プロローグ
あいしゅう【哀愁】:うら悲しさ。もの悲しさ。哀感。憂愁。
なるほどそういうことだったのか。青年はこの謎の店の看板の「哀愁」の読み方が分からないから、あんなにスマホのコトバンクに必死で立ち向かっていたわけだ。てっきりゲームで当たりのキャラが出ないとか、そんなくだらないことだろうと思っていたが、なかなか勤勉な若者もいるものだ。
すると青年は、店内を面白そうに見回して、ずらりと並んだ玩具の一つを手に取った。青年はじっくりそれを観察するように、プリントされている犬の顔を見つめた。 ....おっと青年、早くも飽きてしまったのか。
玩具を置き、退屈そうな顔をして帰ってしまった。彼の片手には、スマホ。まったく、期待した私が馬鹿だったのか。これだから最近の若造は....
まあ、この店に興味を持って入っただけましと言えよう。なんせここは、時代の変化に抗い、階段をただ下がっているのではない。「温故知新」昔の財産を残し、かつ昔とは少し違った使い方で、時代が流れるのを手助けしている。今や未来を担う者たちに、過去の財産と触れ合わせることで、次の時代のヒントを与えている。枯れた技術の水平思考、である。もっとも、客は老人ばかりなのだが。
今夜は近くで祭りがあるそうだ。この店も屋台を出すらしく、店主が準備をしている。どうせそんなに儲からないとは思うが、子供が物珍しさで見に来てくれたらそれでいい。店主の心優しさが、その細い目から垣間見えた。店主は、小さな看板を手に取ると、ネームペンで大きく、自分の店の名前を書いた。
ーーー新宿レトロ店 哀愁屋ーーー
さあ、お客はどれほど見に来てくれるだろうか。店主は玩具を並べた。