Chapter 5
メリーゴーラウンドは、きらきら輝きながら真希を待っていた。
僕は、真っ白な馬の一つに、真希を乗せてやった。
あの日、けんかしなければ、本当は二人で乗るつもりだった。
でも、もう僕はメリーゴーラウンドに乗るような齢ではない。
それでも、一緒に乗ってしまおうか、とふと誘惑にかられた。
<だめだよ、そうちゃん>
耳元で、真希の声が聞こえた。
馬の上でお嬢様すわりをして、真希がにっこり笑って僕に手を振っていた。
<まだ、そうちゃんは来なくていいの>
「そうだな。母ちゃんもいるしな」
僕はうなづいた。
結局、再婚もせずに、一人で僕を育ててくれた、少し年を取った、自分の母親を思った。
おもむろに、ゆっくりとメリーゴーラウンドが回り始めた。
真希以外誰も乗っていない、寂しげなメリーゴーラウンドは、にぎやかな電飾を惜しげもなくきらめかせながら、少しずつ速度を増した。
ぐるっと回ってきては、無邪気に手を振る真希に、僕も手を振り返してやった。
僕が今まで見たメリーゴーラウンドの中で、今までの遊園地の思い出の中で、いちばんきれいで切ないひと時だった。
きっかり十三回廻って、突然メリーゴーラウンドの電気が落ちた。
辺りは漆黒の闇と、静寂に包まれた。
遠くで、かすかにセミが鳴いている。
夜明けの近づいた廃園から、僕は家路に向かった。
後日、新聞やテレビでも少し報道したが、むしろ人々のうわさで詳しく知った。
真希を殺したのは、あの義理の父親だった。
彼の一人住まいのアパートからは、ミイラ化した女性の遺体が見つかった。
真希の母親に間違いなかった。司法解剖の結果、胎児も発見された。
彼は、真希の母親の両親が残した遺産目当てに彼女に近づいたのだ。
金だけ巻き上げるつもりが、妊娠が発覚したためやむなく体裁を整えるために籍を入れた。
そのあとで、金品を持ち逃げしようとしたところを真希に見つかり、手にかけたらしい。
ほぼ同時期に母親も手にかけたが、こちらは行方不明のまま真希殺しの犯人に仕立て上げた。妻子をいっぺんに失った不幸な男を演じ続けながら、彼は妻とその胎内のわが子の骸と暮らし続けていたのだ。
いったい、どうして警察は見抜けなかったのか。
そんな、サスペンスドラマの結末は、僕にはどうでもよかった。
新しい父親をいい人だと信じ、慕っていた真希が、その男に手をかけられたとき、どれほど傷つき絶望したか、それを思うとひたすら哀れで悔しかった。
あの髪留めがどうなったのか、ふと疑問に思うことがある。
メリーゴーラウンドの馬の傍らに落ちていて、時とともに朽ちていくのだろうか。
それとも、真希が消えるときに、一緒に持って行ってしまったのだろうか。
だが、真希にとって、あの髪留めは、本当に大切なものだったのだろうか。
たとえ、自分を殺した男に見せかけの優しさでもらったものであっても、知らずにいた時の幸せは、何物にも代えがたい真実だったのか。それとも・・・。
秋になり、裏野ドリームランドはすっかり更地になった。
来年の春には病院と医療系の専門学校が建つらしい。




