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第19話『ハンブルグ空港は襲撃される』

「……なんだあれは?」


 その時、ハンブルク空港に勤めるカーデン航空管制官は同僚のウルフ管制官と共に、突然発生した停電と通信障害の対応に追われている最中だった。


 幸いにも時刻は深夜であり、離発着機はおろか滑走路へ向かって移動中の機体すら存在しなかった。

 だが、当直勤務だった彼らはハンブルグ空港の上等な仮眠施設からたたき起こされて、自家発電設備を起動したところだったのである。


 もっとも、発電設備の容量は限られているし、そもそも離発着は終了している。滑走路や空港施設内の照明は最小限だ。

 空からゆっくりと降ってくるそれ(・・)を見つけようにも、たまたまカーデン管制官の夜間視力が優れていなければ、気づきもしなかっただろう。


「あれは……パラシュートだぞ?」

「俺にはよく見えないな。雲じゃないか?」

「いや、間違いない」


 同僚のウルフ管制官の疑問に、はっきりと首を横へ振ってカーデン管制官は闇に目をこらした。


 そう、それはパラシュートであった。

 しかし、黒い。真っ黒なパラシュートである。


 管制官の本能で彼はレーダー画面を見る。自家発電のみの状況では、ハンブルグ空港のレーダーも限定的な動作しかしていないが、周辺にあやしい機影は見つけられない。


(いや、待て。あれがパラシュートなら、レーダーに映るはずがない。

 布はレーダー波を反射しないからな……)


 そして、カーデン管制官がそんな当たり前のことに気づいたその時。


「おい、見ろカーデン!」


 ウルフ管制官が叫んだ。カーデン管制官はレーダー画面のディスプレイから、はっと顔を上げる。


 炎だった。いくつもの赤い炎が真っ暗なパラシュートを照らし出す。

 かと思うと、炎はそのまま真下━━つまり、ハンブルグ空港の滑走路へ突き刺さった。


 爆発の光は4つほどあるように見えた。

 そして数秒ほど遅れて、複数の爆発音が折り重なったハーモニーとして彼らの鼓膜を震わせる。


「滑走路で爆発だ!! くそっ、テロだぞこれは!」

「なんてこった!」


 カーデン管制官もウルフ管制官も、大変なことが起こったのだと直感した。管制塔に備え付けられている緊急事態ボタンを思い切り押した。


 けたたましいベルが鳴り響き、赤いランプが回り出す。

 それは非常事態を知らせるサインだった。訓練で何度となく繰り返しつつも、現実に遭遇することはないだろうと、高をくくっていた事態だった。


「室長に連絡だ! それと仮眠中の奴らをたたき起こすぞ!」

「慌てるな……慌てるなよ、カーデン、そして俺。

 警察にも自動通報されてる……あとはターミナルで夜を明かしてる客がいたら、退避させればいいんだ……そうだよな」


 走りだすカーデン管制官。自分を落ち着かせようとするように、非常時の対処マニュアルを繰り返し呟くウルフ管制官。


 だが、彼らは知らなかった。

 電話で室長へ連絡をとることはおろか、警察や行政への自動通報もまったく働かないことを。


 そして、彼らは気づかなかった。

 複数の爆発がある規則性を持っていたことを。狙い違わずある場所で起こっていたことを。


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