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Chapter3

 正門は当然閉まって閂と錠が下りていたが、地元っ子なら知っている、裏山から茂みを乗り越えてこっそり入り込むルートがあった。

 懐中電灯で足元を照らしながら、人気のない真っ暗な林の中を進むのは、さすがにぞっとした。

自分の足音が、まるで誰かが追いかけてくる足音のような気がして、ひたすら逃げるように夢中で進んだ。

園内のアスファルトに足が触れるとようやく少しほっとしたが、もう何年も来ていないし、街灯もなく、闇に包まれ、静まり返った遊園地はまるで初めて足を踏み入れる、禍々しい異世界だった。

それでも、なんとか昔の記憶をたどって、園の中央広場にたどり着いた。

薄暗がりの中、黒々とした何頭もの馬のシルエットが今にも襲い掛かって来そうにおぞましく見える。

僕はいくぶん震える手をのばし、そのうちの一つの鞍の上に、そっと落ちないように髪留めを置いた。

とたんに、ぱっと周囲が明るくなった。

僕は思わず飛び退った。脇に汗がにじむ。おかしい。誰もいないはずなのに…。

メリーゴーラウンドが、きらきらとまぶしく光を放ちながら、ゆっくりと音もなく回り始めた。

馬が上下する歯車のキイ、キイ、というきしむ音が音楽の代わりだった。

 そのうちに、かすかに、夏の微風に乗って、空耳のように聞き覚えのあるワルツのメロディーが耳に入ってきた。

 そして、僕は目を疑った。

 白馬の深紅の鮮やかな鞍の上に、一人の少女が乗っていた。

 十歳ぐらいの、伸ばし始めた髪を無理やり結んで、そこに、あの、ピンクと水色のキャンディをのせて。

 細く切れ長の瞳、すっと通った鼻筋、細いきゃしゃな手足。あの頃は、僕より頭一つ分背が高かったのに、今こうして見ると、ほんの小さな女の子だ。

「真希・・・」

 つぶやく僕を見るでもなく、少女は、九年前に死んだ真希は、うつろな表情で馬にまたがってゆっくりと回っていた。

 まだ、自分が何者か、永い眠りの間に忘れてしまっていたことを、思い出すことが出来ずにいるように。

 それとも、あれからずっと、真希は、こんなもうろうとした夢の中をさまよい続けているのだろうか。

 いつの間にか、音楽はやみ、馬たちも止まっていた。

 人影がひとつ、こちらに向かって歩いてくる。子供の影。真希だ。

 身構える僕に見向きもせず、真希は僕の傍らを通り過ぎ、とことこと歩いてゆく。

 いったいどこへ行こうというのだろう。

 僕は当惑しながら、後に続いた。


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