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Chapter2

「おい、颯太、聞いてるのか?」

「え?」

 小学校で仲の良かった智弘に脇を小突かれて、僕は我に返った。

「だからさ、裏野ドリームランドの廃墟のアブナイ噂」

「七不思議じゃなくって?」

すかさず、詩織が身を乗り出した。

「ああ、そうとも言うか。七つあるんだもんな」

 僕と、智弘と、詩織、そして中学から一緒だった葉月と唯人は、頭を突き合わせて、まるで悪い計画でも立てているかのようにひそひそと話した。

 遊園地で時々子供がいなくなること、出てくると人格が変わるミラーハウス、お城の地下には拷問部屋があり、観覧車から出してくれと声がする・・・。

「学校の階段の遊園地バージョンだな」

「あと、真夜中に誰も載っていないのに明かりがついてひとりでにまわるメリーゴーラウンド」

「うわ、いかにもいかにも、って感じだな」

なんだったら、みんなで夜に行ってみるか、という話も出たが、大学生にとって夏休みはふだんよりずっと忙しい時期だ。遊びに、バイトに、みんなの予定が合わなかった。

 その日も、夕方からバイトだと一人二人抜けると、自然とお開きになった。

 最後に僕と唯人の二人がなんとなく残った。

「・・・さっきの話さ」

 みんなでワイワイしているときはほとんどしゃべらなかった唯人が、二人になって落ち着くと、眼鏡を少し押し上げながら、ぼそっとつぶやいた。

「え、何?」

「メリーゴーラウンドの話。本当は、乗ってるんだってさ」

「誰が」

「もちろん、霊だよ。死者の霊」

「ふうん・・・」

「なんで見えないかっていうと、当然死者はもう肉体がないからなんだけど、もし・・・」

 そう言って、唯人は少し声を詰まらせた。

「・・・もし、死者が生前大切にしていたものがあれば、姿が現れるんだってさ」

「なんだよ、そんな話、どこで聞いたの?」

「ネットでさ、都市伝説、遊園地、メリーゴーラウンド、あたりで検索したらいろいろ出てきて、共通項をまとめたら、こうなった」

 僕はみぞおちのあたりがうずくのを感じながら、唯人に尋ねた。

「でも、死者なんて星の数ほどいるだろ。その、メリーゴーラウンドに乗ってるのは、いったいどんな霊なのかな」

「そうだなあ。この世にやり残したことがあるとか、何かどうしても伝えたいことがあるとか、ありていに言えばそんなところだろうなあ」

 確かに、そうだろう。

 僕は、さっきから頭にこびりついて離れない、真希のことを思った。

 小学校四年生の真希は、この世に何か未練を持っていただろうか。

 きっと、たくさんあったに違いない。

 新しい家、新しい家庭、生まれてくる新しい家族、それらを真希はどんなに楽しみにしていただろう。いったいどうして自分が殺されなければならないのか、真希には全くわからなかっただろう。


 その夜、僕は机の引き出しの奥から、小さい缶を取り出した。

 裏野ドリームランドの売店で、母親をねだり倒して買ってもらったキャラクターの絵の菓子缶だ。キャラクターのプリントはところどころはげている。

いつの間にかすっかりさびついていたふたをこじ開けると、子供のころ大事にしていたレアカードや海で拾った珍しい貝殻、中学生の時好きだった女子からもらった手作りのストラップなどに交じって、それはあった。

 ピンクと水色の、キャンディの形のプラスチックの髪留め。

 真希が義理の父親に買ってもらったばかりの髪留めは、今でも変わらず新品同様につやつやと光っていた。

 今日、これから行こうか。それとも、また明日にしようか。

 そう思っていると、開け放した部屋の窓から突然ふうっと生暖かい風が吹き込んできた。

<そうちゃん・・・>

 耳元でささやく声がしたような気がして、僕は思わずぞわっとした。

<来てよ・・・>

 気が付くと、僕はあの髪留めを握りしめて、玄関を出て、速足で歩いていた。

 三、四〇分、あれば着くだろう。隣町の裏野ドリームランドには。

 八月の深夜、ところどころの木々でまだだるそうに蝉がジイイイ、と鳴いていた。


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