長いため息が出る。
スウェイドはそれを見て
「無いよりましだ。防御力が1でも上がるのはいいことじゃないか。」
と言うが、ウィルヘルムは
「魔法の指輪だから期待したが、この能力じゃ売ってもいくらにもならないしなぁ。」
「売却額は金貨50枚と言ったところになります。」
メイリンが売却した場合の価格を教えてくれる。
「ほら、安い。指輪一個金貨50枚だそうだ。」
とウィルヘルムが言うが、すぐにメイリンが訂正する。
「いいえ、売却額は全部の指輪で金貨50枚です。」
「「「「!!!!」」」」
メイリンの説明によると、この竜の指輪は古代地下墳墓を探索すると毎回人数分は手に入る指輪なのだそうだ。
一度に4種類すべてが手に入るのは珍しいのだが、紫綬に出回りすぎている魔法の指輪なので買い取り額も安いとのことだった。
「取り敢えず、売らずに使うか。」
とハートガントの言。
「そうじゃな。スウェイドの言葉を借りるなら“無いよりまし”だからの。」
オイーレもハートガントに同意する。
ウィルヘルムは皆に尋ねる。
「では、どの指輪を誰が使うのかという事だが・・・。」
「俺は“空間”の指輪が良いかな。」
とスウェイド。攻撃の間合いが伸びるのに引かれるそうだ。
「ならば、わしは“時間”じゃな。」
ドワーフのオイーレは速さが増える指輪を選ぶ。
「ふむ、“物質”か。多少はダメージが増えるのでいいか。」
ハートガントは魔法を使う上での選択になった。
「残った“伝達”か。どれ使ってみるか。」
ウィルヘルムは指輪を装着してその効果を調べ始めた。
「おお、これは!!」
「何かすごい効果なのか?」
とハートガント。
「接触が必要な呪文が、手をかざずだけで良い様になっている。」
微妙に便利になっている。
だが俺達は、この指輪の能力に先があることを知らなかったのだ。