第18話『巡航ミサイルは飛ぶ。遠く、遅く、しかし確実に』
所は変わって大西洋上。
『SSAN フランクリン・ブキャナン』から放たれた数百発の『トマホーク2050』巡航ミサイルが欧州大陸へ向かって飛翔を続けている。
もし、海の上から観察する者がいたとすれば、黒いごま粒が空を飛んでいるように見えたかもしれない。
『トマホーク2050』巡航ミサイルは当然のようにステルス性を備えている。しかし、B-21戦略爆撃機のような絶対的ステルス性ではない。
あくまでも既存の航空機・ミサイルにくらべて、レーダーに発見されにくい、あるいは小さな物体として映るという、相対的ステルス性である。
兵器としては劣っているように見えるが、そもそもステルス性など考慮していない、元祖トマホーク巡航ミサイルの発展型として生まれた以上、これは仕方ないことかもしれない。
黒塗りの『トマホーク2050』ミサイルは、ジェットエンジンユニットを除いて、カーボンを多用した非金属系素材で構成されている。
エッジ部を極力廃した結果生み出された、のっぺりとしたフォルムにくわえて、外殻に製造時から組み込まれた、CMCが飛んでくるレーダー波を減損・吸収してしまうのだ。
むろん、レーダー波を減損・吸収するといっても、完全ではない。跳ね返ってしまう電波はあるし、『そこに何かいる』ことを隠せるレベルではない。
それが相対的ステルス性というものであり、一言でいえば『トマホーク2050』巡航ミサイルは実際の大きさよりも1/10ほど小さな物体として、レーダースクリーンに映る。
たとえば、F-22戦闘機にくらべてラファール戦闘機が探知されやすい程度に。
そしてB-2爆撃機にくらべてB-1爆撃機が探知されやすい程度に。
空を飛翔する大量の『トマホーク2050』は、欧州全土のレーダー網にしっかりと引っかかっていた。
だが、それだけだった。通常ならば、何らかの警戒態勢が取られるはずだった。しかし、それは機能しなかった。いかなる命令も、情報共有もなされなかったのだ。
━━その秘密こそがB/QB-21爆撃機による、DSBの攻撃であり、そしてNSAによる電子攻撃であった。
現在、電力供給網や無線アンテナ・タワーといったインフラのチョークポイントを集中して攻撃したDSBによって、欧州全土は歴史上最大の停電にみまわれている。
そう、停『電』である。それは停『電力』であり、そして停『電波』でもあった。
テレビ放送も、携帯電話やスマートフォンと呼ばれた機器を統合した『THE・フォン』によるパーソナル通信も、あるいは行政の整備した防災無線網ですらも、DSBはきめこまかく攻撃していた。
僅かに送電線が絶たれただけで。変電所で小さな爆発があったただけで。無線アンテナに舞い降りた賢いドローンが自爆しただけで。
E連合全域は事実上、あらゆる攻撃に対して無防備になっていた。
それを復旧することは十分可能だった。
しかし、神が導いたとしても数時間。常識的には数日。付随して発生するであろうトラブルを考えれば、完全復旧まで数週間はかかるはずだった。
━━その『空白』の時に。
無数の『トマホーク2050』巡航ミサイルは欧州上空へ達した。
そして、外殻がばらりと砕けた。DSBが出現する。あるいは、堅固な大型レーダーを破壊するための古式ゆかしき誘導爆弾が出現する。
さらに、今……ハンブルグの空港上空では。