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第33話『ドローン・スマート・ボムVer NT』

 アウグストドルフ演習場の上空高度10000m。


 B-21戦略爆撃機によって投下されたのは、DSBドローン・スマート・ボム Ver NTと呼ばれる特殊兵器である。


 元より、DSBドローン・スマート・ボム自体が今回の戦いで初投入となるが、Ver NTはそれをさらに高度化・単一目的化した特殊兵器である。


「欧州統合軍の連中もかわいそうなことだが……なに、黙って動かずにいれば、怪我くらいで済むさ……」


 離脱するB-21戦略爆撃機の中で、ぽそりと呟いたのはブリテン島基地での補給と休憩を終えて、再出撃してきたマモラ中尉であった。


 DSBドローン・スマート・ボムの利点は、その人工知能シーカーにより、最小効率で最大破壊が可能なことである。


 これはディープ・ラーニング技術によって支えられた、きわめて高精度の目標識別能力に基づいており、汎用性がきわめて高い。

 送電線の接続ボルト1本を狙うこともできれば、人間ひとり、あるいはハイウェイを走る車列の中から、特定メーカーのクーペだけを狙うことも可能なほどの識別能力を持っている。


 ━━であるならば?

 ━━そのように汎用性が高いのならば?

 ━━わざわざDSBドローン・スマート・ボムを単一目的化する理由は何か?


『隊長! 本車にむかって何か飛んできます!』

「……速いぞ!!」


 いち早くレオパルト3戦車に乗り込み、21世紀におけるセンサー技術の結晶とも言える砲手サイトをのぞき込むヴァルタザール中尉。

 対して車長たるミハエル大尉は、遠い昔のティーガー戦車乗りがそうだったように、砲塔から顔を出して、空から凄まじい速度で押し寄せてくる『虫』のような兵器を双眼鏡で見た。


 いや、無論それは虫ではない。

 まだまだ距離が離れており、速度がはやいためにそう見えただけだ。


 ミハエル大尉とヴァルタザール中尉の脳内ニューロンが、自己の経験と推測にもとづいて、人間らしいありきたりな判断を下してしまっただけだ。


 だが、もし彼ら自身の肉体が高精度のセンサーと強力なニューラル・ネットワークを備えた人工知能を備えていたならば、それが小型の飛行物体━━つまり、ドローンであると、正しく認識しただろう。


(……なんだあれは?)


 蠅は、あるいはトンボは。

 人間の目からみると、凄まじい速度で飛び、そして急停止するかのように、何かの上へ降り立つ。木の枝にも、草の一枚に掴まることもできる。


 その時、ミハエル大尉の目の前で━━そう、比喩で無く、(マーク1アイボール)の前、ほんの数メートルの距離で、彼らのレオパルト3戦車が誇る140mm砲に取り付いたドローンもまた、虫があっという間に飛来するほどの速さで近づき、そして停止した。


『……これは?』


 そして、ミハエル大尉が手を伸ばせば届きそうな位置にある物体を、正しくドローンであると認識し。

 砲手サイトをのぞき込むヴァルタザール中尉にとっては、視界を覆い尽くすほど巨大な無人飛行ユニットであると思った、その瞬間━━


 それは爆発した!!


「っ……!! く!」

『大尉!』

「だ、大丈夫だ!」


 頬をかすめていった金属片の感覚をミハエル大尉は感じる。反射的に顔をかばおうとした腕は役に立たなかったが、どうやら顔の前で構えていた双眼鏡が、いくらか目を守ってくれたらしい。


『ば、爆弾だったとは……』

「ああ、驚いたな。

 だがな! こんな程度の小爆発で俺達のレオパルドは━━いや待て、ヴァルタザール!!」


 小さな噴煙はさわやかなドイツの風に吹き流され、すぐ消えた。

 そして、その瞬間、ミハエル大尉はすべてを悟った。


(やられた!!)


 ああ、ヴァルタザール中尉は正しかったのだ。


 これはまさに敵だったのだ。恐ろしい素早い。そして、どうすることもできない難敵だったのだ!!


 レオバルト3は傑作・レオパルト2戦車の発展改良型である。


 日本の10式戦車にならって、極限までアクティヴ・サスペンションシステムの活用と複合装甲の改良に注力した結果、140mm砲を搭載しながらも、その重量はレオパルト2戦車に比べて数トン増しでしかない。


 むろん、国家間の大規模紛争が消滅しつつある時代でもあり、かつてのように輸出で馬鹿売れとはいかないのだが、それでも欧州統合軍の中核装備であり、21世紀前半における最高傑作の声も高い戦車なのだ。


 ━━だが、その車長であるミハエル大尉は、こう言ったのだ。


「やられた!! くそっ、これでこいつは終わりだ!!」


 上面装甲もぬかりなく重厚に設計された、レオパルト3の砲塔へこぶしを叩きつけながらミハエル大尉は叫んだのだ。

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