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第05話『NSAは電子攻撃を開始する』

 同時刻。同じ北米大陸のどこかで。


『全欧州のルーティングマップを固定。ターゲットを確定』

『支配可能率89%、無効化可能率7%、孤立化可能率3.5%。

 最終攻撃不能率は0.5%になります』

大陸間インターコンチネンタルルーティング、切断準備よろし』

『海底ケーブル網の制圧準備、問題なし』

『長官、全行動の準備完了です』

「うむ」


 訓練され尽くし、もはや機械と変わりないほど精確に報告する部下達の言葉を受けて、重々しくロバーツ陸軍中将は頷いていた。


(そう、準備はすべて終えた……)


 部下達の瞳を彼は見る。表向き、感情を読み取らせない色だ。

 灰色の、しかし虚無や白色ではない、情報部員として理想的な色だ。


(ここにいる全員が……我々がこれから為すことの意味を理解しているだろう)


 そうであれば、一人か二人くらい激しい動揺を示すものがいても良いものだが。

 映画のワンシーンのように取り乱し、怒号を上げて作戦中止を迫る者がいても良いものだが。


(そうした例外がいたとしても……)


 責めるつもりすら、陸軍中将にして長官である彼にはないのだが。


「これから我々は歴史に類例のない破壊者になるのだな、副官」

『ええ、長官。しかし、これは歴史に前例のないスマートな破壊です。

 そう、スマート……美しいまでにスマート(頭がいい)です。

 この破壊を為すのは、狙いを定めて正確に落ちる爆弾でもありません。巻き添えを極力出さない、最小限威力の貫通弾頭でもありません』

「だとしても、正直なところ私は気が重いよ。君も、皆もそうだろう?」

『行動を始めるにあたり、葛藤は必ず生じるものです。

 長官、私はこう考えるようにしました。同じ大戦争なら、1gでも火薬を少なく、1kgでも鉄を節約し、そして1ktでも小さい核兵器が使われるべきでしょう。

 結果として、1人でも多くの者が死なずに済みますから』

「……電子攻撃だけが、それを実現すると?」

『イエス。我々の攻撃はそのように歴史が評価するでしょう。

 恐れずに実行しましょう。正義は我々と共にあります』

「………………」


 迷いのない瞳で、

 しかし確かに心へ訴えかけてくる情熱を持って副官はそう言った。


 だが、ロバーツ中将は迷う。中将にして、長官であるロバーツは疑う。

 確かに自分はこの組織の最高責任者で、彼は部下であるかもしれない。しかし、実のところは……監視されているのは自分で、監視するのが彼ではないか、と。


(最後の段階でためらったりしないように、こんな情熱的な脚本を考えた誰がいるのではないか……と)


 そのように米国家安全保障局(NSA)長官であるロバーツ中将は思ってしまうのだ。


「行くも地獄。退くも地獄、か」

『いいえ、我々は等しく天国へ導かれるでしょう』

「せめてそう信じるとする」


 逃げ場を封じるように副官がロバーツの肩に手を置いて、力を込めた。その握力から感じる以上の巨大すぎる何かが、彼の背後にはあるように思えた。


(どうせ……今さら引き返せんのだ)


 たったひとりの人間に過ぎないロバーツが、そんなものに逆らうことなど出来るだろうか。

 否、出来るはずもない。


「攻撃開始!」


 結果として彼は予定通りの指示を下す。副官の表情が歓喜に染まる。


「エシュロンシステムを監視モードから攻撃モードへ切り替えよ!!」

『攻撃開始。全欧州のネットワークシステムを『支配』します』

『攻撃開始。『支配』できないネットワークシステムを『無効化』します』

『攻撃開始。『支配』『無効化』できないネットワークシステムを『孤立化』します』

『攻撃開始。『攻撃不能』なネットワークシステムをあらゆる手段でモニタリングします』


 そして次の瞬間。

 欧州のあらゆる電子ネットワークは、豆粒ほどの例外を除いて、全面的にダウンした。

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