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Mysterahoric [ミステラホリック]  作者: 織鳥
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疑問1.なぜ物語は幕を開けたのか

清々しく晴れわたる空の下、明るく照らされる校舎。時刻は14時過ぎで、教室では帰りのHRがいま終わったところだった。


「じゃあ、また明日。」

「うん、またねー!」


今日あったことを駄弁りながら校門まで並んで歩く少年少女たち。

そのうちの一組、それぞれ少女が『旭川みたま』、少年は『音更なごり』というのだが、そのふたりがちょうど別れたところだった。目的地は逆方向で、みたまはこれから行く場所があるのだ。



場所は変わって、ここは雲鳴市立雲鳴社南高校。ここ雲鳴市の支える、雲鳴社町の南にある高校。

此処こそがみたまの目的地。自分よりずっと背の高い校門についた、校長らしい銅像の影で人を待つ。


「…みたま、何してるの?」


驚かせようと隠れてこそこそしていたのに、たやすくばれてしまった。ちょっとがっかりしながら、待っていた人の前に出る。


「みくさお姉ちゃん、そこはのってくれてもいいんじゃないかなー?」

「…ノリ悪くてごめんね」


みくさお姉ちゃん、というのは、目の前の女子高生は『旭川みくさ』。そう、みたまの姉なのだ。

今日は高校が早く終わると聞いて、急いでやってきたのだった。


「あ、みたまちゃん。今日もかわいいね~」

「あ、ありがとう?」

「…妹を口説こうとしないで、標」


屈んでみたまに絡んでいこうとして、お姉ちゃんストップを食らったのは『深川標』。みくさのクラスメイトで唯一の男友達。彼の家は旭川家のすぐそこだ。


三人でお喋りしながらふらふらと晴天の道を歩いていると、途中でみたまが何か見つけたらしい。


「…?なんだろ、これ。」

「なんだぁ?ビー玉?」


拾い上げてじーっと見つめる。珠は綺麗に透き通った赤色で、それを通した空は夕焼けにも見える。


「きゃっ!?」


突然、衝撃とともに珠が消えた。

みくさたちはみたまの悲鳴にびっくりしただけだったが、みたま本人は何やら熱を感じたらしい。


「よくわからんが、気にするだけ無駄だと思うぜ?」

「そうかなぁ…」

「と、とにかく帰ろう?」


姉にそっと背中を押されて、帰宅に戻るが、お喋りはずっと少なくなっていた。そのままなんだかきまずい雰囲気でずんずん進むと、標が顔をあげた。


「ん、じゃあ俺はこれで。」

「あ、ま、またね!」


ぎこちない笑顔で標を送り出して、もう家が近いことをみくさは思い出した。


「ねぇ、お姉ちゃん。」

「ど、どうしたの?」

「帰ったらさ。いっしょにゲームしない?」

「えー、みたま強いしなぁ…」


せっかくいっしょに帰ってきたんだから、と話題を作ろうとするみたま。効果はあって、雰囲気はだいぶ明るさが戻ってきた。



「ただいまー!」

「ただいま」


そう言ってドアをあけたふたりを迎えるのは、優しい声。

旭川家の両親の声が、食卓のほうから玄関に響く。


「あら、おかえりなさい」


母のかがみ、専業主婦。料理の腕は家族内だけでなく、ママ友のあいだでも好評だとか。趣味はケーキ作り。

みくさは彼女の体型を継いだのか、母子揃って発育がいいらしい。


「おかえり、二人とも」


父のヤマト、中学教師。みたまはよく勉強を教えてもらってる。とはいえみくさも少し前までは彼に見てもらっていて、友人との勉強会に付き添ってもらったりしていた。


「今日のおやつはー?」


今の時刻は3時前。いつもなら、もうかがみが準備していてもおかしくないのだが、食卓に向かうとふたりとも座ってスマホをいじっているだけだった。


「そうねぇ、今お母さん…イベント走らなきゃ…みくさ、お買い物頼めるかしら」

「……えぇ。」


ポチポチと画面を何度もタップしている母に、おつかいを頼まれる。

たぶん、今頃は秋だから、なにかイベントなのかもしれない。


「じゃあ、行ってくるよ…」

「えー!?お姉ちゃん、みたまとの約束は!?」

「おやつ、食べたいでしょ?」

「むぅ…絶対、忘れないでよね」


ふくれる妹を必死になだめるみくさ。それをほほえましく見守る父は、懐から財布を取り出した。


「材料はわかると思うから、お金だけ渡しておくよ。5000円で大丈夫?」

「えぇ、お夕飯のぶんも任せるわ」

「だってさ。はい、みくさ」


5000円札を渡されて、学校かばんからお財布を取り出してそっと入れる。

制服のままだが、わざわざ自分の部屋まで行って着替えていくのも面倒だし、そのまま行けばいいかなと思って玄関へ。

名残惜しそうについてきた妹に、いってきますと声をかけて、まだまだ日の高い外に出た。





みくさが出掛けたあと、すこししてからインターフォンが鳴った。

父が応対のため、ドアを開けてみると、そこに立っていたのはにこにこした女性だった。


「…どうされました?」


やや不気味な態度だな、宗教勧誘とかじゃなきゃいいな…と思いつつ、聞いてみるヤマト。


「ちょっと、娘サンにご用事でね。だからちょっとさ。」


ずるり


ごとん


「…退いてくれる?オトーサン。」



「…あら?あなた、いったい何の…きゃぁああああああッ!?」


かがみが見に行くと、そこにあったのは血の池とやけに綺麗な切断面をした首のない死体。首の側も近くに転がっており、その顔は先程応対を任せた夫のものだった。


「い、いや、なんで、どうしてッ」

「そう取り乱さないでよオカーサン。」


パニックになるかがみ。だが、目の前の不審者はゆらりゆらりと近づいてくる。

台所に目を移し、どうにか包丁などで追い払えないかと思ったとき。


「ほら、大丈夫?おっぱい揉もうか??」


耳元で、そんな声がして。


ずるり


何が起きたのかは理解できなかった。視線が突如低くなって、まるで床に投げられてバウンドするボールになったよう。


「うふふっ、カラダの方はユウコウカツヨウするから、許してネ!」



生存者は、殺人者の女性ともうひとりいる。悲鳴をききつけて、一部始終を影から見ていた少女。

彼女にも、魔の手が迫る。


「あんれぇ、何見てるの?」

「……ッ!?」


気付かれたと、みたまの身体に悪寒が走る。

現実を受け止められない混乱と、両親が目の前で殺されたという絶望と、何よりも生存本能が悲鳴をあげていた。


「うふふ、本命チャン、みーっけ!」


にっこりと笑みを浮かべて、隠れていた場所に顔を出す。

だが、そこに本命チャンの姿はなく、女性は目を丸くした。


「……あるぇ?」

「みたまは、ここにいるよッ!!」


手を炎に包み、女性に飛びかかるみたま。女性は不意をつかれ、避けようとするも髪の一部が焦げてしまった。

さっきよりずっと嬉しそうな顔になって、女性はゆらゆら不気味に揺れる。


「やっと、やっと!やぁっと見つけた…!嬉しい、嬉しいよ、みたまチャン…」

「……お父さんとお母さんに、何をしたの…!?」

「ん?んー、これからみたまチャンがされることと同じだよ」


突然のことで回避行動をとれなかったみたまに、女性の手が触れる。すっ、と首元を横になぞった。





「……え?」


いちごと牛乳パック、大根、その他諸々でいっぱいになった買い物袋が玄関に落ちる。


「ま、まって。何よ、これ」


買い物帰りのみくさを真っ先に出迎えたのは、血の池だった。

沈んでいるのは、綺麗に首を切断された父だったモノ。


「夢、だよね。夢だよね。嘘。何。どうして。何が。」


ぶつぶつ言いながら、靴下に血がついて、赤く染まり、血が跳ねて壁に水玉が描かれるのも気にせず、食卓へと向かう。そこでも、玄関と同じ光景。


「…うそだ。こんなの、ぜったい、なんで、なんで私が、こんな!」


「教えてあげよっか?」


背後から突如声がした。危ないと感じて身を低くして、ぐるりと声がしたほうを向く。

すると、自分の首があったところを女性の手が横切っていた。


「うふふ、避けられたんだね。おめでとう。教えてあげる。なんでこんな目にあったかだね。それは、みたまチャンが拾っちゃったこれのせい」


下校中に拾っていた、小さな赤い珠。それと同じものを、目の前の女性は持っていた。


「ね、わかった?」

「わかんない、わかんないよ…」


うわごとのように呟き、一歩一歩迫ってくる女性に怯えるみくさ。

その脳内に、声が響いた。


『憎イか』


「…い、いきなりなに…?だれ…?」


『我は汝が剣と成ル者』


「剣…?」


『生キタイか』


「……生きたいよ…死にたくないよ…」


『ならば我を執レ』


「あなたを…?ど、どこにいるの…?」


『我は汝が内に在リ。さあ望メ、汝が剣を!』


謎の声と会話しているあいだにも、距離はどんどん縮まっていく。恐怖で狂ったと思われているのか、女性はただ笑っているだけだ。


「そろそろ…楽にしてあげる」


そっと、手を出した。

すっと、手が触れた。


さっと、手は落ちた。


「…あれ?」


みくさの手にはどこから持ってきたかわからない日本刀が握られていた。刀身は太陽のように赤く、そして揺らめいて見えた。


「な、何!?まさかこの子も"持ってた"っていうの!?」


大きく後ずさり、逃げようとする女性。追うほどの気力は残されていなかったみくさは、その場に膝から崩れ落ちた。剣はすでにどこかへ消えて、どこにも見当たらない。


「……お父さん…お母さん……みたま…」



大声をあげて、泣きわめく。ただ泣くことしかできない。

悲鳴を聞き通報されたのか、数名の警官が立ち入るまで、ただ泣き声だけが家にこだましていた。

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