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Chapter1

「ドリームランド、閉園になるってさ。あれ、もうなったんだっけ?」

僕がその話を聞いたのは、大学の夏休みが始まってすぐのことだった。

「先月一杯だったと思うけど」

「ガキの頃何度か行ったよ。あの頃はいつかなくなっちまうなんて、想像もしなかったな」

 久しぶりに地元の友達と駅前のマックで集まっていた時のことだ。

 隣町の小高い丘の上にある、裏野ドリームランドは、僕たちにとってはなじみ深い場所だった。

 小学校も高学年になれば、子供だけで遊びに行ったし、思春期の初デートもそこが定番だった。

 そしてもちろん、家族との思い出も・・・。


 真希と僕は、保育園時代からのつきあいだった。

 どちらも母子家庭で、家が近所だった。だから日曜日にはよくお互いの母親と四人で出かけた。

 真希の母親が再婚したのは、真希が小学校三年生の終わりごろ。

 隣町に住む、電気工事の仕事をしている人だった。少し小柄で、日に焼けた肌の浅黒い、笑顔の優しそうな、真希の母親より一回りぐらい年上の、落ち着いた感じの人だった。

 新しい父親はしばらく真希たちのアパートで一緒に暮らしていたが、やがて真希の母親が身ごもると、隣町へ引っ越すことに決まった。

 転校するんだ、と言いながらちっとも寂しそうじゃなく、とろけるような幸せいっぱいのでれでれ顔の真希に、僕は何だかすっかり裏切られたような気分になっていた。

「お別れの前に、二人でドリームランド行かない?」

 そう真希に誘われて、もう転校手続きも済んだ夏休みに、二人で出かけた。

まだ四年生だったから、子供同士で行くには少し早かったけど、お互い小さいころからきょうだいみたいに育ったし、親が忙しくほっておかれることも多かったので、もちろん反対はされなかった。

「へへ、これ買ってもらっちゃった」

 真希が、ようやく伸び始めた髪をなんとかひっつめて結わえたところに留めた、ピンクと水色のキャンディの形をした髪留めを嬉しそうに撫でてそう言った。

「オ・ト・ウ・サ・ン、に」

「ふうん」

 僕は精いっぱい興味のない返事を返してやった。

「颯ちゃんもお父さん、欲しいでしょ。お母さん、再婚しないの?」

「別に」

 ちぇっ、自分が幸せだからってなんだよ。余計なお世話だよ。

そう思いながら、うまく言葉が出てこなかった僕は、地面の石ころを蹴っ飛ばすのが精いっぱいだった。

 真希の新しい父親の面影がちらっと頭をよぎった。駆け寄る真希を軽々と抱き上げて、肩車をする姿。

正直、羨ましかった。父親の顔を知らない僕にとって、ひそかな憧れを抱かずにいるのは、全くもって無理な話だった。

「今度のうちね、ここの近くなんだ。だから、遊びにおいでよ。私の弟か妹が生まれたらさ」

 そう言われて、僕は急に真希が憎らしくてたまらなくなった。

 食べていたソフトクリームの残りを無理やり口に詰め込んで、僕はのび上がり、真希の自慢したその髪留めをぐいっと引っ張った。

なけなしのポニーテールがほどけ、ざんばら髪を振り乱して真っ赤な顔で何すんのよ!と真希がわめいた。

 僕はポケットに髪留めをねじこみ、速足で歩きだした。

「ちょっと、返してよ!」

「今度お前んちに遊びに行く時返してやるよ。赤んぼの顔もついでに見てやらあ、そんなに見せたいんだったらな」

「ちょっと!あんた、私がうらやましいんでしょ!だからってそんな・・・最低!このクソバカ!」

 泣きべそをかきながらわななく真希の足元には、驚いて取り落とした食べかけのソフトクリームがつぶれて溶け始めていた。

 僕らはそのままケンカ別れして、それぞれ別々に家に帰った。

 威勢のいい活発な真希にはちょっと不似合いの、真新しい髪留め。

 ずっと髪は短くしていたのに、お父さんが長い髪の女の子が好きなんだって、と言って伸ばし始めた髪に、わざとらしくくっついていた。

 本当は、次の日にでも返すつもりだった。

 もし、あんなことがなかったら。

 翌日、真希は自宅のアパートで誰かに首を絞められて殺された。

 そして、真希の母親が行方不明になった。

 警察の取り調べに対し、半狂乱になった義理の父親は、妻が、真希と生まれてくる赤ん坊を同じように愛せるか悩んでいたことを話したらしい。

 真希は、妊娠して情緒不安定になった母親に殺されたのだ。

 そして、真希の母親はどこかで自殺したのか、それっきり行方がわからないままだった。

 真希の新しい父親は、しばらくアパートに住みながら妻を探し、義理の娘の供養をしながら待ち続けていたが、やがてあきらめ、真希の七回忌をすませるとアパートを引き払い、隣町へ引っ越していった。


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