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Mysterahoric [ミステラホリック]  作者: 織鳥
initial symptom
10/14

疑問10.アリスは何処へ迷い込んだのか

夜の雲鳴社は静かなものだ。月明かりだけが道路を照らし、暗い中を往く人など見受けられない。残業の明かりがいくらか見える時間帯もあるのだが、今の時刻はすでに午前4時。おそらく、すでに皆眠りについているだろう。

その夜の闇の中、小柄な影は何も言わずに立っていた。


彼女、木古内二には目的があった。石狩千智に従い、八雲なつめを追う理由があった。

奴の居所はわかっている。戦力も、みくさの言っていたとおりならばイオノが消え、ラムネルと協力関係となったならば残るはティアラとなつめのみ。他に隠し玉があったとしても、二は今しかないと思っていた。

それに、もう機会を窺ってはいられない。相手が大きく動き始めたのなら、自分の目的にも関わってくるだろう。

だから。せめて、お世話になっているふたりに迷惑をかけないように。一言だけ、書き残しておく。


『任せなさい』


これでよし、と思った彼女は、まず邪魔なロングスカートを脱ぎ捨てる。大きめのカーディガンの袖を捲る。秋の早朝程度の肌寒さなど気にしない。目指すのは奴等の本拠地。黒い髪を闇へ溶け込ませながら、音を立てぬよう慎重に扉を開ける。


予想通り、玄関前はもちろん付近にも誰もいない。それでも足音を警戒して、目の前の階段から思いっきり飛び降りる。着地寸前で自身にかかる重力を一気に小さくすれば、ふんわりと降り立つことができるのだ。


(待ってて……先杜!)



運悪くの偶然か、それともかすかな音を聞いたのか。数分後、先程まで二のいた居間の隣である寝室ではひとりの少女が起き上がっていた。


「あれ……二ちゃん……?」


こんなに真っ暗なのに、どうして彼女の姿がないのだろうか。念のため時計を確認する。もちろん午前4時ごろ、早朝だ。

確かに彼女はみくさよりも朝早いけれど、ここまで早いものだろうか。隣を見ると、千智はまだ眠っている。彼がいつも一番に起きているのだから……二に何かがあったのかもしれない。

まだオフであろうとする頭を、頬を自分で叩いたその痛みでオンに切り替える。髪を整えているまでの暇はないだろう。大急ぎでパジャマを脱いでそこらに放る。千智の上にかかったりしているが気にしていられない。制服も細かな部分を適当なままにして、着替えながら居間へと向かう。


「これ、って……」


テーブルの上には、彼女の字で書かれたらしい『任せなさい』とだけの置き手紙。彼女がひとりで背負おうとするようなことは何か。どうにかして探り当てようとまだ寝ぼけている脳内がぎこちなく回転する。まさかね、と呟きつつ、みくさもまた玄関の先にたちこめる闇の中へと飛び込んでいった。



二が軽いものが弾んでいくように駆け抜けていく夜道はまったく静かで、危ない男にも女にも出会わなかった。その静謐な空気は、先に事務所を出ていった少女の目的地にも同じこと。『ヴォイニックス・ライターズ』の看板の横をするりと抜け、色まではわからないが決して派手ではない扉の前に立った。

そっと、ノブに手をかけてみる。たやすく回り……たやすく引くことができた。

警戒を怠っているらしい。あるいは、ラムネルか?


「……なんでもいいわ」


罠だとしても、叩き壊して逃げ延びるだけのこと。

靴はさすがに脱ぎ、そっと端に寄せた。周囲をざっと見るが、特に誰もいないし、一般の住宅だろう。二階への階段の奥、上の方を見るといくつもの扉が並んでいる、あれらが自室なのだろうか。

とはいえ、今回は二階に用はない。それどころか、自室で眠っているとすればむしろ悪手だ。

さっさと地下室を探し当て、目的の少年を吐かせなければ。


……ふと。背筋に悪寒が走った。それだけでなく、肩のあたりに何かが触れる。何なのか、首は動かさずに見ようとすると。そこには、暗いせいで蒼白に見える忌々しき姿。


「なつめ……!」

「おや、面識がありましたか?可愛らしい泥棒さん」


咄嗟に跳んで相手との距離をとった。さすがに二でも敵の顎をずっと自分の肩に置かせておくほどマイペースではない。リーフレベルならばいけるだろうけれど。

近寄ってくるなつめに気づかなかったのは探索に集中しすぎたせいか。よりによって、とも考えたがむしろ好都合かもしれない。向こうから標的がやってきたのだから、手間が省けたのだ。


「で、何の用でしょう。こんな早朝に、人の家に忍び込むだなんて」

「目的はひとつよ。木古内先杜を返しなさい」


木古内先杜の名前が二の口から出たとたん、彼の瞳は驚きのものに変わった。だが驚きは一瞬にしてたち消え、代わりに浮かんできたのは笑いだった。


「……っく、まさか……けなげに僕を探してたんですか!?そういえばそうですね、その可愛らしい顔立ちに恥じらいまで薄い格好!思い出しましたよ、木古内二さん」


若干早口で笑いを堪えるなつめ。笑っている、でなく堪えているのは、大声をあげてしまい他の住人を起こさぬための配慮なのだろうか。二は彼に向かって無言で眼光を突きつけるのみだ。


「面白いですね……いいでしょう。先杜さんのところへ案内しましょう」


普通ならば怪しむだろうが、二は唯一の手掛かりにして犯人である彼を逃したくなかった。

仕方なくなつめの行く先へ黙ってついていくと、二階への階段を通りすぎた先で金属の下り階段へとたどり着いた。


「どうぞ?飲み物は出ませんがね」


牢獄のような風景、形容しがたい悪臭。本当にここに先杜がいるというのか。私の、大切な従姉が。もしいるのならば、彼は先杜を何だと思っているのか。まだ地下室へは一歩しか入っていないというのに、胸のうちには今まで抱いてきた憎悪に似た感情が暴れまわり思考回路までをも侵食し始めていた。

また一歩、汚れた空気に身体を差し入れる。少年はすでに中央付近にあるボロボロのベッドまで進んでおり、こちらを気色悪い表情で見つめている。

冷たい鉄の扉がひとりでに閉まる。地下牢は一瞬のうちに真っ暗になって、手探りめいた動きでなつめがベッド横に佇む電気スタンドを付ける。


「……先杜っ!?」


二の目的であった従姉はそこにいた。電気スタンドの灯りに照らし出され、やっとその姿を二に現した。しかし、彼女の呼び掛けに答えることはない。応えられる状況ではない。二にだって一目でわかった。光の失せた、死んだ魚の瞳を見れば誰だって解る。


「なにを、したのよッ!」


記憶にある彼女は、こんな目をするような人ではない。みんなに優しく、みんなと仲が良く。二にだって明るくついてきてくれたはずなのだ。

元より無かった許す気というものが、完全に消え去った。

二の謎が起動する。『オレゴン・ヴォーテックス』、重力を歪める力。今度は謎の力を「木古内二」へとかけるのだ。いま殴りかかろうとする彼女の動きは本来の40kgの重みのもとで成されるものではない。


だが、軽くも重きを孕んだ拳でも届くことはなかった。代わりに砕かれたのは、ただ土を盛っただけの即席の壁だ。一瞬にして現れたのは驚異だが、砕かれればそれまで。壁としての役割は果たせるわけがない。

その代わり。衝撃を受け散っていった土が、ふたりの視界を遮る。一瞬だけだが、撒き散らされた土によってほとんど前が見えなくなってしまった。

その一瞬のうちに地下室で息を潜め続けてきたらしい影が動き出す。


「土生金」


きり、きりり。歯車は回り、散ってしまった土たちより新たな刺客が産み出される。二目掛けて放たれたのは金属の刃だ。研ぎ澄まされた切っ先が柔肌を抉らんと飛び出したのである。通常ならば対応できぬ不意討ちだろう。けれど、本来の数十分の一程度しか重力の働いていない彼女はふわりと回避に成功した。壁際までバックステップし、先程回っていた歯車を睨む。


「ラムネル、だったかしら。こいつまで操ってるわけね」


焦りの色が見え隠れしながらも、なつめにはそれを悟られたくないと取り繕おうとする二。彼女の脳内では思考が入り乱れ、どうすべきかを必死で導こうとしていた。

重力をかきまぜるようにぐちゃぐちゃにしてしまう『不思議の渦』。相手単体への集中、もしくは一定範囲への展開が可能な技だ。前者であれば視認するのみで回避される恐れは薄いが、ラムネルかなつめのどちらかは止められない。後者ならば……先杜が巻き添えになってしまう。今の彼女に、狂わせた空間が耐えられるだろうか。きっと、耐えられないだろう。それに、先杜の気分を、助けにきたはずの自分の手で害するというのはしたくなかった。


「だったら……喰らいなさい、『不思議の渦ユー・イン・ザ・ワンダーヴォーテックス』!」


ならばできることは決まっている。二が指を差すのはラムネルの方向。彼女を地球へ結びつけていた引力が、めちゃくちゃな方向に負荷を加えてふらふらっせると同時に平衡感覚を狂わせる。すぐにラムネルは頭を押さえ、その場にうずくまる。


「なるほど、ラムネルさんを封じましたか」


ラムネルへの心配の素振りなどは見せない。ベッドの傍らの彼は偉そうな態度で、感心したように手を叩く。

この好機を逃す手はないと、少女が拳を再び振りかぶる。


「ですが、貴方はすでに致命的なミスを犯している」

「……!?」


向かっていったはずの右腕は動かない。あと数cmだというのに、ラムネルの動きは止まっているというのに。


「自ら相手の手の上へ躍り出るだなんて。握り潰されないとでも思いましたか?」

「どういうこと!?どうして、身体が!」

「ここは僕の陣地です。貴方はそんな場所へ踏み込んだのですよ」


見えない力に弾き飛ばされ、壁に吊るされた拷問器具たちの群れに叩きつけられる。両手は手首が縛られたように頭上で固定されて、地下室に貼り付けられたように動かすことができない。腕が動かないならば、と二は下着が見えることも気にせずに、必死になつめへ脚を届かせようともがいていた。

なつめは彼女を勝ち誇った顔で見下しながら、目の前で二が囚われても動けなかった先杜の首元を掴んで無理矢理に立たせた。

何をするかと思えば。彼女へ見せつけるように、無抵抗の先杜の腹部へ、全力の蹴りを入れた。


「ごぷ……っ!?」


打撃のせいで漏れた呻き。二の耳に久々に届いた先杜の声は、声にならないものだった。


「やっ、やめなさい!」


声をあげても、なつめは止まらない。もう一蹴り突き刺さる。


「やめなさい、やめてって言ってるでしょう!?」


まだ終わらない。また先杜は仰け反って、呻き声をあげる。


「いや、だめぇっ!」


続けて、今度はパンチだ。二度なつめに届かせようとしてできなかった拳が、いともたやすく先杜の腹へ響いていく。


「いや、やめてっ、やめて!おねがいだから……っ!」


縛り付けられている少女の声はしだいに悲痛なものになっていく。

けれどもそんなことは気にされない。どころか、それを聞くためになつめはいままで何度もいたぶってきたであろう先杜を改めて嬲っているのだ。


「止めてほしいですか?」

「えっ……?」


まるでこの暴行ショーをやめてくれるかのように語りかけてくる。しかし、決して優しい声色ではない。嗜虐心に満ちている。


「止めてほしいのなら……そうですね。純潔を捧げていただきましょう」

「……そんな、こと……!」


嬲られる先杜か、自らの純潔か。相手がこのまま彼女を撲り殺すつもりならば止めるべきなのは明白だが、年端もゆかぬ少女にとって純潔というのは大きすぎるだろう。万が一か、一分の一か。二にその賭けを決断させるには幼すぎた。もっとも、嬲られる彼女も、嬲る彼でさえも同年代であるが。

悩むのも当然だと、黙った二を眺めるなつめ。すぐになにか思い付いたらしく、彼女を鼻で笑うと先杜の頭をがしりと掴んだ。今度の標的は顔面だと、焦りを促す。


「だ、だめ!それ以上はっ、私、なんでもするからぁっ!」

「おや、なんでもするのですね」


なつめの狙い通りに事は進んでしまった。焦燥から出た言葉は、よりにもよって彼が待ち望んでいた言葉だったのだ。


「では。先程いった通りに」


選択肢は一択となった。扱い馴れた先杜をわざわざ殺すより、それをエサにして強気だった二を叩き落とす方が何倍も心地よいのだから、そちらを選ばせるのだ。相手は悔しさに満ちた表情でぎりりと歯を鳴らして、せめて抵抗の意思だけは相手を睨み付けて潰えぬようにしている。


「そんな顔をされましても、これは貴方が招いた結果でしょうに。」


ため息まじりの言葉が、残ったすこしの抵抗の意思とボロボロの胸へ確かに突き刺さった。最後の微かな自尊心が、衝撃に吹き飛ばされた。


「__いいわ。好きにしなさい」


少年の笑みがさらに邪悪を孕んだ。八雲なつめという悪魔の手は、彼女の元より少ない衣服、カーディガンを剥ぐために伸びてゆく。


その瞬間であった。ごとりと、金属が落ちるような音がして、思わず彼は二の服に手をかけるのをやめ振り返った。

するとどうだろう。重苦しかった扉の姿が無くなっていたのだ。代わりに床に散らばった綺麗に切断されている鉄塊がいくつかあって、燦然と輝く刀を手にした少女がそこに居た。


地下牢にいるふたりの理解が追い付かないうちに刀はその姿を変え、刀身のあった場所から火の玉が何個も浮かびはじめる。動けない先杜とラムネルの頬を暖かな疾風が撫で、少女とともに炎が一列となって駆け抜ける。

咄嗟に動き突き出された悪魔の両腕は炎を凌ぐための壁を能力により作り出す。火の玉程度ならばなんとかなはずの壁だが、それでも何度も何度も向かってくるために耐久力はだんだん落ちていく。やがて訪れる炎の列の最後尾。耐えきったと思ったのか、彼は一瞬気を緩めてしまった。


残った火花の中から現れるのは、鍔より上のない刀を携えた少女。今まで壁にぶつかって弾き返されていった火の玉たちは、それらが研ぎ澄まされた刃であったときに在った位置へと集まって行く。

まばゆい閃光が放たれる。刃はその姿をもう一度輝かせ、見えない壁に突き立てられている。それを少女はそっと後押しするだけだ。

たやすく、なつめの謎が破られた。ばりんと出来た隙間から刀が侵入し、彼の頬を掠めて小さな裂傷をもたらした。


「く……っ!?」


謎を貫いた刃は血を振り払うように使い手の側に戻された。

頬を押さえながら、なつめが叫んだ。


「なぜここに貴方がいるのです……みくささん」

「友達を助けに来た」


さらりとみくさは答える。続けて質問をするほどの間を開けず、詠唱もなく静かに彼女は彼女の謎を発動させるのだ。刀を握っていなかった方の手元にも紅き刃は現れる。すでに紋様は刻まれており、周囲の光によって黒く。まるで、太陽の黒点のように。


「『御剣・禍ツ嵐』」


彼女は廻り、そして舞う。

双刀が妖しく尾をひきながら、触れたものを裂く竜巻を巻き起こす。

いつか逆賊へ見舞わせたように、今度は友人を傷つけようとした者を退けるために雨嵐は体現される。

放たれ続ける斬撃の衝撃波は、壁が柔らかな素材だったと錯覚するほどたやすく切れ目を張り巡らせる。

だんだんと、斬撃が上空へ向けて吹き荒れるようになっていく。天井も壁にかかった器具もボロのベッドも電気スタンドもコンクリートも等しく紙に同じ。ただ材質が多少異なるだけだ。何もないのと同じであるかのように、手応えもなくするすると切れていくのだから。

細い腕を張り付けていた拘束も切り裂かれ、やっと二が解放された。風に耐えながら周りを見ると、誰も傷ついていないのだ。

確かに、なつめの愛用する地下室が裂かれているしみくさによって頬の傷は作られた。けれど、なつめ本人も、ラムネルも、先杜も、二も。誰にも、この嵐は傷を作っていない。


やっと嵐が収まったのは、崩れる天井さえも塵と化した後であった。


「二ちゃん、その子を連れてきて」


倒れている先杜を指して、刀を何処かへやってしまったらしい彼女はいう。


「私はラムネルさんを背負うから、ね」


何も言わずに二は頷いた。痣や血のすこしにじむ彼女を抱き上げなんとか扉のあった場所へ連れてゆく。

対して、ここは僕の陣地だとまで言っていたはずの彼は、ひとり取り残されたようにただ呆然とふたりが少女たちを連れ去ってしまおうとするのを見ているだけだった。ラムネルへ手が伸びそうになったけれど、その手はみくさに邪魔されてしまった。


「待っ、それは、僕の……」

「傲らないで。先杜もラムネルも、貴方のものなんかじゃない」


解放された二の目には詰め寄ったときの強気が戻っている。

時刻は5時ごろになっただろうか。ここは地下室だというのに、上を見れば暁の空が広がっている。

やはりまだ肌寒い冬の早朝へ、みくさと二は脱け出した。



夜が明けきった朝6時。事務所まで帰り着いて、連れてきた少女たちを寝かせておいたみくさと二だったが、今は床に正座して千智の説教を受けていた。かれこれ数週はしているだろうか。


「まったく無茶をするんだから。いいかい、もしみくさが間に合わなかったら!」


またサイクルが始まったのでついに痺れを切らし、二は言い返そうと口を開いた。


「わかってる、わかってるわよ!でも先杜を……!」

「だったらボクたちに言ってくれよ!ボクだって力になりたかったんだぞ!?」


返ってきたのは彼の本音であった。戦えないからといって、ずっと蚊帳の外では気が収まらない。人探しは探偵の仕事だとも言いはじめ、なんかめんどくさそうだと思ったみくさが割って入って止められた。おたがいにまだ何か言いたそうだが、話題を変えたい。みくさだって、同じようなことが繰り返されていれば飽きる。


「ええと、どうしてあの子はこんなことに?」

「……先杜は、私の伯父の娘、つまり従姉なの。彼女の方が年上」


聞かれた二は、正座だとつらかったらしくまず立ってから答え始めた。

二の性格からしてなかなか友達は増えなかったため、学校も違うのにいつも先杜と遊んできたという。まぁこんなテンションと脱衣に耐えられる子は少ないよなぁと聞かされている2名は納得する。


「何よ、その顔は」

「なんでもないよ、続けて」


まだ怪しいと思われているようだが、千智の言う通りに特に突っ込まず彼女は話を続けるらしい。


「ある日のことよ、彼女のクラスメイトが遊びに来たの。それだけなら珍しくもなかったし、私にはどうでもよかったんだけど」


ふたりでいるはずの部屋から悲鳴が聞こえてきた、という。二が駆けつけると、彼女が連れてきた少女は気を失っており、なにやら先杜を追い詰めている影があったのだ。自分の従姉が怯えていると理解した二は、その謎の少年に飛びかかった。


「結果はダメ。この能力もここまで使えてなかったし……先杜は連れ去られてしまったの」


それから必死で探し回って。伯父は警察に行ったようだが、何週間経ってもまったく進展はしていないようだった。唯一の手がかりになったのは、意外にも近所の友人。士別リーフだったそう。


「彼女に話した……三日後ね。『八雲なつめ』っていうらしい少年の写真をリーフが持ってきたの」


彼女が三日後にもう成果を持ってくるなど珍しいことだった。どうやって調査したのか聞いてもはぐらかされてしまったが、居所や素性まではわからないとも言っていた。


「で、それ以降有力な情報はなかったわ。沼田が事件を起こして、あなたたちに出会うまで」


同じ幼女の誘拐事件だということで、あの笛吹男事件のことも気になってはいたらしい。


「なるほど。それでボクに絡んだんだね」

「いいえ。黒いし暑苦しい不審者がいたから、涼しくしようと思っただけよ?」


二の話は終わっているらしく、彼女はソファに座ってテレビのリモコンを手に取った。朝のニュースが点いて今日のお天気の予報が映し出される。

その動作を見た千智は思い出したように台所へ赴いて朝食の準備をはじめる。早朝から動いていたので忘れかけていたけれど、まだ朝6時なのだ。

意識したとたんに眠気が襲ってきたので、みくさはまず目覚ましに顔を洗ってくることにした。

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