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Mysterahoric [ミステラホリック]  作者: 織鳥
initial symptom
8/14

疑問8.彼らの行き先で何が起きたのか

ここは千智の事務所。ソファーで寝転んでいるのは私こと旭川みくさだ。ゲリラ大雨に、天塩鷲に関する一件二件があったあの日から早一週間が経とうとしている。あのカップルは今まで以上に仲良くなったのがバレバレで、クラスでも周知の仲になってしまった。本人たちが元気にやっているし、構わないそうなのでそれはよしとしよう。それ以外には前と変わったことはなくて、今まであった事件漬けの日々から事件が抜け落ちた感じの日々が続いていた。つまり、おヒマ。

平和なのはとてもいいコトなのだけど、こうもいきなりなにもなくなると刺激が欲しくなってくる。……なんて、考えているらしい脱ぎたがりのアリスは私にその刺激を求めて絡んでくる。


「みくさ!遊ぶわよ」

「遊ぶって、何して?」

「そうね……脱衣麻雀かしら」


二も平常運転らしい。彼女には燃料切れとかないのだろうか。翌日は比較的おとなしかったものの、すぐ私に絡んでくるようになった。一度ノってあげたとたん遊んでくれると認識されているらしく、よくおじさんのセクハラみたいな遊びを吹っ掛けられる。


「そうと決まれば!さっさといくわよ!」

「決まってない!っていうか何処に連れていくの!?」


引っ張ってくる小学生に全力で抵抗する高校生。情けない話のような気もするが、脱衣麻雀のできる家ではないどこかというとすごく危ないような、女子小学生と女子高校生で行ってしまうと犯罪起こされるような予感がするので全力で抵抗しなければいけない。


「駄目なの?」

「駄目。別の遊びにして」

「じゃあ野球拳とか?自宅でできるわ」

「待って」


自宅でできるとかそういう問題じゃなくて、脱衣が問題なのだけれど。


「そんなに脱ぎたいなら素直に脱いで欲しいんだけど……」

「違うわ、脱がせたいの」


真顔でしれっと即答されてしまった。続く言葉が出てこなくなって、まるで論破されたようだった。そして続く二の追い討ちである「冗談、どっちもに決まってるじゃない」にオーバーキルされて、私はもうフリーズしていた。


「……いつも元気だよね、二は」


静かに新聞を読んでいた千智が、私がフリーズしたことに気付いたのか顔をあげて、爆弾を連続で投下する小学生に苦笑いした。それから彼の発した言葉は、本当に意外で。


「ここしばらく謎の種絡みでは何も起きていないようだし、お出掛けでもするかい?」


私も二も目を丸くして顔を見合わせると、ほぼ同じタイミングで「うん」と首を縦に振った。そうこなくちゃ、と立ち上がった彼はというと、さっそく外出の支度を始める。


「え……バスなの?」

「いや、車だけれど」

「免許」

「……えぇと、ボク持ってるんだけどなぁ」

「え?」

「え?」


二にも初耳だったらしい。またさっきと同じく顔を見合わせて、驚きの表情のままになっていた。


「ま、車はレンタルになっちゃうけどね」



千智がカーをレンタルするため、車屋さんに出掛けているあいだ。みくさはふと、鷲の謎と戦ったときのことを思い返していた。


『汝に彼女を傷付ケる覚悟は在ルか』


頭の中に、声が聞こえて。


『しばし眠レ。少し借リるからな』


自分の身体を、彼(彼女?)が使う。

本人は借り受けると言っていたけれど、もしかすると。自分も鷲のように乗っ取られてしまう一歩手前で、私の魂も癒着が始まっているのではないだろうか。

神器・御霊勾玉。正体すら知らないのに行使している『祈り』。あの声が謎そのものであるなら、なぜ自分に名を告げないのか。

名のヒントになりそうなのは詠唱であるが、生憎とひとりでに紡がれるようにすらすら出てくるため、自分ではほとんど覚えられていない。

天にて輝ける女神、だったか。空に関係がある、刀……。


「みくさ、もうそろそろ準備したらどう?」

「ふぇ……あ、うんっ!」


考え込んでいた少女は二の言葉で引き戻される。呆けているように見えたのかなと、みくさはあとで恥ずかしくなっていた。

さっさと自分の部屋に戻って、外行きの服を探す。思えば千智や二とのまともなお出掛けなんてはじめてなのだから、おしゃれしなければ。



「さて、行こうか」


数分後、千智が戻ってきた。それも、コートと同じように黒い車で。なんとなく探偵というか悪の組織のエージェントっぽく見える。

やや小さめの車だが、三人しかいないので簡単に入りきる。みくさがまず助手席に乗り込んで、きっちりとシートベルトを締める。二も同じように後部座席に乗って、すこし手間取りながらも締めるまでを終えた。運転席で千智がハンドルを握り、三人が揃う。


「行き先は!?」

「天空の城とかどう!?」

「無理だね!」

「えー!?じゃあ未開の地!」

「二はいったいどこまで行きたいんだい?」


二がむちゃくちゃなリクエストでふざけ倒し、まともな案はやれ地球for火星だのやれ異世界生活だのが出て、そのすべてがバッサリ切られてからだった。


「……波塗水族館が、いいな」

「水族館かぁ、やっとまともな意見だね」

「ボケないのね」

「みくさは海とか好きなの?」


千智のその問いには、ちょっと言葉を詰まらせて。


「……そこまで好きでもないの。でも、みたまが、ね」


彼女の返答で、車内は後部座席の無知な小学生以外気まずい雰囲気に包まれた。


「水族館ね!途中で水着買わなくちゃ」


その言葉で、うつむいていたみくさの口元にちょっとだけ笑みが見えた。空気の読めない二のふざけっぷりが頼もしく思えたのは、千智にとって初めてのことであった。


「よぉし、波塗水族館だね!出発だよ!」

「おー!」



__ここは、薄暗い部屋。無機質な牢獄を思わせる剥き出しのコンクリートに、壁にはいくつもの手錠や縄が掛かっている。その中にはとても口では言えないような代物も含まれており、拷問部屋にしか見えないほどだ。

中央には、薄汚れたベッドがある。そのベッドの上にだけ蠢く影があり、その周囲だけ明るかった。

明るいのは暗いこと解消のため持ち込まれたスタンドのせいで、ベッドの影の肌色を、鮮明に照らしていた。

照らされているうちのひとりは、瞳に光のみられない少女。そしてもうひとりは、瞳に情のみられない少年。

ただ水音と少年の笑い声が反響する、ふたりの容貌にはとてもそぐわない光景。


「くくっ、はははははは!先杜さんってば……まだつかえるじゃあないですかッ!ははっ、はははは!」


少年の高笑いは、この地下室の外には届かない。先杜と呼ばれた少女の目に望みは欠片ほどもなく、少年にされるがままかろうじて生きていた。少女に助かる未来は見えていないし、そんな考えはとうに忘れている。彼女に乗った彼が事を終えるまで、今日の悪夢は続くのだ。




結果から言うと、千智のレンタカーは見事に渋滞に引っ掛かっていた。

雲鳴では人がいる方へ向かっているとはいえ、ここまでの渋滞はほとんどないような街ののはずなのだが、事実この車の列は先頭が見えなかった。


「なんでこんなに混んでるのよ!」

「たぶん、工事でもやってるんじゃないかな」


やっぱり暇らしく嘆く二。明らかに不機嫌そうで、脇道とかないのかしらとか言い出した。


「脇道……ちょっと遠回りだけれど、渋滞よりはマシな道なら知ってるよ」

「じゃあそっちがいいわ!」


案が出てすぐに賛同し始める二。千智がミラー越しにみくさを見ると、彼女はそれでOKだと微笑んだ。


「よし、じゃあそうしよう。とりあえず離脱しなきゃね」


この直後。閃光が駆け抜けることなど、渋滞にいた誰もが予想できなかった。


バァンッ!!


光と言うよりは、爆発音。晴天下を突き抜ける電が有象無象の車たちに衝撃を与えて、変形させる。それでもドライバーは幸運だったろう。驚く暇もなく潰される未来にある通行人に比べてしまえば、生死というあまりにも大きすぎる差の前に車の損傷など霞んでしまうに違いない。


「なッ、何があったの!?」


千智たち一行はというと、ギリギリで離脱に成功しておりなんとレンタカーは奇跡的に無事だった。


「ああまったく、事件がこんなときに……!」


耐えきれずに探偵が車を急に止め、鍵を握り締めると飛び出していく。


「ちょ、お兄ちゃん!?」

「二ちゃん、待ってて!私が追う!」

「え、みくさまで!?」


ひとり残されてしまった彼女。車が盗まれてしまってはいけないと思って、彼女は残っていることにした。

対して、走っていった少女は。黒いコートの端が見えなくならぬように全速力で探偵を追いかけていた。幸い自分の方が身軽で速いらしく、徐々に距離は縮まっていく。視界の隅には凹まされた車たちと何があったのかと困惑する人々の姿があった。渋滞の列の前でも同じことがあって、それが原因だったのかもしれない。すこしだけ焦げ臭いような気がする、エンジンに何か起きた車もいるのだろうか?

だんだん距離が縮まっていくなか、突然道端で千智の影が止まった。


「……ちさと?」

「見ない方がいい」

「へ?」


先程までとは全く違う声色で、彼はみくさに警告した。視線を辿ってみると、何やら異臭を放つモノが。


「……ひぃっ!?」


見ない方がいいというのも、道中の焦げ臭さも、これのことだった。目の前に転がっているのは、上半身に大きな焦げ目がついており、瞳があるはずの孔からなにか液体が漏れ出してしまっている状態の人間。いや、亡骸だった。

思わず口を抑えてしまうが、そちらはすぐに収まった。ただ、状況を飲み込むのには時間がかかりそうだ。


「二は?」

「あ、えっと、車で、待って」

「ならよかった。さすがに小学生にコレはショッキングだからね」


ごく真剣な顔で、死体をじっと見る千智。みくさが動揺しているあいだに野次馬も増えている。


「まるで電気椅子での処刑だ。この何もない場所といい、あの閃光といい……」


やや早口で、目を丸くしたまま言葉が耳から耳へとすり抜けているだろうみくさに聞かせる彼。


「まったく探偵らしくはないが、謎と考えるしかないね」

「……ねぇ、これからどうするの?」

「追いかけて、捕まえる。いつもと変わらないよ」


すっと立ち上がって言った千智ではあるが、彼に戦闘能力がないのは彼も知っているだろう。それを思い出してなんとか我に返り、あの閃光を追うことを決意する。


「相手の正体はわかってるの?」

「見当はついている、という程度さ。間違っている可能性は大いにある」

「……とにかく追いかけながらにしましょ」


千智の手をひいて、みくさが再び走り出す。今度は、何処へ消えたかもわからぬ閃光へ向けて。




暗い部屋に置かれた薄汚いベッドに腰かける少年。好き放題に扱われていた少女は力無く横たわっている。彼は彼女に気をかける様子などかけらもないまま、ぴくりと何かを感じ取ったらしく目を閉じる。


「……おや。狂犬は放し飼いにしておいて正解でしたか」


半袖のジャージに腕を通しながら呟いて、飛び散った水滴の上に立つ。地下室を出るべく牢獄を歩き、重苦しい扉に手をかける。

彼の瞼の裏に広がる景色へと、狂犬を迎えにいくのだ。

ぎぃ、と音がして、重い扉はゆっくり動き始める。地下室に申し訳程度の光が射し込むけれど、少年が退室してしまってすぐに暗闇へと沈んでいった。

地下室の上にあるのは、いたって普通の家だ。五人の男女で住むには普通に狭く、軒先には小さな看板がある。


「止まりなさい」


少年が迷わずに玄関へ向かおうとしたとき、脇から呼び止める声がした。威圧をふくんだその声の主はまだ小学生ほどにしか見えない少女で、腕を組んで壁に寄りかかっている。


「どうしました?ラムネルさん」


にこやかに答える少年。対する少女、ラムネルは彼の胸ぐらを掴んで、先程と同じように威圧をふくませて続ける。


「イオノに何があったのか。3秒で答えて」

「何もありません。恐らく謎がバグでも起こしたのでしょう」

「へぇ。だとしたら、バグを起こすコードを打ち込んだのは誰かしらね」


少年はすこしの間沈黙していたかと思うと、突然ラムネルを突き飛ばす。短い悲鳴のあとには、ラムネルの「待ちなさい」しか言葉はなく、少年はそのままいつもどおりの歩調で玄関を通りすぎていった。



走りはじめてから、20分ほど。激突した凹み、焼け焦げた痕跡を辿り、テナント募集という看板以外には遮蔽物のない空き地まで、ふたりが到着する。

自らのいるこの場所に何者かが入り込んで来たことを、先客はしっかりと認識していた。その衝突で傷の多い身体をむりやり脚で支え、太陽の刃と向き合うように立つ。


「見つけた……イオノ・サロマ」


先客の名を呼ぶのは旭川みくさ。一度、彼女とは対峙している。だから、様子がおかしいとはすぐにわかった。それは千智も同じであって、眉をひそめてまだ動かない戦況を見ていた。


何なにかが何かが破裂したような音と共に、球状の電が現れる。前回と同じ、イオノの謎。


「わかってはいると思うが、相手は『球電』だ!」


みくさは千智の方をちらりと見て頷いた。意識をイオノと手元の刀、ふたつに集中させ、刀の声を聴くべくしっかりと握る。


『今度はあの小娘の援護も無イ』

「……それもわかってる。力を貸して」


答えはなかったが、みくさには刀身の紅い輝きがその返答だと見えた。燃えるような熱を放ち、刃としての形から勾玉の群れとしての形へ変わって行く。


「『神器・御霊勾玉』」


イオノがついに動き出す。不幸にも周囲を飛んでいたらしい虫がじゅっと焼ける音がみくさの未来もこの虫と同じだと言われているようで耳についた。

それでも勾玉たちは迷い無く向かっていく。周囲の温度が急上昇し、見ている千智の頬にも汗が伝う。


ついにふたつが激突した瞬間。勾玉の温度はさらに上がり、炎の勢いは増した。

しかし、それだけだ。


「え……っ!?」


ただ通り抜けただけ。内部のイオノには当たることもなく、電をかき消すこともなかった。迫るは目が痛くなるほどの稲光、理解が追い付くよりも前に敵がこちらへ追い付いてしまうだろう速さ。


「っ、集まって!」


みくさの呼び掛けはぎりぎりで届く。勾玉たちが再度集まり刀へ戻り、みくさの身体をぎゅんと引っ張って緊急回避させたおかげで、使い手は無事であった。


『……本体に攻撃すべきか』

「そう、みたいだけど……私は……」


あの様子と、前回も操られていたことを考えれば、これがイオノのやりたくてやっていることでないだろう可能性は高い。だとすれば、パトムスキー・クレーターに呑み込まれ、怪物と化した鷲のような状況だろう。

そんな相手を傷つけるなど、好んでしたい訳がなかった。


「だからといって、負けられないの」


脳裏に浮かぶのは、あの焼死体だ。彼女の暴走に巻き込まれた不運な一般人、といったところだろう。あの人のように、誰かを巻き込ませるわけにもいかない。


『……ふ。我が儘な小娘だ』


みくさが宿す謎の種が、すこし笑ったような気がした。


『其レが汝の使命、責務か』


強く頷く。今までみくさに語りかけていた刀身は、静かに紅く周囲を彩る。

誰に教えられたわけでもない言葉が、いくつも脳内に浮かぶ。それらはまるで口から紡がれるのを待っているようで、彼女はそれに応えるのだ。


「我は我が使命を遂ゲる者」


『我は其の標的を貫ク者』


「天にて輝ける女神、その焔よ」


『是の身は其方の如ク、夜を祓ウ』


鷲のとき見せたように、刀身に紋様が現れる。何が刻まれたかは理解できずとも、黒き紋様は千智からもはっきりと見えた。


「あなたの謎は、ここで断つ!!」


「『神器(かむだから)御剣厄切(ごけんやくせつ)』」


球電までは一瞬。相手の反応はずっと遅い。相手がこちらへ動こうとしたころにはすでに、中心にあるイオノの身体へ刃が沈みこみはじめていた。


ぶんっ。


刃が通り抜け、両断された電の鎧は硫黄臭を残して消滅した。

残ったのは衣服がきれいに裁断されている女性だけで、どうやら電を出すことができないらしい。


「千智!出番だよ!」

「ん……あぁ!」


ぼうっと見いっていた探偵は、やっと現実にひきもどされたのだった。


「ほら、はやく!」


新たな力を得たみくさ。千智を急かす彼女の手に、もう刀は握られていない。それは刀そのものが下した判断だろうか、もしくは主だろうか。どちらにせよ……背後のイオノが再び立ち上がるなど、予想していなかった。


「……みくさ、後ろだ!」


咄嗟に振り向いたすぐそこには、身体を燃え上がらせるイオノの姿。炎を纏う腕は、今にも少女に叩きつけられようとしていた。



ずしゅっ!!



「まったく、彼女を傷つけようとするとは。実験台(モルモット)の分際で……生意気ですね」


先程まで燃え盛っていた炎は、すでに少年によって消し去られていた。ただし、イオノの命の灯火を巻き添えにして、だが。彼女の首に沈み込んでいるのはただの市販の刃物だろう。そこから心臓が脈打つと同時に血液が撒き散らされ、空き地にはいつかの屋内のように赤い世界が作られてゆく。


「……!」


みくさは唐突な展開についていけていなかった。さっき倒した相手がまだ倒れておらず、倒れたのはたった今。それも、首に刃物が突き刺さったからだ。

突如、視界に現れた少年。その顔は、いつだか自分を拘束し凌辱しようとした顔だ。


「八雲、なつめ」

「当たりです。旭川みくささん」


自らは血を浴びぬよう離れた場所に立っている彼。だが、そこから彼が指をさした瞬間。どこからともなく岩が3つほど、イオノだったものを取り囲んだ。それらは同じような姿形であり、恐らくそれは彼の謎の種であろう。

岩たちが空き地にゆっくりと下ろされる。そのころ、ちょうど囲まれた死体から何かが飛び出してくる。

飛び出したのは、ふたつのビー玉のような代物だ。ひとつは外側の青白いような淡い黄色。もうひとつは、透き通った赤。

そのふたつに反応したのか、謎の岩はほんのり光ってみせる。すると珠と凶器である刃物がおおよそ物理的に可笑しな軌道で少年の手に引き寄せられていくのだ。


「回収、回収。残念、このふたつなら親和性が高いかと思ったのですが」


凶器の血振りをし、指の間で珠を受けとると笑って見せるなつめ。それを目の前にして、少女は絶句し立ち尽くすしかなかった。もちろん恐怖だとかもあるだろう。でも、これは。


「……嘘。その珠、って」

「おや?謎の種がどうかしましたか。」


なつめも、千智もみくさの言いたいことはわかっていない。けれど。みくさには確かに、思い出していることがあった。赤いほうの珠に、見覚えがある。


それは……いつかの下校中。晴天の道をふらふらと歩いていたみくさ。隣には標がいて。そして、目の前で屈んでなにか気になるものを拾った女の子。


「その謎の種は……みたまが見つけたものと同じじゃない……!」


イオノの体内に、それがあったということは。


『教えてあげる。なんでこんな目にあったかだね。それは、みたまチャンが拾っちゃったこれのせい』


彼女が奪い去ったそれを、なつめが持っているならば。

なつめは『ヴォイニックス・ライターズ』という団体に居る。つまり。

あの、旭川家を血に染めた彼女も、そこに居ると考えるのが自然だった。


「よくわかりませんが、僕は帰らせていただきましょう」

「……っ!待って!」

「嫌ですよ?」


歯を強く食い縛り、なつめの手元を見つめるみくさ。そんな様子を知ってか知らずか、少年のポケットに謎の種はしまわれる。頭をすこし掻いて、彼は撤収しようと後ろへ数歩下がって自らの周囲まで岩たちを引き寄せる。

少女の制止など気にも留めず、ふわりと浮いたなつめの姿は遠ざかっていった。


「千智、戻ってあいつを追わなきゃ!」


呼び掛けられた彼は黙って頷くと、ふたりは車まで大急ぎで戻っていく。どこまで追ってきたのか定かではないが、すでに一時間は経過している。レンタカーのところには、恐らくかなり暇を持て余した二が待っているだろう。


千智とみくさまでもが去っていった空き地では、斜めに大きく赤い線が引かれているだけだ。その理由は一目瞭然で、下だけ見ていても辿っていけば容易にわかる。そうしてたどり着くのは、首に大きく切り傷の入った女性の死体なのだから。

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