4人の冒険者
世界には数多の塔が立っており、人々はその塔に支えられる島で生活していた。
島より下の空一面に雷雲が連なり、何人たりも地上に降りることを阻んでいた。
地上世界はその雷雲の下にあり地獄だと言われていた。
そんな多数ある塔の島、緑の塔から話は始まる。
塔の島は外輪山を持ち、その中には海や川、大きさによっては湖も存在する。
その海や湖、川の近くに町があり人々はそこで暮らしていた。
ここはそんな町の一つ、緑の塔の町“オールウェイ”
緑の塔の島で唯一、飛空艇の発着場のある街である。
オールウェイにはいくつかの食堂がありその中の一つ魚料理を主に出す食堂“宵町亭”
宵町亭に一人の冒険者が訪れる。
彼の名は“スウェイド”
スウェイドは仕事帰りの夕食をここで取ることにしていた。
宵町亭のドアを開けると仕事帰りの人夫や冒険者でごった返していた。
カウンターには宵町亭のオヤジがグラスを磨いており、スウェイドの姿を見ると親指で部屋の隅を指さした。
「・・・魚野郎が来たぜ。」
「全く、魚臭いったらありゃしない。」
どうやらスウェイドのことを言っている様だ。
だが、腕の立つ剣士であるスウェイドに対して面と向かって言う者はいない。
過去に面と向かって言ったものがいたが軽くあしらわれた上、宵町亭のオヤジにたたき出された。
それ以来、スウェイドに絡む者はいない。(陰口をたたかれるが)
「刺身定食と今日の焼き魚を1つ。」
スウェイドが店で頼むメニューは決まってこの2つだ。
この店魚類はオヤジが朝一番に魚市で仕入れてきたものだ。
毎日、その魚市で一番良い魚を今日の焼き魚にしている。
程なく、ウェイトレスが料理を運んでくる。
ウェイトレスは料理を置くと足早にその場所から立ち去った。
(今日も旨そうだ。)
「ごちそうさまでした。」
食べ終わったスウェイドはオヤジの食事代を払うと足早に立ち去ろうとする。
だがそんな時に聞こえてくるのがウェイトレスたちの声である。
「うゎ。また生魚を食べているよ。」
「生臭いったら無いよねぇ。うへぇ、鱗だよバッチィな。」
「ちょっと、私に擦り付けないでよ。」
ぎろり
ウェイトレスたちは親父に睨まれ静かになった。
(かれらもオヤジさんの様にいつかは判ってくれる。)
スウェイドはそう思うのであった。
通りを出ると、司祭の“ウィルヘルム”が気の弱そうな男を捕まえて何やら勧誘している。
「ちょっとイイですかァ?」
「ははははぃいいいい????」
「アーナタはどのヨウな神を信じていますかァ」
「おおれ、いや私はフリージア様を信仰しています。」
フリージア神、この島では最もポピュラーな女神。恵みの神である。
「Oh!イケませーン。フリージア神は恵みの神ですが他の事には対応できませんーン。」
「ここは主神である、レーア様を信仰すべきなのです。
全ての神々はレーア様から生まれたいわば子。神々の大本なのデース。」
「・・・いやでもそんなマイナーな・・・」
ギロり
「マイナーとぬかすか!!この罰当たり物がっ!!」
「ひいいいいいいいい。」
(あ、まずい。このままだと流血沙汰になる。)
スウェイドはとっさに、
「ウィル。こんなところで何をやっているんだ?」
ウィルヘルムに声をかける。
「む、スウェイドか、私はこの愚か者に真の神を・・・んどこへ行った?」
絡まれた男はすでにこの場から遠ざかっている。
ウィルヘルムは遠い目をしながら呟く。
「ふぅー。わしの目指す信仰はまだ遠い・・・。」
と思えば、突然正気に戻って、
「ところでオイーレとハートガントは?」
ウィルヘルムは訪ねて来る。
宗教家(僧侶)とは気まぐれなのだろうか?
「あの二人なら待ち合わせ場所で喧嘩をしながら待っているだろう。」
スウェイドはいつもの通りだと答える。
オイーレとハートガントはドワーフとエルフという事もあってか仲がいい方ではない。
案の定、いつもの酒場の前で喧嘩をしている。
オイーレが
「何じゃと、小さき内から目をつけるのは紳士の嗜みじゃろう!!」
と言えば、ハートガントが
「いやいやオイーレ君。紳士の嗜みは少女なんかじゃなくて、少年であろう。」
と返す。
種族だけでなく趣味も相いれないのだからすぐに喧嘩になり困ったものである。
(とは言えどちらも変わっていることには違いないのだが・・・。)
スウェイドはそう思ったが決して口にすることはない。
どちらも冒険者としての技量は良い。
その辺りは両者とも相手を認めているので冒険者としてチームを組んでいるのであろう。
と、しばらく傍観していると、当たりに人が集まって来た。
流石にこれ以上、騒ぎを起こすのはまずいだろう。
とスウェイドが考えていると、
「オイーレ、ハートガント、そろそろ中で次の依頼について話をしないか。」
とウィルヘルムが仲裁に乗り出す。
「む、集まったなら仕方ないの。一時休戦じゃ。」
とオイーレが言えば、
「そうですね。ではこの話は後日改めて。」
ハートガントが返す。
この辺りもいつも通りの展開である。
酒場に入る時スウェイドが、
「ところで次の依頼内容は何だ?」
と尋ねると、ウィルヘルムが
「古代地下墳墓の調査だ。詳しくは中では無そう。」
と答える。
それを聞いたオイーレとハートガントは
「「地下墳墓か、お宝のにおいがする。」」
この辺りは冒険者として息がぴったりである。